ファイター・パイロット
作者: 戦舟   2011年09月05日(月) 04時37分19秒公開   ID:T2SlLVuuolI
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古代進は、艦載機格納庫へと急いでいた。先程から、格納庫の待機室との連絡が取れないのだ。砲撃戦の指揮は南部に任せておけば良い。他に緊急を要する案件が、まだ彼には残されていた。それにはコスモタイガー隊が不可欠なのだが・・・。古代は格納庫に飛び込むと叫んだ。
「加藤、どうした?どうして艦内通話に応答しないんだ?各飛行小隊のリーダーを集めてくれ!・・・おい?お前達、何をしている!?」
古代が声を荒げる。其処には人だかりが出来ていた。待機室は空っぽの状態だ。
格納庫の中央に、コスモタイガーUとも、コスモゼロとも様相の異なる機体が鎮座している。物見高いパイロット連中が、幾重にも取り囲んで興味深げにそれを観察中だ。宇宙戦闘機SW−190スペースウルフ=Bアルカディア号からやってきた艦載機だ。古代は人込みを掻き分けながらその機体に近付き、そして怒鳴る。
「お前達、戦闘中だぞ!持ち場に戻れ!今すぐスクランブルって事態も有り得るんだぞ!あ、加藤、この野郎お前まで!」
野次馬根性丸出しの搭乗員達の中に、コスモタイガーチーム隊長、加藤四郎の姿を発見した古代は、思わず頭を抱え大きなため息をついた。古代に名指しされた加藤は、冷や汗を垂らしつつ、古代の前で直立不動の体制をとった。
「も、申し訳ありません!あまりに興味深い機体だったので、つい・・・。」
艦長代理は不気味にニヤつきながら加藤をジロリと睨む。加藤四郎の顔面は、まるで鏡の前の蝦蟇蛙のように脂汗びっしょりだ。
「加藤、覚悟しとけよ。後でお仕置きだからな。各小隊長はガンルームへ集合、他の搭乗員はスタンバっておけ!」
古代はふと気が付く。スペースウルフ≠フ隣で、ポカンとした様子でこちらを見ている少年がいた。
あちゃ!無様な所を来客に見せちまったな。艦内の規律を疑われちまうよ、まったく。
彼は心中で愚痴りながら、少年に歩み寄った。
「君が台場正′N、アルカディア号の艦載機隊指揮官ですね。自分は古代進。ヤマトの艦長代理を務めています。」
「は、はい。自分が台場です。キャプテンから、こちらの指揮下に入るよう命ぜられています。宜しくお願いします!他のスペースウルフ≠ヘ、ご存知の通り無人機ですので、現在は敵の砲撃を避けつつヤマト≠フ周囲を編隊で旋回、待機させています。」
自己紹介しながら台場は思う。
正規軍の宇宙戦艦だというから、どんな堅苦しい所かと思っていたのに、この雰囲気は・・・。アルカディア号と大差ないような気がする。強い戦艦ってのは、案外何処でもこんな感じなのか?この艦の指揮官、古代という人も、思っていたよりずっと若い。コスモタイガー隊の人達も皆、俺と大差ない年齢に見える。何か拍子抜けしちゃうな。

戦場からそれ程遠くはない、小惑星と暗黒ガス雲が点在する空間の中に、ひっそりと黒色の艨艟達が寄り集まり、牙を研いでいた。機械化帝国の空母機動部隊である。彼女等の恐るべき航空打撃力が存分に発揮されれば、ヤマトやアルカディア号、クイーン・エメラルダス号達が危機的状況に陥る事は明白であった。圧倒的な数の力による飽和攻撃。寡兵が抗うのは困難な戦法だ。人に群がる軍隊蟻の如き惨状となるであろう。宇宙の海における戦いでも、制空権は重要な要素だ。
航空母艦達の周囲は暗黒ガスに覆われ、視界は悪かった。美しい宇宙を楽しむなどという環境からは程遠い状況だ。機動部隊を指揮するその男は、椅子に深く腰を降ろし、長く待たされる時間を持て余している風だった。仕方なく彼は、遠い昔の出来事を回想し、退屈を紛らわせていた。

