共同戦線 | |
作者: 戦舟 2011年06月22日(水) 02時17分22秒公開 ID:T2SlLVuuolI | |
鮮やかな噴射炎を煌かせ、後方から迫るヤマト=Bビデオパネルに映し出されるその勇姿を見ながら、ハーロックはこの後で待っている戦闘の展開を考えていた。 狙撃戦艦部隊と巡航戦艦部隊は、アルカディア号と海賊島≠ナ迎撃、水雷戦隊をエメラルダスとヤマト≠ノ任せる。問題は敵の航空戦力。空母が何処かに隠れて、こちらを窺っているのは間違いない。偵察機を出して索敵を行なうにしても、スペースウルフ隊は、台場機以外はセミオートの自動操縦機だ。やはり隠密偵察には有人機が必要だな。どうする? 暫しの思考の後、ハーロックは結論する。其処の所は伝説の宇宙戦艦≠ノお願いしてみるか。 ヤマトは波動エンジンを全開にし、通常空間で行ない得る、最大の加速を行なっていた。アルカディア号とクイーンエメラルダス号に追いつき、その隊列に加わらんとする、正にその時だった。 「後方5宇宙キロに時空震を確認!これは、でかい!巨大な何かがワープアウトしてきた模様、接近して来ます!ビデオパネル、拡大投影!」 太田が大声で報告する。次の瞬間、ヤマト第一艦橋の一同は、ビデオパネルに映し出された物体の姿に驚愕していた。あれはなんだ!?小惑星なのか?あんな物が、どうしてワープしてくるんだ!? 一同が呆気に取られる中、古代はいち早くショックから抜け出していた。彼は思う。兎に角、あのでかブツの接近を阻止せねば。転舵して全砲塔を指向させる時間は無い! 「南部!三番主砲塔、二番副砲塔、艦尾魚雷発射管、咄嗟射撃だ!準備出来次第、ともかく撃て!」 「りょ、了解!三番主砲塔、二番副砲塔、発射準備!距離はいい、方位を合わせろ!艦尾魚雷発射管、装填急げッ!!」 南部は、眼前にある火器管制システムの、パネル表示を凝視していた。赤色の表示が、次々に緑色へと変わって行く。驚異的なスピードで発射準備は整えられた。そして彼が射撃命令を出す直前、危ういタイミングでキャプテン・ハーロックの姿がビデオパネルに現われた。 「待ってくれ、ヤマトの諸君。攻撃はご遠慮願おう。時間が無いので手短に話すが、ワープしてきたのは敵ではない。小惑星を改造した、宇宙海賊の秘密基地だ。我々は海賊島≠ニ呼んでいる。宇宙要塞としての機能も持っているので、こちらの手駒として呼び寄せたのだ。」 ビデオパネルに映された巨大な岩隗を観察しながら、真田技師長は内心で感嘆の声をあげていた。 あんな巨大な物体が、制御された状態でワープしてくるとは。凄い出力と精度のワープ機関だ。あれが未来の人類が持つ科学技術≠ゥ・・・ この800年先の未来世界で、果してヤマトの力は通用するのだろうか? そんな真田の考えを見透かすかのように、古代が話し掛けてきた。 「真田さん。先の戦闘で、波動カートリッジ弾やコスモ三式弾が発揮した威力を考えると、やはり機械化帝国≠ヘ暗黒星団帝国≠サの物の未来の姿か、或いはそのテクノロジーに多大な影響を受けている未来の星間国家だと思います。暗黒星団帝国≠フ科学技術は、波動エネルギーに対して極端に脆弱。この特徴を引き継いでいるようですからね。それならば、たとえ此処が800年先の未来世界であっても、ヤマトの力は充分に通用するはずです。そう思いませんか?」 真田は、古代の精神が、既に戦闘モードでフル回転している事を知った。この状態の彼は、普段の優しげな青年とは別人だ。しかし、単なる猪武者というのではない。他人には気取られないつもりでいた、俺の内心の不安すら、今の彼は洞察してみせた。俺以外のクルーに対しては、ヤマトの打撃力の優位性を説いて安心感を持たせた。そして俺に対しては、『周りに不安を感づかれぬよう注意しろ』、と釘を刺したという事だ。指揮官古代進≠フ鋭さと厳しさに、真田は苦笑した。 艦長代理、ヤマト指揮官古代進≠フ若さ故の未熟さを、第一艦橋の皆は誰も気にしてはいない。それを受け入れた上で、古代の資質と人柄を認めているのだ。だが、年長者である俺が、不安げな所を見せてしまうと、皆が動揺してしまう。お前はそう言いたいのだな?・・・古代、君を弟のように思っていたのは確かだが、俺は君を少々見くびっていたのかもしれん。