ファイター・パイロット
作者: 戦舟   2011年09月05日(月) 04時37分19秒公開   ID:T2SlLVuuolI
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次の瞬間、小惑星の地平線の向こう側に、大小様々な光点が現われ始めた。加藤は躊躇無くエンジン出力をアイドリングまで落とす。彼等の機体は慣性飛行に入った。極力、消費するエネルギーを落とし、発見され難くする為だ。コスモタイガーUはそのまま降下を続けると、地表ギリギリで機体を引き起こし、何とか水平飛行に移った。難しい機動を行いながら、加藤は考える。
連中、思ったよりも近い所に隠れてやがった。ここまで接近して来るとは予想外だな。何か企んでるのか?
「古屋、現状維持は30秒が限度。それ以上は、小惑星に墜落しちまう!敵状確認、急げ!頼むぞ。」
「任せてしてけろじゃ。それだけあれば、充分だ!・・・確認、大型艦18隻、小型艦が24隻。大型艦の内の、12隻の艦上からは、ヤマトを空襲してきた敵艦載機と同様のエネルギー反応も確認。間違いねじゃ、空母!こいつらが敵の機動部隊だ。」
後席からの報告を聞いた加藤は、再びコスモタイガーUを反転させ、小惑星の裏側、敵艦隊の死角へと潜り込む。
「よっしゃ、誘導ビーコン射出!30秒後に指向性タキオン誘導波、座標及び符丁発信をセットだ。離脱する!」
機体の翼下に吊られた増加装備ポッドが切り離され、カバーが分離すると、中から誘導ビーコンが姿を表した。このビーコンは極めて指向性の強い誘導波を送信する事が可能で、送信が傍受され難く、隠密性が高い。この早期警戒機仕様と共に開発された新兵器だ。切り離されたビーコンは点火、加速する。そして充分な加速エネルギーを得ると、噴射はすぐに停止され、慣性飛行で小惑星から離れていった。ある程度離れた場所から発信する事で、母機の安全を確保する為だ。
この距離なら、ヤマトからの攻撃機隊が到達するのに大体10分って所か。何とか奇襲成功と行きたい所だな。
加藤はそう考えながら、離脱経路へと機体を向ける。この機体は、索敵用の装備と引き換えに、火力を大幅に減じている。ミサイルも積んでいない。攻撃隊に加勢したいのは山々だが、かえっって足手まといになってしまう。
その時、後席の古屋が加藤に呼びかけた。
「隊長、空母甲板上のエネルギー反応、上昇。このまんまでは、攻撃隊到着前に発艦が始まってしまうだよ。どうするが?」
「マジかよ!?ええい、上手くいったと思ったのに間に合わなかったてのか、クソッ!」
何とか攻撃隊の到着まで時間を稼がなければ。しかし、どうすれば・・・。
加藤四郎の顔は、焦りに歪んだ。すると再び、後席から呼びかける声がした。
「加藤隊長。多分、先頭にいる一回りでかい奴が旗艦だと思うね。チャフばばら撒いて敵のレーダーば殺したら、一気に突入して機銃掃射しよう。やつら、CAP(直援機)も上げてね。混乱させる事ができるはずだ」
加藤は驚いて後ろを振り返った。相棒の顔をマジマジと見つめる。古屋は彼の顔を見つめ返すと、ニッと笑った。
「そったら顔するなよ。わだばてコスモタイガー隊の搭乗員だよ、ここは見栄の張り所だよな。」
「古屋、すまん!もし殺られちまったら、あの世で謝るから。」
「隊長。信じてらよ、お前の腕ば。攻撃隊が到着するまで頑張れば、きっと助かる。謝るのなんか、止めてくれ。」
加藤は大きく息を吸い込むと、左手で自分の頬をピシャリと叩いた。
「よっしゃ、古屋!増槽はそのまま、チャフ・ポッド、デコイ・ポッドは全て射出。ECMもフルでやってくれ!」
「了解したんずや。いっちょ、派手に行きるんだばって!」

加藤四郎は、コスモタイガーUのスロットルを全開位置まで押し込むと、アフターバーナーを作動させた。翼に吊った装備ポッドの内の何基かが機体を離れ、敵艦隊に向かって加速して行く。もう後戻り出来ない。
三郎兄ちゃん、澪、力を貸してくれ。彼は内心でそう呟くと、機体を一気に加速させて、小惑星の陰から飛び出した。その姿は、さながら蒼い流星の如く見えた。
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