ヤマトの記憶
古代の目の前にあるのは確かにヤマトだった。
いや、ヤマトの形をした艦だった。

アンドロメダ型の大戦艦が次々と就航していく中、幾度となく地球を救ったヤマトの再建は実現していなかった。
なぜか。
ヤマトは、ガミラス戦後に建造された宇宙戦艦と互換可能なパーツが少ないからである。量産を第一目的とした2201年以後の宇宙軍艦艇とヤマトは部品ひとつとっても設計思想が全く違っていた。
そもそもヤマトは寄せ集めのパーツから必死に建造した艦である。
ガミラス戦後もヤマトは何度も傷つき、補修が行われたが、そのたびに特注パーツが製作され、メンテナンスのコストパフォーマンスとしてはあまり評価されることはなかった。

西暦2201年に波動エンジンをスーパーチャージャー化した際も実験的な試作エンジンの積み込みであり、他の防衛軍艦艇にそれが搭載されることはなかった。そもそも長期航海を前提としない艦艇群に多額な費用のかかるスーパーチャージャーなど論外だったのである。連続ワープはコストがかかりすぎ、最果ての惑星で最高級のコスモナイトが発掘されたとしてもペイすることは無いだろう。結局、量産技術の研究はされなかった。

しかし、それが西暦2203年の宇宙移民計画策定時には足枷になり、移民船の半径が限定され、第二の地球探しは失敗した。

ヤマトが再建・量産されなかったのは、要するにヤマトでなければならない理由が無かったからである。
ただ、象徴的にアンドロメダタイプの戦艦に「ヤマト」名を冠し、防衛軍旗艦とする動きもあったが、政治的な介入もあり、頓挫した。

古代はどうでもいいと思っている。
そんな古代に真田が云った。
「この艦は確かにヤマトじゃない。ヤマトに似た戦艦だ。だがな古代」
真田は古代の目をじっと見つめてこういった。
「この艦には、ヤマトの記憶が…過去のヤマトの航海及び戦闘の全データがある。29万6千光年の旅も彗星帝国との戦いも、暗黒星団帝国との戦いも、ボラーやガルマン帝国との戦いも…宇宙航海の記録は艦の中枢コンピューターに記録されている。宇宙物理学、天文学など科学的なデータとして貴重だ。また、戦闘艦の運用ノウハウの集積でもある。作戦行動をすばやく自分で予知し、準備する能力、ワープや波動砲発射時のエネルギーコントロール、重力流を前にして流れを読み、最短コースで旋回反転する能力…」
古代は黙っている。
真田は続けた。
「例えばクルーが全員放射線宇宙病で倒れても、自動航法装置だけでワープすらこなし、ドックに帰還するなんて芸当もできる」
古代は、ああ、あの時のことかと苦笑した。
「防衛軍が航海記録をバックアップしているのは知ってます。それを生かすために他の艦へのダウンロードもされている」
真田はうなづいた。
「だが、すべてのデータを受け取れる艦は存在しないのだよ。ヤマトの記憶は量が膨大で、部分的にしか、各艦に送れない。ヤマトが膨大なデータを艦内に持ち込めていたのはイスカンダルのカプセルが大コンピューターに組み込まれていたからだ。波動エンジンの中身は解析できたが、カプセルの一部は未だに我々にとってブラックボックスだ。」
「無理に移植しなくても…ネットワークで共有すればいいのでは」
「セキュリティの問題がある。それを差し置いたとしても、ヤマトの記憶はヤマトという艦体がないと本当には成立しない。人間の心と体が両方でアイデンティティーを支えるように」
「ヤマトは人間ではない」
反論する古代に真田は即座に切返した。
「アナライザーに人格が無いと思うか」
長い沈黙があった。

真田はやがて語り始めた。
「ヤマトの記憶…私は、これを人類の次世代に残すべき遺産として保存するために数年前からヤマト再生プロジェクトを立ち上げていた。ヤマトの記憶は膨大な容量だ。移植するには、現在の技術でも巨大なコンピューターが要る。しかも、緻密な作業が必要だ。そのための静かな環境、そして、良い水もな。アクエリアスは最適な場所だった。」

聳え立つヤマトの司令塔。
「結果、ヤマトは第三艦橋までほぼ電子頭脳の塊となった。複製された記憶、複製された体とお前は言うかもしれないが、私は、この艦をヤマトと迷い無く呼べる」
真田はヤマトを見上げながら続けた。
「お前が乗るからな。古代」
長田亀吉
http://yamatozero.cool.ne.jp/
2010年09月11日(土) 14時52分51秒 公開
■この作品の著作権は長田亀吉さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
復活篇で納得がいかない部分を自分なりに補完してみました。どなたか絵を描いていただければ嬉しい。

ガミラシアの方はどないなってるねん、というお問い合わせも少しだけ(寂しいじゃないか^^;)いただいてますが、ガミラシアの方も製作は継続中です。乞うご期待!