なかなか厳しいご指摘だが真理を突いているぞ。自分の役どころを間違ってはいかん。確かに、俺は後輩どもに活を入れる立場でなくちゃあな。 真田は自分の脳裏で、一瞬の間にそれだけ考えると、快活さを感じさせる大きな声で、年下の指揮官の問いに答えた。 「その通りだ、艦長代理。この短時間で、機械化帝国が波動カートリッジ弾に対する、有効な対策を施してきたとは考え難い。おそらくこの戦いでも、波動カートリッジ弾は奴らに対して、絶対的ともいえる威力を見せるだろう。ヤマトは、主砲一門あたり100発、全部で900発の波動カートリッジ弾を備蓄している。さっきの会戦で少々減ってはいるが、充分戦える残弾数だ。もっとも相手はあの大艦隊だ、余裕たっぷりでもない。南部よ、全弾命中は流石に望めないだろうが、ここはお前の腕の見せ所だ。あんまり無駄弾を出すな、頼んだぞ!」 「えェー!ここでそのプレッシャーはあんまりですよ、技師長! まあ、やるしかないんですけどねぇ。」 南部の場違いな脱力ぶりが、皆の笑いを誘う。微笑みながら真田に視線を流す古代に、真田は軽く親指を立て、ニヤリと唇の端をつり上げた。 ヤマトの第一艦橋の様子を、ビデオパネル越しに窺っていたキャプテン・ハーロックは、賛美の念を抱いていた。ヤマトの乗員達の戦意の高さと、それを維持させている指揮官。彼らは突然、異世界に放り込まれたのだ。混乱と重圧で、まともな思考など出来ないような、厳しい状況の筈。なのに、彼らは乱れる様子も無く、目前の戦闘を生き延びる事に集中している。間違い無く一騎当千のツワモノ達だ。伝説の宇宙戦艦≠ニの出会いは、この勇敢な男達と知己を得る機会だというならば、それが宇宙の神から賜った宝なのかもしれん。是非この戦いを勝ち抜いて、彼らと共に勝利の杯を挙げたいものだ。 再び上機嫌な表情となったハーロックは、ビデオパネルの向こうの古代に話しかけた。 「古代、アルカディア号は海賊島≠ニドッキングして、敵戦艦部隊を引き付ける。この海賊島≠フ火力と防御力は、中々のモノだぞ。長時間の砲戦を持久し、かなりの数の敵を撃破できるだろうと踏んでいる。その間に、君達はクイーンエメラルダス号と共同で、両翼の水雷戦隊を叩いてくれ。・・・それとヤマトには、もう一つ頼みたい事がある。」 「ヤマトに頼みたい事、ですか?・・・それは何です?」 「機械化帝国艦隊は、通常ならば戦艦部隊に、エアカバーの空母部隊が随伴している筈なのだ。しかし、あの艦隊には空母がいない。何処かに隠れて、こちらを窺っているに違いない。君達の艦載機部隊に、索敵をお願いしたい。」 古代は、戸惑った表情でハーロックに問い返した。 「ハーロック、あなた方にも艦載機部隊があったのでは?偵察機を出そうにも、我々は、この辺りの詳細な三次元宙域図も、星間物質分布図も持っていないのです。周辺の情報を豊富に持っている、あなた方の艦載機部隊の方が、その任務には適任に思えますが?」 「隠れて行動しているつもりの敵を出し抜いて、こちらが奇襲をかけたい。その為に隠密偵察と行きたい所だが、こちらの艦載機部隊、スペースウルフ隊は、隊長機以外は遠隔操作による無人機なのだ。大まかな指示を与えておけば、ある程度は機体自身が、自分で判断を行なうロボット的な機能を持ってはいるが、お忍びで覗きに出かけるような、繊細な行動は難しい。宙域図等の情報は全て提供する。君達の力を貸して欲しい。」 古代は一瞬、考え込んだ。未知の空間に、部下達を向かわせるのか?危険過ぎはしないか?しかし、彼は決断する。大丈夫だ、コスモタイガー隊ならやってくれる! 「了解しました。コスモタイガー隊は、敵空母部隊の索敵任務を行ないます。至急、データーを提供して下さい。」 古代の素早い決断に、ハーロックは破顔する。 「有り難う、古代。お礼にという訳ではないが、こちらの艦載機部隊を君らに委ねる。我らは、数の上では圧倒的に不利だ。航空戦力も然り。出来る限り、集中して運用した方が良いだろう。スペースウルフ隊の指揮官は、台場という。まだ若輩者だが、勇敢な男だ。宜しく頼む。宙域の資料と一緒に、スペースウルフのスペックシートも送る。」 古代は驚いていた。成り行きで共同戦線を張る事になったとはいえ、見ず知らずの俺達に、自分の部下を預けるというのか?