そう、辺境の島宇宙の、とある太陽系にあの惑星はあった。滅亡寸前の二重惑星。既に知的生命体の姿など殆ど無く、僅かに星系を統治してきた王族の生き残りが数名、双子星の片方にひっそりと暮らしていた。そこは歳老いた滅び行く星系だったのだ。有用な資源を求め、遠く他の銀河へと旅を重ねる我が帝国は、そこに素晴らしい資源を発見した。双子星の地下に眠るエネルギー鉱石だ。私達は喜び勇んで、その惑星の統治者との交渉に臨んだ。だが、統治者である女王は、採掘を頑として拒んだのだ。当初は紳士的に事に当ろうと腐心した我らも、遂には忍耐の限界に達した。実力行使に及ばんとした、まさにその時。女王は破滅への道を選んだ。彼女らは、辱めよりは死を選ぶ、蔑まれて生き続けるのを良しとしない人種だったのだ。碧く美しい惑星は、粉微塵に吹き飛んだ。そして、その惑星を崩壊させたエネルギーは、我々の想像を越える破壊力を持っていた。爆発の直撃を受けた我らの艦隊は大打撃を受け、資源探しの遠征どころではなくなってしまった。これが恐るべき破壊をもたらす、波動エネルギー≠ニの最初の遭遇だった。
そして混乱の中、私は発見した。崩壊する惑星を脱出し、外宇宙へと逃れて行く宇宙船を。奴らには、逃げ延びる場所があるというのか?私は数少なくなった艦隊の中から足の速い艦を選出し、脱出船を密かに追跡させた。そしてたどり着いた先が地球=B自爆した女王の星に良く似た、碧く美しい惑星だ。ただ、この惑星は双子星達とは違う所もあった。多くの知的生命体、そしてその他にも多くの命を宿す、活力溢れる天体だったのだ。

「ハードギア様、ファウスト様より通信文が届いております。」
唐突な部下の呼び掛けに、彼の回想は中断させられた。ハードギア≠ニ呼ばれた男は、不機嫌そうに部下の方を振り返る。
「内容を報告しろ、手短にな。」
「はい。打撃戦部隊はこれより反逆者どもと交戦体制に入るそうです。予定通り宙航機の発進準備を成せ、との事です。」
ハードギアは、それを聞くとより不機嫌さを増した様子を見せた。
「ふん、俺がサポタージュでもすると思っているのか、奴は。督戦とは、馬鹿にされた物だな。」
困惑した表情の部下を無視して、彼は正面を向き直ると窓外の暗黒ガス雲を凝視した。
「進撃開始だ!距離を詰めるぞ。」
「しかし、ハードギア様。あまり近寄ると敵に発見される恐れがあります。現在位置でも、攻撃機部隊の航続距離に無理はありません。無用なリスクを犯す事はないと考えますが。」
部下が慌てて進言するが、ハードギアは聞く耳を持たない。彼の心中は、黒騎士ファウストへの憎悪が燻っていた。
ファウスト。まったく気に食わん男だ。女王を懐柔し、身体機械化への決断を促がし、今ある大帝星の礎を築くよう導いたのはこの俺だというのに。何故、奴がその軍事力の中枢に居座っているのだ?この俺を差し置いて、艦隊司令官だと?まったくもって気に食わん。俺が首尾よく空襲に成功しても、手柄はファウストの奴の物になってしまう。そんな馬鹿な話があるか!?
「海賊どもは打撃戦に夢中だ。気付いたりはせん。もっと接近するのだ!この機動部隊にも戦艦がある。ファウストの奴がしくじらんとも限らん、いつでも戦場に飛び込めるよう、間合いを詰めよ!」
空母群とその護衛艦艇は、ガス雲と岩隗が渦巻く空間を、ヤマト達に向かって加速し始めた。

