混乱
作者: 戦船   2011年04月30日(土) 01時17分20秒公開   ID:T2SlLVuuolI
彼は確かに言った。『伝説の宇宙戦艦、ヤマト=xと・・・?キャプテン・ハーロックと名乗るあの男は、ヤマト≠フ事を知っている?だが、伝説とはどういう事なのだ?やはり暗黒星団帝国の罠なのか?
いずれにせよ、俺に出来るのは対話する事しかない。何等かの意図が彼らにあるならば、それが善意であれ悪意であれ、言葉を交わす事で知れてくるに違いない。とにかく、いきなり血を流すのだけは願い下げだ。
古代進は背筋を伸ばし、スクリーンの男の隻眼を見る。その眼光には、強い意志が宿っているのが感じられた。
「キャプテン・ハーロック。こちらは地球防衛軍所属、宇宙戦艦ヤマト。私は艦長代理、古代進。現在の本艦の最先任者として、指揮を執っています。先程は偶発的に暗黒星団帝国♀ヘ隊との戦闘に巻き込まれ、止むを得ず防衛の為に実力行使に及びましたが、武力をもって事の解決にあたるのは本艦の、いや、地球連邦の本意とする所ではありません。そちらの所属される国家、組織がどういった物なのか、我々は存じません。しかし、我々に侵略的な意図はありません。誤って砲火を交える事の無い様、こちらと協議をお願いしたい。」

ハーロックは、古代の言葉を聞きながら、ヤマト≠フ現状について推測していた。
ヤマト≠フ若い指揮官。彼の言動から察するに、あの艦が何等かの意図をもって、その超技術で時間旅行を行った、という事ではないらしい。遥かな時間を超えて、今この場所に存在している、という自覚すら無いようだ。
故に、こちらの素性や状況を、彼らは一切知らないと思われる。我らが戦う理由も、その相手についても。だが暗黒星団帝国≠ニは? 理由は不明だが、どういう訳か彼らは機械化帝国の事をそう呼んでいる。
あの戦艦の正体がヤマト≠装った機械化帝国の罠、という線は無いな。あの艦の戦闘力なら、余計な策を弄する意味などなかろう。殺る気ならとっくにあの強力な主砲をこっちに向けている。
何よりも、古代 進=B彼の発する言葉を、俺はまったく疑おうという気になれない。理由を問われればはっきりとは答えられないが、あの男は信頼に値する。トチローにまた野生のカン≠ニ揶揄されそうだ。
そこまで考えると、ハーロックは古代の呼びかけには答えず、まったく違った話題を口にした。
「古代、少々質問させてもらいたい。現在の地球は機械化帝国、君らが暗黒星団帝国≠ニ呼んでいる輩に牛耳られており、地球防衛軍などという組織は存在しない。そして、俺の知る限りヤマト≠ェ母なる地球を守る為に戦没してから、既に800年近い年月が経っている。何故、古の大戦艦が、今ここに存在しているのだ? 
その艦から検出される、タキオン粒子を用いた機関のエネルギー反応。我々にとってはロストテクノロジーである波動エンジン≠、君達の艦は搭載している。この事実がなければ、その戦艦がヤマト≠セというのは、到底信じる事が出来ない、途方もない話だ。・・・君達はどうやって時間の流れを乗り越えてやって来た?この西暦2970年に!?」

