過去からの来訪者
作者: 戦船   2011年04月30日(土) 01時10分51秒公開   ID:T2SlLVuuolI
キャプテンハーロックは、ビデオパネルでその戦艦の戦いぶりを見つめていた。雷の如く圧倒的な火力で、巨大な鋼鉄の獣達を易々と引裂き、今また群がる鋼の凶鳥どもを数多の火矢で蹂躙する正体不明の宇宙戦艦。ハーロックは既に確信していた、あれは伝説の宇宙戦艦、ヤマト≠ノ違いない。ハーロックは傍らに誰かがいるかのように呟く。
「なあ、トチロー。我らの先人達が、あれ程の威力を持つテクノロジーを持っていたというのなら、何故易々と機械の体の軍門に下ってしまったのだろう?敗北するにしても、もっと誇り高く戦う事は出来なかったのだろうか?」
すると彼以外誰も見当たらない、機械に埋め尽くされた巨大な空間に、その呟きに答える声が何処からともなく響いた。
「そうだな。俺が思うには、ヤマト≠ェその身を挺して守り抜いた地球の人々は、そのヤマト≠失った事が、自らの信仰の対象を喪ってしまうのと同義だったのではないかと思うんだ。」
「忌まわしくも強大な白い彗星と戦って、辛くも勝利した代償のように地球人類が覇気を失っていくのは、崇める神がいなくなったからだというのか?」
宇宙海賊船アルカディア号の中枢大コンピューター室に、キャプテンハーロックはいた。室内にある人影は彼一人。しかし、話し声は二人。今やこのアルカディア号と一心同体となった大山トチローこそ、そのもう一人の声の主だ。トチローの姿がどうであれ、ハーロックの彼への友情が変わる事は無い。
「・・・あの戦艦、火力や機動力だけではない。的確な操舵、見事な砲術。加えて艦載機隊も高性能かつ高練度だ。友よ、ヤマト≠ヘ単なる御伽噺ではなく、実在した宇宙戦艦だと俺に教えてくれたのはお前だ。あの戦艦について、お前はどう思っている?」
彼の偉大なる友は、機械で合成された音声で語り掛ける。
「お前のカンに間違いはないと思うぞ、ハーロック。かって俺は、伝説の波動エンジンについていろいろと調べた。しかし、残念ながら実物を作り上げる程の情報を得る事はできなかった。機械化人の連中、とことん記録や伝承を潰しにかかっていたからな。しかしな、はっきりとわかった事もある。ヤマト≠ヘ、かって地球の海を圧する為に建造された、地球史上最大最強の戦艦大和≠改造して作り上げられた大宇宙戦艦だ、という事さ。あの艦の勇姿を見ろよ!心臓がバクバク踊り出しそうに興奮しないか?あれこそ漢のフネさ。正直に言えば、あれを設計した奴に少し嫉妬するね。」
ハーロックは目を伏せて軽く笑う。人としての姿を失ったトチローだが、ハーロックの脳裏には、はしゃぐトチローの姿が鮮明に浮かんでいた。
「お前がそこまで褒めちぎるのは、クイーンエメラルダス号以来だな。確かにお前の好みにぴったりの容姿だ。戦闘力も申し分ない。だが俺が感じるのは、そんな表立って見える事よりも、あの艦は背負っている重圧の大きさと、それに押し潰されない強い使命感、精神力が形になって現われている、という事だ。それを感じるからこそ、あの艦がヤマト≠セと思える。」
トチローは暫し沈黙する。少しハーロックの様子を窺った後、彼は、探るように問いかけた。
「ハーロックよ。お前は俺達のアルカディア号が、あのヤマト≠ニ比べると見劣りすると感じるか?俺達の艦には、あんな雄々しいオーラは纏う事は出来ないと思うのか?」
「俺はトチローと一緒に創り上げたこのアルカディア号≠アそ宇宙最高の艦だと思っている。ただな、アルカディア号≠ヘ俺達を縛りつけ、征服しようと欲する輩に負けない力を具現化させる為に、この宇宙に存在するモノだ。ヤマト≠フように、人類の存在を託されて、人々の心の拠り所となったフネとは在り方が違う。」
「・・・ハーロック、お前のその考えは、星野鉄郎を救い出そうと思っているのと同じ所から来ているのか?」