加藤四郎はコスモタイガーUを巧みに操りながら、暗黒ガス星雲の内部を飛行していた。ガスに遮られ、視界は良好とは言い難い。レーダーの精度、通信機能も大幅にダウンしている。計器飛行に頼って飛行を続けるのは困難な状況だ。もっとも敵に逆探知されるのを避ける為、大出力の索敵波は発信できないのだが。五感を研ぎ澄ませ、小刻みに進路と推力を調整しながら、加藤は思う、
こいつは手強いフライトだな。俺も澪みたいに、透視能力でもあれば苦労しないんだが。
真田 澪。最後のイスカンダル人、サーシア。 短い間だったが、イカルスの秘密基地で寝食を共に過ごし、戦禍の中で夭逝した美しき同僚。束の間、彼女の面影を脳裏に画いていた加藤の眼前に、突如として暗黒ガスの影から飛び出してきた岩隗が迫る。目一杯、姿勢制御用のバーニアを吹かし機体を垂直にしながら横滑りさせ、コスモタイガーUは岩隗の表面を舐めるようにして回避する。
危ない危ない、他所事を考えてる場合か、俺。こんな事であの世行きじゃあそれこそ、澪に顔向けできんぞ。
汗ばんだ掌で操縦桿を握り直す加藤に、後席の相棒がのんびりとした口調で話し掛けてきた。
「したばって加藤隊長、大した腕前だ。これだけ電波障害がひどいと、有視界飛行しかないんずや。でもガスで視界もこったら有り様だ。わの腕前じゃあ、うだでコスモタイガーば飛ばせる状況じゃあないだ。」
「古屋、相変わらず訛ってるな。何かホッとするよ、お前と話してると。」
「な、訛ってなんかいね!いやもとい、訛ってねっすよ!あ、あれ?」
「いいよ、無理に直さなくても。その方が古屋らしいからな。でもお前のおかげで、どんな宇宙言語でも受け入れ可能な気がするよ、俺。」
「全然、誉め言葉になっていねよ、隊長!」
加藤は苦笑しながら、後席の相棒の抗議を無視する。
こいつ、機載電子機器の扱いや暗号の知識は凄いんだが、喋る言葉まで暗号顔負けなのは、冗談キツイよな。まあ、一緒に居る時間が長くなったおかげで、かなり解読≠ナきるようにはなったけれど。
「それより、まだか古屋。逆探に反応はないのか?短距離通信波の傍受はどうなんだ?」
「逆探、まだ何にも反応ねじや。通信の傍受も同じだ、何もねじや。隊長、ほんまに、こったら所に空母がいるんだんずな?」
「周辺宙域で艦隊が隠れていそうな所が数箇所あってな。それぞれに偵察機が飛んでるだが、古代さんが考えてる本命は、多分この暗黒ガス雲だよ。だからこの特別仕様機が出張ってるんだ。」
彼等の操るこの機体は、三座型のコスモタイガーUだ。だが、本来ならば旋回機銃座がある場所に、巨大なレドームが鎮座している。早期警戒機仕様に改装された、このコスモタイガーUの外見上の最も大きな特徴だ。電子戦能力に長けた機体だが、現在ヤマトに配備されているのはこの一機だけ。いや、ヤマトどころか地球防衛軍でもこの一機だけだ。真田技師長が試作を兼ねて、ヤマト艦内で改装した機体なのだ。飛び抜けて通信・索敵等の電子戦能力が高いこの機体でなければ、このガス雲内を索敵する事は難しかっただろう。
不意に、後席の古屋が無口になった。計器の操作に集中し始めた様子だ。それを察した加藤も、操縦桿を握る腕が無意識に強張る。
「隊長、通信波と思われる微弱電波ば捕捉した。距離は不明だば、方位は2時の方向、上下角+−ゼロ。そったらに遠くはないと思うんだばって。」
遂に来たか!此処からが腕の見せ所だ。加藤の額に、緊張からくる汗がどっと噴きだした。
「了解、進路変更、。2時の方向、上下角+−ゼロ。逆探の反応はどうだ?」
「反応はねじゃ。敵は長距離レーダーば使っていねようだ。えらく不用心だべ。偵察機に接触される危険ば考えていねのかな?」
「身を隠すのを最優先してるんだろう。レーダーってのは強力な索敵波を発信する訳だから、見方を変えれば自己位置暴露装置だからな。それに、奴ら偵察機を繰り出してくるような相手との戦闘を、経験した事は無いんじゃないか?あのアルカディア号≠ニかは、無人機の航空隊しか持ってないそうだから、航空戦に関しては何時も攻めの一手で行けたはずさ。今まで隠れんぼで遊ぶ機会が無かったって事だな。おかげでこっちから奇襲を仕掛けるって作戦も成立する訳だ。」
「凄いだね、加藤隊長。伊達に隊長ば務めてる訳じゃないだべ。頭良いんだな、見直したんずや。」
「まあな、恐れ入ったか!・・・って言いたい所だが、残念ながら全部古代さんの受け売りなんだ。艦長代理は、おそらく敵は逆探を警戒して、索敵波を極力出さないようにしているはずだって言っていた。奴らはヤマトの位置を確実に捕捉しているけれど、こっちは敵空母の居場所をまったく知らない。わざわざ発見される危険を冒してまで長距離レーダーを使う事はないんじゃないかって。ホント、大当たり。あの人、やっぱり単なる野生児じゃあないよな。」
「何だ。感心して損したんずや。でも、確かに古代さんは凄い人だと思うんだばって。歳なんて大して変わらねのに、なしてわとあの人はこったらに違うんだべ。」
軽口を交し合いながら飛び続ける二人の前に、一際大きな岩隗が輪郭を濃くしてきた。小惑星と言っても良い位の規模の大きさだ。加藤は機体をその小惑星の表面に降下させながら周囲の様子を窺う。
「隊長、逆探に反応だ!多分、近距離レーダー波、おそらくこの小惑星の裏側だ。高度ば上げないで!探知されんずや。」
加藤は歯を食いしばりながら、操縦桿を操作する。コスモタイガーUは更に高度を下げて行った。まるで小惑星の表面を這いずり回るかのようだ。
「通信波、確認。近距離レーダー波らしき物、感5。強い! ビンゴだ。敵艦隊、もうわんつかばしで見えてくるはずだ。」

⇒To Be Continued...

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