この作品の感想をお寄せください。
No.9  長田亀吉  ■2010-09-23 11:41  ID:DRO0cere20g
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>メカニックさん たぬ子さん
 温かいコメントありがとうございます。
 次回作への意欲も高まるお言葉です。
 ガミラシアはもちろんですが、他に「さらば」の短めの話を考えています。
 目に入る機会があればよろしくお願いします。
No.8  たぬ子  ■2010-09-21 23:24  ID:.9UU/qFyq1o
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ヤマトは父か、兄か、わが友か…というフレーズがよみがえりました。真田さんのせりふ一つ一つにグッと来ます!
No.7  メカニック  ■2010-09-19 18:11  ID:E.LNJ0myIXw
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古代と真田さんがアクエリアス氷塊ドックで復活したヤマトを見たときの場面だとお見受けします。
真田さんのヤマトに対する熱い思い、そして最後の台詞、感動しました。
No.6  gauche  ■2010-09-13 00:44  ID:B0WA/R0y5lM
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随分断定的な言い方になってしまったことを反省しています>真田さんの一人称

艦長のお考えにも納得しました。
自分としては古代−真田の距離感を表す言葉は「おまえ」「おれ」であり、それを変えないで欲しいという願望を優先させてしまいましたね。また、真田さんが内に秘める「永遠の若さ、熱さ」のようなものの象徴としても。
No.5  長田亀吉  ■2010-09-13 00:18  ID:DRO0cere20g
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皆様、コメント感謝いたします。
ぱっと書いてしまったので、後から修正を入れた箇所もいくつか。
ただ、修正を入れれば入れるほど文章の勢いはそがれてしまってます。
最初の文章は矛盾はあるけれどもっと勢いがありました。
なかなかうまくいかないところです。
二次創作は登場人物の声を説明しなくても劇中の声優さんの演技をイメージして読んでいただけるので、書き手としては、間接的に声優さんの力をお借りしている部分があります。私自身も今回の古代進は富山さんではなく山寺さんの声をイメージして台詞を書きました。真田さんの声はもちろん青野さんのイメージです。
心に感じていただけた部分があるとすれば声優さんの力に負うところが大きいと思います。
「良い水」については、一応設定として考えたことはありますが、書くと長いので文中では説明しませんでした。
真田さんの一人称については、どうするか実は悩んだところです。今回は、偉くなったからというのではなく、歳を重ねることで自分の呼び方が変わるという自分の経験を反映することにしました。過ぎた時間を象徴する意味合いも込めていますが、伝わらなかった方が居られるのは、私の文章の拙さが原因でしょう。

いずれにしても、皆さんに読んでいただいた上にコメントまでいただけて嬉しいです。
No.4  gauche  ■2010-09-12 23:24  ID:B0WA/R0y5lM
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あと、細かいですがこういう一対一の対話の時は、真田さんの一人称は「おれ」の方がいいと思います。どれだけ偉くなっていても。
No.3  gauche  ■2010-09-12 21:01  ID:B0WA/R0y5lM
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復活篇否定派としても、古代と真田さんの間にこういう会話のシーンがあるのは嬉しい。というか本編で観たかった。

「良い水」って何だろう? 詩的でいい感じですが突っ込んで説明を引き出してくれ古代君(笑)
No.2  煙突ミサイル  ■2010-09-12 00:00  ID:t.3XWgQsmHk
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それまでは「文字」だった真田さんの言葉が
最後の一言は「真田さんの声」で聞こえてきて
なんだか身体が震えました。
No.1  楼  ■2010-09-11 16:10  ID:dhcznCGw37c
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古代の戸惑いも、真田さんの確信も、まさに「あの彼ら」の肉声として聞こえてくるようでした。最後の台詞が痺れます!
総レス数 9

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