感情
作者: 戦舟   2011年11月13日(日) 00時09分53秒公開   ID:T2SlLVuuolI
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機械化母星メーテル。不老不死の機械の体を宇宙全体に提供する巨大な工場惑星。その支配者、女王ラー・アンドロメダ・プロメシュームU世≠ヘ、恐怖に慄いていた。反逆者であるハーロックとエメラルダスを足止めし、あわよくばどちらか片方でも抹殺できれば。軽い気持ちで送り込んだ前衛艦隊が、八割以上を撃沈されて敗退。それだけならば、怒りこそすれ、恐れるような事ではなかった。問題は、アルカディア号とクイーンエメラルダス号に味方する、謎の超戦艦が現れた事。そしてその艦が、あの忌まわしき波動エンジン≠搭載している、と報告された事だった。過去、機械化帝国の根幹を成すテクノロジーを与えたもうた神々達が、あれ程恐れていた波動エネルギー。全て抹殺し、この宇宙から消し去った筈のあの猛毒が、どうして突然蘇り、襲ってきたのか?あの猛毒は、我らの鋼の体を、紙を燃やすが如く容易く葬る。恐らく、この要塞と化した機械化母星すらも・・・!地獄のような光景を想像した彼女の恐怖心は、冷静な判断力を何処かへ押し流してしまった。
「集結させた全艦隊を発進させよ!アルカディア号とクイーンエメラルダス号の討伐に向かえ!できる限りこの惑星メーテルから離れた場所で捕捉、撃滅するのだ!彼奴等に助力しようという正体不明の戦艦も、一緒に葬ってしまうのだ、急げ!!」
狂気すら感じさせる彼女の剣幕に、諌めようとする部下などいよう筈もない。そんな言葉を発すれば、それこそ一瞬で消去されてしまうに違いなかった。
数刻の後、宇宙を圧する大艦隊が機械化母星を発進した。その数は宇宙戦艦だけで40隻を数え、総数は200隻を越えていた。惑星メーテルに残った艦は、親衛隊直属の十数隻のみ。それほど女王は恐れていた、宇宙戦艦ヤマト≠。

機械化帝国の皇女は、悶え苦しむ自身の心を、抑えきれずにいた。自分の分身であり、自分と同じ名を冠する、この惑星メーテルを破壊する。愛しい母親を裏切る。考えただけでも狂ってしまいそうだ。でもそうしなければ、あの少年は・・・星野鉄郎は!押し潰されそうな感情で、叫び出してしまいたい衝動に身を委ねそうになった時、彼女は異変に気付いた。地鳴りのような響きが次第に高まり、周囲に充満する。宇宙戦艦が装備する、重力エンジンの雄叫びだ。メーテルは窓際に駆け寄り、空を見上げた。集結していた艦隊が次々と発進して行く。一体、何事が?束の間だが、葛藤を忘れて艦隊を見上げる彼女に、胸に下げたペンダントが語り掛けた。
「メーテル、999へ行け。宇宙で何かが起こっている。それが何か確かめるのだ。だが気をつけろ、プロメシュームに、あの哀れな機械の女に気取られてはならんぞ。」
メーテルはペンダントをそっと握り締めると、哀願するかのように呟いた。
「お父様、お願いです、お母様ともう一度・・・」
「それ以上言うな、メーテル!!今は黙って私の指示を実行するんだ。お前はこの宇宙を救わねばならん、忘れるな。・・・あの女は、もう手遅れなのだ。」
喪服の皇女は、悲しそうに目を伏せると黙って立ち上がった。
お父様、貴方もお母様と同じ。自分の思う理想を実行するという狂気に突き動かされているわ、そんな惨めな姿になってまで。宇宙5大頭脳の一人とまで謳われた賢者、あのドクター・バンが。何て悲しい事なのでしょう。

