Yamato Only Novel Deck(ver3.0)


『宇宙最強の『秘密』とは…』

 >>>やすひろ   -- 06/04/05-23:27..No.[119]  
    真田志郎の目が、何時にも増して鋭く光り、各種のデータを検証していく。
電子報告書から目を上げた後、フッと表情を緩める真田。
「…よし、いいだろう。お疲れ様!」
ヤマト乗組員・岬甲介は、内心、ホッと胸を撫で下ろした。

今日、彼は丸二日間をかけて実施された四半期に一度の重点点検、第3期第2次総合設備点検の実施報告書を真田に提出したのであった。

全長260m以上、排水量6万数千トンにも及ぶこの巨大戦艦を常時支障無く稼動させることは、並大抵の努力で成し遂げられるものではない。
ヤマトの生命線ともいえる波動エンジン、主砲からパルスレーザーに至るまでの火器類は言うに及ばす、通信機器、ライフラインとしての給排水や空調システム、艦内エレベーターやムーヴィンウォークなど、点検整備の必要な装置・機器は数え切れない程存在している。

無論、ヤマトが作戦行動中であっても、それは滞りなく進めなければならない。万一、敵艦隊と遭遇した際にトラブルが発生してしまったら、戦わずにして敗北を意味することになるのだから。
航海・機関・戦闘・通信・生活の各班と連携しつつ艦全体のメンテナンスに目を光らせる、それは工作班にとって最も重要な任務の一つといっていい。
設備点検部門の技術士官として、岬は真田の右腕ともいえる存在なのだ。

「ピピッ、ピピッ、ピピッ…」
士官室へ戻りつかの間の安堵に浸っていた彼を、艦内通信のコール音が現実へと呼び戻した。
生活班の当直員からである。

「居住ブロックA15号室で、水漏れ発生とのことです。
 岬さん、修理をお願い出来ませんか」
「おいおい。
 水漏れぐらい、そっちでメンテしてくれよ」
「それが、調理室で器具の故障があって、全員出払っているんですよ。
 何しろ、明日の仕込みが出来ないって、料理長がえらくオカンムリなもんで…」
「…解ったよ、直ぐに行くよ」

太陽系外縁部を航行中の平時ながら、彼の業務は日々多忙を極めている。
「全くもう、俺はクラ○アンかってえの…」
名前も名前だし仕方ないかと、大昔のTVドラマを思い起こしつつ、トレードマークであるアフロヘア風の頭を掻きながら、岬は居住ブロックへと向かった。

今まで画面に出たことといえば、乗組員の乗艦パレードとか、地球に「さようなら〜っ」するパーティーとか、とにかくその他大勢のシーンしかないものの、何を隠そう彼もまた、地球を滅亡の危機から救ったイスカンダルへの旅に参加した当初からのヤマト乗組員である。
(ちなみに、ここでいう画面とはあくまで地球防衛軍公式記録映像のことであり、決して某人気アニメ作品上のことではないので念のため)

乗組員の生活サイクルのために、照明が落とされ夜の時間帯が演出されている艦内通路を、岬が進んでくる。
「…Aの15号室っと、ここだな」
気を取り直して姿勢を正し、インターフォンを押す岬。
「工作班の岬です、修理に来ました」
すると、彼の耳に、突然若い女性の声が聞こえてきた。
「はいっ、今開けます…」

(えっ!)
突然のことに、岬は戸惑った。
扉がスライドして姿を現したのは、何と真田澪である。
(おぉっ!)
岬は小躍りしたい気分だった。
彼自身は、第一艦橋の真田を訪ねた時などにレーダー席に座る彼女をチラッと見かけるぐらいだったが、イカルスからの出航以来、乗組員の間では澪の話題で持ちきりだったからだ。

躊躇いがちな様子で、岬に申し出る澪。
「シャワーのお湯が止まらなくなってしまって…。
 ちょっと、見てもらってもいいですか?」
湯上りなのだろう。Tシャツとショートパンツに着替えている彼女だったが、艶やかな亜麻色の髪はまだしっとりと濡れたままだ。
(か、可愛い…。しかも、凄く性格の良さそうな子じゃないか!)

