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>>>Alice
-- 08/12/23-22:33..No.[131] |
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「やっぱ白いご飯には梅干だよな〜!」 どんぶり飯に貴重な梅干を3個も乗せて、古代が一人ごちる。 「そうそう、梅干は日本人の心です!ぱりぱりの焼海苔に薫り高い緑茶にほっかほかの味噌汁!。嗚呼っ、俺、日本人に生まれて、ほんっっっっとによかった!」 隣では太田が、3杯目のご飯をおかわりしながら同調する。 多大な犠牲を払いながらも宿敵ガミラスを打ち破ったヤマトは、一路地球を目指してひた走っていた。工場ではコスモクリーナーの組み立てがほぼ完了し、艦内にはなごやかな空気が満ちている。 「あら、ほんとに美味しそうね。」 通りかかった雪が、大粒の梅干に目を留める。 「ひとつちょうだい、古代君。」 雪はその細い指で、梅干を一つつまみあげると、そのまま口に放りこんだ。 「う〜ん、酸っぱい…」 「行儀悪いぞ、雪!」 口元を思いっきりすぼめた雪に古代が抗議する。 「あれ、雪さん、食事はそれだけですか?」 相原が、グレープフルーツジュースだけの雪のトレーを指して聞く。 「ええ、なんだか食欲がなくて。それじゃ…」 雪はまるでそれ以上の質問を避けるかのように、そそくさと去って行った。 「なんか、変じゃないか、今日の雪。」と島。 「う〜ん、心なしか顔色も冴えないような…」と南部。 「ちょっとむくんでませんか?それとも太ったのかな。」と太田。 「ジュースだけなんて、体調でも悪いんですかね。」と相原。 「梅干にグレープフルーツジュースって、まるでツワリみたいだなぁ。」と加藤が笑う。 「ははは、まさか…」と沸き起こった笑いが次の瞬間凍りつく。一同、口をあんぐりと開けて、顔を見合わせる。 「え?まさか?」 「そんなばかな!冗談だろ?」 「雪がツワリ?」 「そう言えばさっき…」山本がおもむろに口を挿む。 「俺、医務室に行ったんだ。指にでかいトゲが刺さってさ。『トゲくらいで大騒ぎするな、バカモン!』って佐渡先生にはどやされたんだけど、カーテンの向こう側に雪さんがいて、ドリンク剤を飲んでた。」 「ツワリの薬か?」(注:そんなものは存在しません) 「わからないけど、妙にしょぼんとした背中だったなぁ…」 「じゃあ、ほんとにもしかするともしかしたりして。」 「…ってことは、誰が父親なんだ?」 みなの視線が一斉に古代に集中する。 「ち、違うよ!俺じゃない。だいたいまだ告白もしてないのに、そんな畏れ多いこと…」 古代が真赤になって否定する。 「そうだよな。古代にそんな度胸、あるわけないし。それじゃ一体…」とあっさり納得する島。 「ヤマト艦内の誰かなんでしょうね。」 普段はおっとりしている相原が爆弾発言をする。 ヤマト艦内の誰かと言えば、みんなに等しくその嫌疑が掛かることになる。心を一つにして戦ってきた仲間達であるが、ここに来て一気に猜疑心が膨れ上がり、疑心暗鬼の暗雲に包まれた。 「真田さんってことは、ないよな?」と南部がひそひそ。 「わからないぜ。真田さんってけっこういい男だし…」と島もひそひそ。 「だけど10歳も年上なんだぜ!」泣きそうな古代。 「愛に年の差なんて関係ありません。」きっぱり断定する太田。 「そんなこと言い出したら、艦長や機関長だって」と話をややこしくする加藤。 「そう言えば機関長、雪さんのご両親とも面識があるんですよね。怪しいですね〜。」したり顔の相原が頷く。 「佐渡先生だって、しょっちゅう雪さんと二人っきりだしな。」と山本。 「そんな、艦長も機関長も佐渡先生も一体いくつだと思ってるんだ。自分の娘より若い女に手を出すなんて、ほとんど犯罪じゃないか!」と古代が絶叫する。 食堂中の視線が集まりつつある。こんな場所でこんな話は相応しくない。島が早々に結論を下し、話題を切り上げにかかる。 「とにかくだ、誰が父親であるにせよ、地球に無事帰りつくまで、皆で雪を支えてやろうじゃないか。」どこまでいっても優等生な島であった。 「うん、仲間なんだから、俺達。」間髪入れず、上官に追随する太鼓持ち太田。 「ま、地球には、一人でも多くの子供が必要だからな。」と爽やか系加藤。 「コスモクリーナーと共に、次の世代第1号が帰還するわけか。」と爽やか系その2山本。 「まさに希望の子ですね。」意外とロマンチックな南部。 「じゃ、そーゆーことで…」 あまりの衝撃に腰砕けになってワナワナしている古代を一人残して、皆、それぞれの持ち場に散っていった。 