邂逅 |
作者: 戦船 2011年04月12日(火) 02時35分17秒公開 ID:T2SlLVuuolI |
「敵攻撃機、増速シツツ接近シテキマス。距離20宇宙キロ!」 古代はビデオパネルに映される敵機を凝視しながら考えていた。我々は彼らの母星を根こそぎ葬り去った。彼らにとっては当然許し難い存在なのだ。休戦など考えていないという事か。しかし、このまま殺られる訳にはいかない。生きて地球に帰らねば。一瞬、ユキの美しい笑顔が脳裏を横切った。 「島、取舵70度。敵編隊を1,2番副砲塔の射界に入れろ。南部、1,2番副砲塔、打ち方始め。タイミングは任せる。アナライザー、コスモ三式弾の攻撃と同時にコスモタイガー隊突撃。敵攻撃機を殲滅する!」 ヤマトが左に進路を取ると同時に、流れるように副砲塔が旋回した。砲身が生き物のように、敵編隊に向けて鎌首をもたげる。 「距離15宇宙キロ。コスモ三式弾有効射程距離ニ入リマシタ!」 「1番2番副砲、発射!!」 主砲よりは幾分控えめな、しかし鮮やかな青い閃光が迸る。直径15.5cmの砲弾が6本の光の矢になって飛翔する。砲弾は敵機編隊の真中で炸裂、波動エネルギーの散弾となって彼らを蹂躙した。爆発し四散する機体、損傷を受け離脱して行く機体。惨憺たる有様だ。 「コチラびっぐわん。たいがーりーだー、突撃開始セヨ!」 「タイガーリーダー、了解ィ!コスモタイガー隊、全機突撃開始!」 コスモ三式弾の攻撃で混乱し、編隊の体を成していない敵部隊に、飢えた宇宙の虎が挑みかかった。敵攻撃機は、コスモタイガー隊に対し有効な反撃を行えないまま数を減らしていく。それでも数の多さに物を言わせ、ヤマトに接近してくる機体もあった。 「コスモタイガー隊ノ阻止線ヲ突破サレマシタ!対艦ミサイルニヨル攻撃ガ予想サレマス、機数ハ12機。南部サン!」 「了解!右舷パルスレーザー砲群、掃射開始!」 艦橋周辺に装備される対空火器が一斉に光のシャワーを吐き出した。敵機は次々とそれに絡め取られ、爆発していった。 「接近ヲ許シタ敵機ヲ全機撃墜!投弾ノ阻止ニ成功シマシタ。」 「どうやら、あの攻撃機部隊は防ぎきる事ができたみたいだな。」 幾分安心した様子で島が呟いた。しかし、古代は気を抜けずにいた。背筋を走るこの感覚。悪寒と呼ぶのが一番近いのだろうが、もっと切羽詰った感じも混ざった嫌な感覚は、まだ消えていない。奴らはまたやってくる。そう思えた。 「まだ安心できない、警戒を怠るな。太田、敵艦隊の動きは?」 「射程距離外に退避していると思われます。遠距離レーダーに反応なし。」 「敵機編隊ハ80%ヲ撃墜マタハ撃破。敵機ハ撤退ヲ開始シテイマス。追撃ヲ命ジマスカ?」 「いや、コスモタイガー隊を呼び戻せ。1小隊づつローテを組んで着艦、燃料補給だ。半分の機体には対艦攻撃装備をさせろ。」 戦闘配置を解かない古代に対し、真田は少し渋い表情で意見した。 「艦長代理、コスモタイガー隊は確かに圧勝した。損害は皆無と言っていい。ヤマトもそうだ。最初の被弾以外、大した傷はない。だが機械とは違い人間とは疲れるものだ。休ませる必要があるんじゃないのか?」 「真田さん、それは理解しているつもりです。ですが俺には、奴らが諦めてただ退散していくだけだとは思えない。それに・・・」 「それに、何だ? 古代、指揮官はお前だ。命令ならばもちろん従うさ。ただ、意見は最後まで聞かせてくれ。」 古代は黙って頷くと、太田の方を向いて訊ねた。 「太田、デザリアム艦隊と交戦していた所属不明艦はどうなっている?」 「はい。後方50宇宙キロ。等間隔を保ってヤマトを追尾してきます。艦数は2隻。見た事のない艦影です。データベースにも一致、もしくは類似する宇宙艦はありません。」 それを聞いた真田は、古代に問いかけた。 「つまり、敵の敵は味方、だとは限らないと。そう言いたい訳か?」 「少なくとも対話が成立しない限り、安心はできないと思います。」 「ならば古代、話し掛けてみよう。それがお前のやり方じゃないのか?さっきだって、狙撃戦艦を全部倒してしまう事が可能でも、それをしなかった。対話を望んだじゃないか。」 「真田さん。倒せる時に倒す、逆襲を許さない為に。俺はそれをためらってしまった。指揮官として、乗組員の命を預かる者として、自分は正しい判断が出来ているんでしょうか?」 