メーテルは、自室を出てオプチカルエレベーターに乗り込んだ。宇宙艦隊の予期せぬ発進に、周囲は喧騒の渦だ。平素ならば視線を集めて止まぬその美麗な容姿すら、今ばかりは気に止める者もいなかった。幾つかのエレベーターを経て、階段を昇る。銀河鉄道の終着駅プラットホーム。貴婦人と呼ばれた蒸気機関車C-62-48≠フ姿そのままに、銀河超特急999号は停車していた。プラットホームにメーテルの姿を認めた車掌が、慌てて車外に飛び出してきた。
「メ、メーテルさん!?一体どうしたんですか?」
今までの旅では、終着駅で同行者を降ろした後の彼女が、999を訪れる事は無かった。メーテルの姿を再び見るのは、新しい旅が始まる時と決まっていた。何故、今ここに彼女が?車掌は混乱していた。
「車掌さん、機関車と話がしたいの。中に入れて、お願いします。」
「あ、はぁ?そ、それは全然構いませんが・・・何故、一体何をなさるおつもりですか?」
「そう、他言は無用よ。誰にも知られたくないの。誰にも≠諱B分かりますね?」
穏やかな言葉の裏の、激烈な決意、感情に車掌は戦慄する。先程の大艦隊の発進といい、メーテルの徒ならぬ様子といい、一体何が起こっているんだ?
「・・・分かりました、お入り下さい。監視装置は全て停止させておきます、メーテル様▲
「ありがとう、車掌さん。本当は貴方達を巻き込みたくはないのに、御免なさい。」
小さな声で切なそうに感謝し、謝るメーテル。車掌は苦悩する彼女の感情を読み取っていた。
「私は車掌室におります。所用が済みましたら、お声をお掛け下さい。・・・では。」

機関室内は、薄暗い照明とメーター類のバックライトで、紫紺の妖しい雰囲気を醸し出していた。メーテルは室内に入ると、生体認証パネルに手を置いて999のコンピューターに話し掛けた。
「C-62-48°竕ヘ超特急999よ。ラー・アンドロメダ・プロメシュームU世≠ェ娘、機械化帝国の王女であるこのメーテルが命じる。思考リミッターを解除せよ!」
電子頭脳が唸りを上げて起動すると、赤い光がメーテルの瞳に照射される。仮初めの体の網膜パターンを読み取り、次いで指紋、掌形、声紋、と次々に生体認証が行なわれた。
「コチラハ銀河超特急999。メーテル王女デアルト確認シマシタ。解除コードト解除キーヲドウゾ」
メーテルは胸のペンダントを外すと、無造作に分析ボックスに入れる。そしてその良く通る声で叫んだ。
「認識コード・“X−00999”!電子妖精カノン、目覚めなさい!」
一瞬、スパークしたかのように光が迸り、機関室を満たす。光は次第に人型のシルエットへ、そして女性型のアンドロイドへと変身した。
「お久しぶりです、メーテルさん。私が目覚めたという事は、時の環の接する瞬間が近づいている。と考えて宜しいのですか?」
「カノン、それを知りたくて貴方を呼んだの。999の能力が必要なのよ。秘匿通信をお願い。」
「承知致しました。お相手は誰ですか?キャプテン・ハーロック?」
メーテルは、少し狼狽して目を伏せる。逼迫した状況を思い出し、カノンを叱責しようと慌てて視線を上げると、電子妖精は無邪気に微笑んでメーテルを見つめていた。彼女は思った。そうね、カノンはそんな邪推はしないものね。
「通信先は、コードgX−00001°}いでちょうだい、時間はあまり無いと思うの。」
「了解しました。ランダム変調ワープ通信、回路オープン。クイーンエメラルダス号≠フ現在位置を、銀河鉄道管理局のマザーコンピューターより検索、送信開始します。」