「俺はアルカディア号≠ニいう宇宙最強の戦艦のキャプテンだという自負が、もちろんある。・・・フヌけた地球人達の事は哀れにも思うが、彼らが何も変えようとは思わず、現状を受け入れ続けるのならば、あえて俺がどうこう言う事でもないと思っていた。だから、最強の艦を使って地球を救う、などというヒロイズムは考えもしなかった。俺の思う自由を共感できる奴らと一緒に、それを謳歌する事が出来ればそれで良いと思っていたのだ。」
「星野鉄郎はな、ハーロック。俺達が半ば見捨てた地球にも、自由を欲し、圧政を憎む人間らしい人間が今でも生まれているという証さ。まだまだ弱い子供だが、心根は強い。偉大な母と高潔な父に体も精神も引裂かれて、どうしたら良いかわからなくなっている、あのメーテルですら、鉄郎の存在を思うあまりに、生身の人間へと心が傾く自分に狼狽している。鉄郎を失う事は出来ないぞ。あいつの心には、擦れた大人の魂に何かを感じさせる瑞々しさがある。鉄郎の親父の事は残念だったが、血は争えんな。あいつはきっと大物になる!人類も捨てたもんじゃないよ。」
ハーロックは隻眼をカッと見開くと、強い意志を感じさせる声で言い切った。
「自分達だけの遊びの時間は終わりだな。機械人間どもの下っ端を突付いて自己満足に浸っていても、幸せなのは俺達だけだ。ドクター・バンは、決着の時が来たと思っている。自分の愛娘に集めさせた人々で造った、惑星メーテルの主要部品達を解放し、機械化母星を自壊させるつもりだ。その起爆剤を鉄郎に求めている。彼も少年の精神の気高さに賭けるつもりだろう。だが、鉄郎を惑星メーテルと心中させてはならんな。俺も遅ればせながら気が付いたのだ。実はまだ人間が好きで、その可能性を信じていたいという事に。」
「鉄郎の将来に、人類の未来を求めるという事か。ならば、ヤマト≠ノは何を求めている?何故追跡しているんだ?波動エンジンや、そのエネルギーを利用した超兵器達が欲しいのか。」
「もちろん興味はある。だが、それよりも俺が気になるのは、何故このタイミングで伝説の戦艦が古から蘇ってきたのか?だ。物事には全て何等かの意味がある。どんな偶然にも人間如きには気付く事が出来ないような理由がきっとある。だから、コンタクトしてみたい、過去からの来訪者と。知りたいんだ、彼らが何故ここに来たのか?時を越えたヤマト≠フ意思か、或いは宇宙の神の思し召しなのか、それとも何かの罠なのか。」
「・・・そうしたいから、そうする。それがお前だよな、ハーロック。お前の閃きのおかげで、俺達は何度も死線を掻い潜ってきた。今度もそうする事にしよう。確かに、味方になってくれるならこれほど力強い相手はいない。それにまあ、俺にしても自分の知的好奇心は隠せん。俺の知り得たヤマトとは、少々違う所もあるしな。記録によると・・・」
トチローがそこまで言ったとき、艦橋からヤッタラン副長の艦内通信が入ってきた。彼は、ここにハーロックがいるのは神聖な時間を過ごす為だと知っている。余程重要な事でない限り、割り込んでくるような事は無い。と言う事は・・・
「キャプテン!あの戦艦が呼び掛けてきたで!自分は宇宙戦艦ヤマト≠セって名乗っとる。こっちとお話したいって言っとるけど、どうしまっか?」
「わかった、副長。回線を開いてこっちに繋いでくれ。俺が直に話をすると伝えろ。」
「仰せの通りに、キャプテン。」

ハーロックは室内に備えられたビデオパネルの前に進み出る。ビデパネルが反応し、若い男が映し出された。彼は思う。この若さで、あれ程のキレを見せる戦闘を指揮したのか。さぞかし多くの修羅場を切り抜けてきたに違いない。・・・不思議と何処かで知っている男のような気もする。何にせよこれまでに出会ってきた、歴戦の勇士達と同じ匂いがする、嬉しいじゃないか。
ハーロックは、重々しく、しかし何処かしら嬉しそうな口調で自分から切り出した。
「伝説の宇宙戦艦ヤマト≠フ戦いぶり、しかと拝見させていただいた。俺はハーロック。この海賊船、アルカディア号のキャプテンだ。」
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