真田は、古代を厳しい表情で見詰ていたが、ふっと表情を緩めた。 「戦闘指揮官としては、確かにな・・・。しかしな、そんなお前だから、俺はついていこうと思えるんだ。敵であろうと、救える命は救いたい。そうだよな?信頼しているぞ、艦長代理!」 古代は第一艦橋を見回した。仲間達の視線が彼に集まっていた。皆、暖かい感情を湛えているのが分かった。彼は一瞬、ほっとした笑顔を見せると、すぐにきりっとした表情に戻っていた。 そんな古代に対し、太田がやや遠慮がちに話し掛けた。 「それと、艦長代理。これは私見というか、私の感想というか・・・。」 「・・・?太田、思う所があるなら聞かせてくれ。」 「はい。不明艦なんですが、確かにデータベースには無い艦影です。しかし、この艦のデザイン、意匠は明らかに地球人が関与していると思います。見てください。」 太田はビデオパネルに、ヤマトに追従してくる不明艦2隻を拡大投影した。それを見た真田は、驚きの表情を見せながら言った。 「太田。これは何かの冗談か?ドクロ型の艦首に船尾楼。それに、もう一隻は飛行船だぞ。おまけに2隻共、海賊旗まで掲げている。どうやって宇宙空間ではためかせているんだ?」 どうしても、細かいディティールまで気になってしまうのが技師長らしい。 「古代さん、宇宙海賊って奴ですかね?なかなか粋なデザインですよ。俺は嫌いじゃないなぁ。」 南部は何故か少し嬉しそうだ。あの艦達の容姿は、どうも彼の琴線に触れるようだ。 「南部。ヘンな事ではしゃぐな!お前の趣味はこの際どうでもいいんだよ。肝心なのは、太田も言うように地球人の艦なのかという事だ。」 古代にたしなめられ、南部は肩をすくめて顔をしかめた。そんな彼らを見ながら、少々困惑気味に真田が言った。 「しかし、2隻ともこのヤマトの大きさを凌ぐ巨艦だぞ。防衛軍で建造された艦で、そんな規模の物があるなら俺が知らない筈はない。それに・・・波動エンジンのエネルギー反応が無い。」 島が操縦桿を握ったまま、古代に話し掛けた。 「地球が新造する大型艦で波動エンジン以外の機関を搭載するなんて、考えられんよ。何か、また罠なんかじゃないだろうな?」 一同はデザリアム本星が、地球にカムフラージュしてヤマトを陥れようとした事を思い出していた。何とも言えない微妙な雰囲気が第一艦橋に漂う。誰もが事態を測りかねていた。沈黙を破ったのは、山崎機関長だった。 「化けるならこんな初めて見る形ではなく、既存の戦艦に化けるでしょう?暗黒星団帝国ならそう来ると思います。地球ですら、あそこまで精巧に模倣したんですよ?出来ない訳が無い。もっとも、左右逆にコピーしてしまうってのはあるかもしれませんね。」 一同、みんなが偽の“考える人”を思い出して失笑した。古代が苦笑いしながら山崎を見ると、機関長は軽くウインクしてこう言った。 「艦長代理、当って砕けろです。話がわかる相手かどうかは、話してみなきゃ分からんでしょう?」 古代は胸の中のつかえが、すっと消えてゆくような感覚を覚えていた。そう、俺は一人じゃない。協力しあえる仲間達と、このヤマト≠ェある限り、どんな相手だろうと恐れる事はないんだと。 「相原、不明艦の指揮官宛に通信を送れ。こちらの所属、艦名と敵対の意思が無い事。対話を望んでいる事を伝えてくれ。」 「了解、発信します。『我、地球防衛軍所属 宇宙戦艦ヤマト=B 我に貴艦らと交戦する意思は無し。話し合いにより、双方の安全を確保したし。返信を請う。以上。』」 暫くの沈黙の後、相原の操る通信パネルに反応があった。通信を受け取った相原が報告する。 「艦長代理。相手から返信がありました。直接、音声と画像で対話したい旨を伝えてきています。どうしますか?」 「わかった。繋いでくれ。」 古代は艦橋の中央に進み出ると、頭上のビデオパネルを見上げた。ビデパネルが反応し、隻眼の男が映し出された。古代は思った。守兄さんに、何処となく似ている気がする。 彼は、重々しく、しかし何処かしら嬉しそうな口調で名乗った。 「伝説の宇宙戦艦ヤマト≠フ戦いぶり、しかと拝見させていただいた。俺はハーロック。この海賊船、アルカディア号のキャプテンだ。」 |
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