対話を始めて僅か5分、キャプテン・ハーロックとの会談は一時中断となっていた。ヤマトの第一艦橋は混乱していた。『ヤマトが戦没して800年近い』『西暦2970年』『時間の流れを乗り越えてやって来た』
思いもよらなかった言葉が一同を混乱させ、猜疑心を呼び起こす。一体どういう事なんだ?まるであの偽地球で騙されかけた時と同じ状況だ。到底信じる事など出来ない。皆がそう感じていた。だが、古代進は少し違っていた。到底信じる事など出来ないと思いながらも、隻眼の漢が話す言葉の力に、心が揺さぶられていた。ハーロックの話に嘘は無いのだと、彼の直感は囁く。
古代は頭を一振りすると、自分自身に心の中で活を入れた。検証もせずに相手の言葉を鵜呑みにする訳にもいくまい。もしこれが暗黒星団帝国の罠だとしたら、南部の奴に野生のカン≠ニからかわれるだけじゃ済まない失態だ。
「相原、地球との通信状況はどうだ。交信は可能か?島、ヤマトの現在位置を概略でいい、すぐに測定して報告を頼む。」
「艦長代理。地球との交信、回復しません。タキオン通信の一般回線、非常用周波数、どちらも呼び掛けに対する返答なし。通信不能です。なお、通信妨害等の形跡はありません。」
「古代、航海班は第二艦橋で既にヤマトの現在位置を確認中。おい太田、どうだ。もう結果は出たのか?」
「はい航海長、おおよその現在位置を確定。こ、これは・・・天の川銀河からM31、アンドロメダ銀河を結ぶ直線上。オリオン腕、地球の推定位置からおよそ200万光年!前人未踏の遠宇宙ですよ、ここは!」
第一艦橋は静まり返った。有り得ない現実の重圧が、一気にヤマトのメインスタッフ達に降りかかってくる。一同の視線は、分析パネルを操作する真田技師長に向けられた。
「今、全天球レーダー室の観測データーを精査した。艦長代理、みんなも聞いてくれ。崩壊した筈の二重銀河が、観測されている。波動融合反応でガス星雲化してしまったあの天体が、何故か元の健在な姿のままで存在しているんだ。」
古代は息を呑んだ。自分の直感が間違いであって欲しいと、これ程願った事は今までに無かった。
「真田さん、あなたの意見を聞かせてください。ハーロックの言っている事を、どう思いますか?」
「キャプテン・ハーロックの言葉の真偽は、今ある情報で即断は出来ない。だが我々が置かれている状況は、ある程度推測出来る・・・。イレギュラーでワープアウトしたにせよ、今、ヤマトのいる宙域は、常識的には在り得ない場所だ。本来ならば、ワープで湾曲される通常空間の内の、何処かに放り出される。つまり二重銀河と天の川銀河の間の宙域、という事だ、だが現実に、我々はアンドロメダ銀河を望む、この場所を航行している。そして、今ここで観測されている二重銀河が本物だ、というのが現実ならば、恐らくこの宇宙は、我々の知っている宇宙ではない!・・・古代、平行宇宙というのを聞いた事があるか?」
真田の言葉を聞いて、それまで黙って成り行きを見守っていた山崎機関長が声を上げた。
「いくら暗黒星団帝国がレプリカ好きでも、島宇宙を丸々一個、偽造するのは不可能でしょう?技師長の言うとおり、推論とデーターから導き出される結果がそうだというなら・・・」
「我々が今いるこの宇宙は、パラレルワールドの一つである。さしずめヤマト≠ヘ異邦人となってしまった、という事ですかね。」
山崎の言葉を、南部が引き継いで答えた。真田は渋い表情のまま頷く。
「我々の知識では、現状の理解は困難だ。特に、ハーロックの言う、時間の経過については、今すぐに検証出来る情報、材料が無い。だが、観測、測定される座標や天体のデーターを信じない訳には行かない。それを受け入れた上で考えると、我々は、自分達のいる次元とは異なった平行宇宙にいるとしか考えられない。」
島が、戸惑ったような、少し怒ったような口調で反論する。
「もう少し慎重に考えたほうが良いのでは?コンピューターに何か仕掛けられて、データーが操作されてないか検証したんですか?空間だけでなく、時間まで飛び越えて移動したなんて、あまりに突拍子もないですよ!」
真田は島に視線を投げると、彼を諭すかのように話した。
「もちろん、計算ミス、コンピューターウイルスによる妨害等、何度も検証した。三次元立体天球儀の座標データーも、航海班がそんな事はチェックした上で算出したんだろう?なあ島、俺達技術屋は、自分がベストを尽くした仕事を信じなければ。信じたくない計算結果が出ても、理性でもって正しい物を判別し、受け入れなくてはいかん。そこに歪んだ主観を差し挟んでは、指揮官に間違った情報を与えてしまうぞ。」
航海長は黙って下を向くと、拳を握り締める。そんな様子を見た古代は、彼の肩を軽く叩いた。島は我に返ったかのように古代の方を振り返った。
「島、お前達のチームの仕事は早くて正確だよ。いや、ヤマト全体がそう言えるかな?とりあえず、データーは正確なんだ。ただ其処から導かれる現実を、我々が理由付けできていないだけさ。弱みを見せたくはないが、やはりあの海賊船≠ニ対話を再開して情報収集だな。ハーロックの話が本当なら、彼らは地球人なんだ。」
「古代・・・すまない。偉そうに任せろと言ったのに、航路を外れてしまった。その事に必要以上に焦ってしまったみたいだ。」
古代はニッと笑うと、島の胸を軽く小突いた。彼の親友でもある航海長は、苦笑いすると頭を掻く。その様子を見ていた第一艦橋の面々には、少しほっとした空気が流れていた。
それを察した真田は、古代の笑顔を見ながら考えていた。島をダシにして、スタッフの緊張を和らげるとは。やるじゃないか、艦長代理。いや、そんな腹芸は無理か?本能的にそういった事が出来るのだから、やはり人を統べる才能が豊かというべきなのかな?古代守とは違う方法ではあるが、なかなか指揮官っぽいじゃないか。
「よし!相原、もう一度ハーロックを呼び出してくれ、通信を再開する。」
古代がアルカディア号を呼び出そうと命令を発した瞬間、事態は急変した。
「艦長代理!遠距離レーダーに反応!大型の時空振をキャッチしました。宇宙艦のワープアウト反応、本艦の前方、100宇宙キロ。数は・・・増え続けています!50・・・100・・・精密計測不能、大艦隊です!」
太田が報告しながら真田を振り返った。真田は自席のパネルに飛び付き、大急ぎでその艦隊を解析する。
「古代!さっきの奴らと同じ動力反応だ!暗黒星団帝国の、いや機械化帝国の宇宙戦艦だ!凄まじい数だぞ!」

宇宙の、時間の孤児となった宇宙戦艦ヤマトに、容赦なく試練が襲い掛かる。古代は決断を強いられていた。彼は舷窓から、ヤマトと並走するアルカディア号とクイーンエメラルダス号を見た。二隻は戦列を組んだまま加速し、ヤマトを追い越して行く。彼らはやる気だ。数の差に怖気づく様子も無く、悠然と航行している。
その後姿を見つめながら、古代は考えていた。今は生き延びる事だ、全てはそれからだ。彼は叫んだ。
「みんな、一緒に地球に還るぞ!きっと何か、元の宇宙に帰る方法がある。故郷に、俺達の地球に戻る事が出来る! その為には、歯を食い縛って生き延びねばならん!死力を尽くせ!!総員、戦闘配置!」

二隻の海賊船を追って、ヤマトは征く。故郷へ還る為、彼女は再びその恐るべき威力を解放しようとしていた。
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