「どうもなんだかおかしいわ…」 雪はここ数日のクルーの態度に疑問を覚えていた。特に同年代のクルー達が妙に雪に優しいのだ。重い物を持っていれば、どこからともなく誰かが飛んで来て、荷物を持ってくれる。高い所の薬品箱に手を伸ばせば、何故か医務室にも必ず誰かが居合わせて、箱を下してくれる。艦橋にいれば、しきりと休憩を取るようにと勧められる。艦内廊下をつい走った時は、「廊下は走っちゃダメだ!」と小学生のように注意される。食堂では、誰かがイスを引いてくれたり、特大グラスに飲みたくもない牛乳を並々とついでくれたりする。また「ブーツはやめたほうがいいよ」などと意味不明な耳打ちもされた。目が合うと、たいてい理解といたわりに満ちた微笑みが返ってくる。しかし古代だけは、決して自分と目をあわせようとはしないのだ。 「なんなのよ、一体。」 雪は一人頭をひねるが、とんと思い当たる節がない。 その頃、煮詰まった古代は決意を固めて、艦内工場の真田を訪ねていた。 「真田さん。」 「お、どうした、古代。えらく深刻な顔をして。」 「真田さん、この際だから単刀直入に聞きます。真田さんはどんな女がタイプなんですか?」 「はぁ?」 「だから、好みのタイプを聞いているんです!」 なるほど…、古代もそういうことに悶々とする年頃か。かわいいもんだ。真田は年長者の余裕をたたえて微笑む。 「た、例えば、雪みたいな年下の女の子は、す、好きですか?」 「雪か…、そうだなぁ。俺にとっては妹みたいなもんだが、まあ、確かにかわいいよな。あと数年もすれば、とびっきりのいい女になるだろう。」 「さ、さなださん…、だ、だからって今のうちに唾つけたんですか?!」 「えっ?」 「俺は真田さんを見損ないました!」 それだけ叫ぶと古代は工場を飛び出していった。 その頃、好奇心にかられた島は、機関室の徳川を訪ねていた。 「徳川さん。ちょっとお聞きしたいことが…。」 「なにかな?」 徳川は手についたオイルを拭き拭き、島に向き直る。 「徳川さんは、若い女の子は好きですか?」 「ぶっ!」 なるほど…、島もそういうことに悶々とする年頃か。かわいいもんだのう。徳川は人生の後輩にこの上もなく優しい眼差しを向ける。ここは百戦錬磨のこの徳川が、一つ力になってやろう。 「そりゃ、もちろん、若い女の子は大好きじゃよ。男はいくつになってもそうありたいもんだ。」 「今でも女の子を引っ掛けたりするんですか?」 「ゴホン!わしほどの年代になるとだな、上手に(お茶に)誘うんじゃよ。まあ、相手もこっちが年配ということで、ガードが緩むんじゃろうな。」 「やっぱり…。じゃあ、例えば雪みたいな10代の女の子でも、うまくいきますかね?」 「生活班長か?これまた孫みたいな年齢じゃが、あんなかわいらしいお嬢さんだったら、冥土の土産としては最高だな。」 「そうか、冥土の土産だったんですね。」 島は妙に納得して機関室を後にする。 その頃クルー達は、様々な思惑から、自分が目星をつけた人物に事の真偽を確かめて回っていた。そして、質問や探りの意味を大きく取り違えた相手から、限りなく怪しく珍妙な回答を得て、さらに混乱を極めていた。 雪…、僕は初めて会った時から君のことが好きだった。君もてっきり僕のことを…と思っていたのに、地球に帰ったら必ず言おうと心に決めていたのに、一体どうしてこんなことになってしまったんだ。雪、かわいそうな、雪。宇宙一の頭脳を誇る真田さんにかかったら、お嬢様育ちで箱入り娘の君なんかひとたまりもないよね。狡猾な真田さんの手練手管に騙されて、あんなことや、こんなことや、もしかしてそんなことまで…!!! (注:お嬢様育ちの箱入り娘は、普通戦艦に乗りこんだりしません。) 展望室で一人悲嘆にくれていた古代を島が捉まえた。 「あ、古代。どうもな、徳川さんが怪しいぞ。」 「違うんだよ、島。相手は真田さんなんだ。」と涙目の古代。 「お、いたいた。あのな、コック長が意味深なこと、言ってたぜ。」と加藤。 「ちょっと聞いてくださいよ。実は…」 「僕の得た情報によりますと…」 それぞれが個人的リサーチの結果を持ち寄るが、どれ一つとして共通項がない。 「これは本人に確かめるしかないだろう。」 「そんなこと、面と向かって聞けるかよ!」 「じゃあ、艦医の佐渡先生だ。」 一同はそれっとばかりに医務室の佐渡の元に押しかけた。なだれ込んで来た若いクルー達に佐渡は顔をしかめた。 「なんじゃい、騒々しい。」 「佐渡先生、先生ならご存知でしょう。雪のお腹の子、父親が誰なのか!」 佐渡は含んだばかりの酒を思いっきり吹き出した。 「お、お前達…、一体なにを…」 「先生、教えてください。俺はもうこんな状態には耐えられない!」