そして、武器の性能まで公開するのか?何か思うところ有っての采配か、それとも、、自分達だけに利益があるような、アンフェアな行いはしない、という意思表示なのか。敵にしろ味方にしろ、こんな宇宙戦艦の指揮官は、初めてだ。 そんな古代を横目で見ながら、島が声をかける。 「なんだぁ古代、きょとんとした面して。鳩豆って奴か?まったく、あのハーロックって男は、お前以上に破天荒な人物だよな。流石は宇宙海賊、正規軍の軍人じゃあ有り得ないやり方だ。まあ、彼らを信頼して行動を共にする以外、今のヤマトには選択肢はないんだがな。」 それを聞いた古代は、横目で島を睨みつける。 「おい、島!それじゃあ俺が、無茶苦茶な男みたいじゃないか!?覚えてろよ、戦闘が終わったら・・・」 「わかった、わかったよ。悪かった!言葉の綾ってのだよ。そんなに怒るな。」 島は苦笑しながら思う。こいつ、こんな状況なのに全然固くなってる様子が無い。『戦闘が終わったら』って、もう勝った後の事を考えてやがる。・・・圧倒的に不利なこの戦闘でも、こいつの覇気みたいなモノが皆を鼓舞しているのがわかる。やっぱりヤマトを束ねているのは、古代だ。同期であり、ライバルの自負もある俺としては、悔しいような誇らしいような、複雑な気持ちだな。 アルカディア号ではハーロックが、艦載機格納庫の台場正を呼び出していた。 「台場、スペースウルフ隊の整備は済んでいるだろうな?予定通り、対艦攻撃装備で発進させろ。クイーンエメラルダス号とヤマトに合流するんだ。ヤマトは有力な艦載機隊を持っている。共同して敵の航空戦力に対抗するんだ。」 「でもキャプテン!アルカディア号はどうするんですか?一隻で敵の矢面に立つというんですか?それは危険過ぎます。いくらアルカディア号でも、スズメ蜂の大群に突進して、無事無傷って訳にはいきませんよ。」 艦内通話パネルに映る台場の表情は、ふて腐れた子供のようだ。ハーロックは苦笑する。 「あの大艦隊を昆虫扱いとは、お前も良い度胸だな、台場。だが、たまには素直に指示に従え。俺達は海賊島≠ニアルカディア号をドッキングさせて敵艦隊を中央突破する。海賊島≠フ火力と防御力を発揮させれば大丈夫だ。こっちが敵を引き付けている間に、敵の空母部隊を探し出せ。発進後は、ヤマトの指揮下に入るのだ、良いな!」 台場は、それでも不満げな表情を、隠そうとはしなかった。有紀螢は、そんな彼を微笑ましく思いながら、視線を送っていた。 台場君、お兄さんに楯突く弟って感じね。本当は、キャプテンや仲間達、そしてアルカディア号の事が心配でたまらない。だから、この艦から離れた場所では、戦いたくないのね。まったく素直じゃあないな、男の子ってのは。 台場にとっては、螢という女性が心配で離れたくない仲間達≠フ中でも、特に重要度が高い人物なのだ。という事を、イマイチ自覚してない彼女であった。 画面越しに、ハーロックの後ろにいる螢の目線に気付いた台場は、画面から視線を外すと、ぶっきらぼうに言った。 「わかりましたよ、キャプテン。でも、俺の帰って来る場所が無くなっちゃうってのはゴメンですよ!」 ハーロックはチラリと後ろを窺う。慌てて横を向く螢を確認すると、彼は、ヤレヤレ、といった風情で通話パネルに向き直った。 「台場よ。その言葉、誰に向かって言っている?まずは自分の方を心配しろ。ヤマトの艦載機はコスモタイガー≠ニ言うそうだ。いいか、虎どもに遅れを取るな!狼の如く勇敢に戦うのだ。お前ならばそれが出来る、行けっ!」 ハーロックに発破をかけられ、台場は鋭い表情を取り戻した。正面からハーロックの隻眼を見つめ、彼は答えた。 「了解しました、キャプテン!必ず戦果を上げて戻ります。そちらも御武運を!」 編隊を組んで、スペースウルフ隊はアルカディア号から離れて行く。それを見送ったハーロックは、フッと軽く息を吐くと、ヤッタランと螢に指示を伝える。 「副長、海賊島≠フメインゲートハッチを開け。アルカディア号は中央埠頭のガントリーロックで係留。螢、操縦系統、火器管制系統を本艦のコントロールシステムに接続、戦闘準備だ!」 ⇒To Be Continued... |
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