孤高の女海賊、クイーン・エメラルダス。彼女は束の間の休息を取っていた。卓上にはワイングラスが二つ。エメラルダスは酒を並々と注ぐ。 燃える星の海≠なたはこのワインが好きだったわね。 片手にグラスを一つ持つと、彼女は舷窓から宇宙を望んだ。ダークグリーンの宇宙戦艦が見える。トチローそのものになったアルカディア号。でも、出来れば真っ赤な血が脈打つ、暖かい体の貴方と再会したかった。彼女は思いを飲み干すかのように、一気にグラスを空にする。そしてもう一つのグラスの中の赤い液体と、アルカディア号を交互に見比べた。
その視線は、アルカディア号のさらに向こう側に見える、見慣れない宇宙戦艦へと焦点を移した。宇宙戦艦ヤマト*{当に、あの伝説の大戦艦だというの?トチローとハーロックは信じているというけれど、私は大昔の御伽噺としか思っていなかった。大体どうしてそんな物が、時間を超えてここにいるのか、二人とも納得できる説明はしてくれそうもないわね。ハーロックのカンってヤツか。馬鹿らしいけれど、何故か外れた事が無い・・・。本当に、宇宙という物は神秘と理不尽で出来ているのね。どれだけ旅を続けても、その思いは強くなるばかり。きっとメーテルも頷いてくれるわね。久しぶりに再会した、銀河鉄道で旅を続けている妹。その姿を思い浮かべ、彼女は微笑した。あの娘も私と同じ。今も辛い旅を続けている・・・。
不意に、通信パネルが電子音を奏でた。エメラルダスが訝しげに回路を開くと、今しがた思い出していた彼女の妹が映し出される。噂をすれば影、か。もっとも、このクイーンエメラルダス号≠ノいるのは私一人。独り言でしかないけれど。
「エメラルダス。今、何処にいるの?アルカディア号も一緒なの?お母様は、女王プロメシュームは、貴方とハーロック達が機械化母星に攻撃をかけてくると予想して、艦隊を集めていたわ。でも、何故かその艦隊が全て、何処かへ出撃していったの。何かが起こっているの?知っている事があったら教えて!」
エメラルダスは、少し驚きを感じていた。プロメシューム、流石に動きが早い。あの艦がヤマト≠ゥどうかはともかく、その破壊力には脅威を感じたという事ね。
「メーテル。ハーロック達は、鉄郎を助けると決めたわ。私も一緒に戦う。前衛艦隊はもう打ち破ったわ。もっとも、貴方の言う艦隊と比べたら、微々たる物だけれど。」
メーテルの美貌が驚きに歪む。
「そんな・・・正面からやり合っては、いくら貴方達でも危険だわ。勝ち目があると思っているの?」
「心配してくれるの?ありがとう。でも、私達だけじゃあない。どうも強力な援軍を、宇宙の神が送ってくれたらしいの。」
目を伏せて諧謔味たっぷりに話すエメラルダスに、メーテルの困惑は深まるばかりだった。
「どういう事?アルカディア号とクイーンエメラルダス号の他に、戦力になるような艦はこの宇宙には・・・」
「貴方は知っている?宇宙戦艦ヤマト≠。私は見たの。狙撃戦艦の装甲すら紙切れ同然に打ち破ってしまう、凄い砲撃だった。」
エメラルダスがそう言った瞬間、電子妖精カノンの両眼が白く輝いた。強烈な電流が彼女の回路をオーバーロードさせ、通信が途絶する。分析ボックスの中のペンダント、解除キードクター・バン≠ェその原因だった。メーテルは、急いでカノンを抱き起こす。しかし彼女は過負荷から立ち直れず、通信を続ける事は不可能だった。
「車掌さん、聞こえますか?御免なさい、コンピューターが故障したらしいの。機関車まで来て下さい。」
車掌室に通信を入れると、メーテルは分析ボックスからペンダントを取り出した。それは白い煙を噴出し、弱々しく点滅していた。感情エネルギーを制御できず、セーフモードになってしまっている。
「時が。時が来たのだ、メーテル。ヤマト≠ェ、波動エネルギーが、この歪んだ世界を修正する。必然の呼んだ奇跡なんだ、これは。」
譫言のように呟くドクター・バン≠フ様子に、メーテルは宇宙に起きつつある異変を感じていた。お父様をここまで、前後不覚の有り様にさせるなんて。何者なの?宇宙戦艦ヤマト=B

アルカディア号のブリッジでは、ヤマトと同じように敵大艦隊を捕捉、戦闘準備に入りつつあった。ビデオパネルを凝視するハーロックに、エメラルダスから連絡が入る。
「ハーロック、メーテルから秘匿通信が入った。機械化母星に集結していた艦隊の殆どが一斉に出撃したそうよ。あそこに屯している連中が、機械化帝国のほぼ全力ということらしい。どうする?」
「・・・それは愉快な情報だな。すると奴らを全て屠れば、惑星メーテルは空っぽという事だな?いきなりクライマックスという訳だ。」
「相変わらず、楽天的な物言いね。正面から行こうと思っているの?」
ハーロックはニヤリと笑う。そして聞き様によっては、傲岸不遜とも自信過剰とも思える宣言をした。
「俺は、俺とトチローが造り上げ、志を共にする仲間が動かすこのアルカディア号を信じている!背中を見せる事は有り得ない!」
双発の次元振動流体重力エンジンが唸りを上げ、アルカディア号は猛然と加速を始めた。クイーン・エメラルダス号も追従する。
アルカディア号の船尾楼を見つめながら、エメラルダスは戦闘の準備を進めていた。その集中力を、またしても秘匿通信の呼び出し音が中断させる。彼女は不機嫌な表情で回路を繋ぐが、映像は受信されなかった。そしてスピーカーから、彼女が捜し求めていた男の声が流れ出した。
「エメラルダス、すまない。俺はやっぱり、血の通う体を持つ人間が大好きなんだ。機械化帝国とは、何れは決戦する運命だった。その俺の体が、今や装甲金属の塊なのは、皮肉なモンだが・・・君はどうだ?こんな不利な戦でも、一緒に来てくれるかい?」

⇒To Be Continued...

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