古代が拳を突き上げて叫ぶ。 「俺達、雪の力になりたいんですよ。」 「父親は子供を認知してるんですか?」 「まさか先生の子じゃないでしょうね?」 「誰のお腹の子ですって?」 大騒ぎだった医務室が一瞬にして静まり返る。恐る恐る振りかえると、そこには腰に両手を当てた雪が仁王立ちになっていた。 「これはどういうこと?」 「いや、その…」しどろもどろの一同。 「雪、隠さなくてもいい。一人で苦しむことはないんだよ。」古代が一歩進みでる。 「だから何を隠すんですって?」 「君は妊娠してるんだろう。誰の子なんだい?そいつは、このことを知ってるのか?」 憎からず思っている男の口から出た、あんまりと言えばあんまりの言葉に唖然とする雪。 「なにを馬鹿なことを言っとるんじゃ、古代。雪は妊娠なんかしとらんぞ。」佐渡が割ってはいる。 「だって先生、雪さんは酸っぱい物ばかり食べたがるんですよ。」 「食欲もないし…」 「顔色も悪かった…」 「確かに体もむくんでました。」(←余計なお世話) 口々に言い募る面々を、佐渡は両手を振って遮る。 「わかった、わかった。で、それはいつの話じゃ?」 「確か3日前。」 「3日前のう…。」 「二日酔いよ。」 雪がポツリと漏らす。 「幕の内チーフが艦内でこっそり醸造したお酒を偶然見つけて、ちょっと味見…だけのつもりが、つい飲みすぎちゃったのよ。一応未成年だし、お酒は特別な行事の時以外は許されていないし、盗み飲みがばれるのも恥ずかしかったし、それで黙ってたんだけど…。それにしても、」 そこで雪はキッと顔を上げて、一同を睨みつける。 「それにしても、みんな、ひどい!」 目には涙も浮かんでいる。ユキの涙…、それは一粒でも主砲並みの威力があるかもしれない。 「えっと、その、俺はそんなことがあるはずない!…ってずっと思ってたんだぜ。」突然島が裏切る。 「俺もですよ、俺も!誰がなんと言っても、120%、信じてませんでした。」と逃げ足は速いお坊ちゃま南部。 「ツワリなんて、言い出したのは確か加藤隊長ですよね。」と矛先を他人に振る相原。 「ええええっ!でも1番大騒ぎしたのは、なんと言っても古代だよな。」ビシリ!と古代を指差す加藤。 「そうそう、真田さんに聞きに行ったのも、古代だし…」自分達の行動はまとめて棚に上げまくる山本。 「古代さん、ひどいですよ。生活班長を疑うなんて。」そして冷たく掌を返す太田。 腕は立つが口は立たない古代は、非難の集中砲火を浴びて口をパクパクするばかり。 「古代君の馬鹿!もう、大っ嫌い!」 雪はハンカチで目を押さえ、医務室から走り去った。取り残された古代は言葉もない。 「な〜んだ、ただの二日酔いか。」 「お騒がせだよなぁ、雪も。」 「これで一件落着ですね。」 「じゃ、航路計算でもするか。」 「俺達は機体の整備といこうぜ。」 疑問氷解で晴々として清々しい気分の一同は、さわやかに笑い合いながら、医務室を後にする。たった一人茫然自失の古代を残して…。その耳には雪の「大っ嫌い!」の響きがいつまでもワンワンと木霊していた。 急げヤマトよ。地球はもうすぐそこ、地球の人達はお前の帰りだけを待っている。…けど、デスラー艦もすぐ側にいたりして。 |
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ごめんね、古代君 >>> Alice -- 08/12/23-22:40..No.[132] | |||
これは2002年に書いて、そのまま寝かせてあったお話です。時間がたった分だけ熟成したかというと、そんなこともありませんが、ちょうどクリスマスですし(?)、楽しい気分の盛り上げに少しでも役立ってくれれば嬉しいです。Merry Christmas! | |||
ありがとうございます^^ >>> 長田亀吉 -- 08/12/23-23:33..No.[133] | |||
楽しい話は元気が出ますね^^ ありがとうございます! | |||
最高のクリスマスプレゼントです〜 >>> ぴよ -- 08/12/25-22:57..No.[134] | |||
こんばんは。ああ,こんな凄い名作をひさびさに読めて超ラッキー!! Aliceさんに百万回のキスを! 古代くんが真っ先に疑ったのが技師長だ,というところが最高です。そう,人気投票首位のいい男ですからねぇ(ふふふ) 古代君をはじめ,加藤君や島君,南部君の反応がまさにご本人様そのもので,性格をわしづかみ,という感じもスバラシイです。 ところどころのカッコ内のツッコミも最高で,お腹がよじれるほど笑わせていただきました(^o^)/ いつも名作を,ありがとうございます。 | |||