「それじゃ、さっそく見てみましょうか」
勤めて平静を装いながら、岬は水音のしているシャワーブースへと入った。
幸い、水漏れの原因は水栓金具が外れたための様である。
「大丈夫、直ぐに直りますよ」
澪を振返り、彼は余裕の笑みを浮かべた。

          ☆     ☆     ☆

てきぱきと修理を終えた岬に、お辞儀をして感謝する澪。
「夜遅くに、本当に有難うございました」
「いやぁ、これも仕事ですから」
すると、澪が上目遣いに岬に問いかける。
「あの…、工作班の岬甲介さん、ですよね」
「は、はい!
 でも、どうして僕の名前を?」
(…って言うか、どうしてこんなおいしい展開に?)

古代や島は言うに及ばず、宇宙戦士訓練学校で同期の南部や太田、相原にさえもキャラの扱いで大きく水を開けられてしまっている岬にとっては、至極もっともな疑問である。
(ちなみに、ここでいう展開や扱いとはあくまで岬甲介の内面における心理事象上の葛藤であり、決して某人気アニメ作品上における…。
あ〜、しつこい)

にっこりと微笑えむ澪。
「それはね、叔父が貴方のことをいつも褒めているから…」
「! 技師長が…」
深く頷きながら、澪は言葉を続ける。
「ええ、判断は的確だし、責任感は強いし、俺の後任はアイツしかいないって。
 岬さんて、とっても優秀なんですね。
 私、尊敬しちゃいます!」
(おぉぉっ!!)
その言葉に、最早、勇気は「無限に拡がる大宇宙」状態の岬。

実は、かつて彼も森雪に憧れていた一人だったが、何しろ競争相手はあの古代進である。
殆ど会話をすることさえ出来ずあっという間に失恋してしまい、以来、仕事一筋の青春を送ってきたのであった。
(よぉーし。こっ、今度こそ!)

「あ、あの…。
 今日はもう遅いから、今度ぜひ、ゆっくりお話し出来ませんか?」
「…はい。
 私も、もっと岬さんのことが知りたいです」
「ありがとう!
 これ、僕の直通コードです」
「それじゃ、私のコードも…」
互いに携帯端末のコードナンバーを教え合う二人。
「…明日、連絡してもいいですか」
「えぇ、明日、待っていますね」

「いやっほーう!」
居住ブロックからの帰り道。天にも昇る心地の岬は、艦内通路の天井に頭をぶつけんばかりに飛び上がった。

(…艦内で二人っきりになれる処といえば、全天球レーダー室だな。
明日の朝一番に、臨時点検の予定を入れておくか)
既に彼の頭の中では、初デートはおろか、プロポーズやら、結納やら、ヤマトの仲間を招待しての結婚式に至るまで、その妄想は果てしなく拡がっていたのだった。

そこで、岬はふと我に返った。
唯一の不安材料といえば、彼女が上司・真田の姪であることだろうか。
(やっぱり、お付き合いする前にきちんと挨拶しておかないとな…)
妄想の最中にも、あくまで律儀さを忘れない岬なのであった。

          ☆     ☆     ☆

「義父さま(とうさま)。
 何だか私、気が咎めるわ…」
技師長室のソファに座って紅茶を飲みながら、真田と澪が向き合っている。

「私だって、澪をこんな危険な目に遭わせるのは本意じゃない。
 だが、これはヤマトにとって必要不可欠な極秘任務なのだ」
やがて拳を握り締め、力説を始める真田。
「どれだけ高度な装備を持っていても、それだけでは決して戦いには勝てん。
 この艦を動かすのは人間だ、人間の心だ。
 紅一点の女性隊員の存在によって、男連中の士気を無限大にまで高める。
 人間心理の深淵に根ざしたこのきめ細かいオペレーションこそが、ヤマトを宇宙最強の戦艦たらしめてきたのだ。
 私はこれを、『真っ赤なスカーフ』効果と名づけている!」

(みんなをその気に…、ってことよね)
ヤマト食堂などで頻繁に流れる懐メロの歌詞を口ずさみながら、澪は頷いた。

「今までの航海では森君がこの重責を担ってきたが、彼女は古代の奴と出来ちまっ…、じゃなくて宜しくやりやがっ…。
 …コホンッ、まあ何と言うか公認の仲になってしまったからなぁ。
 最近では、乗組員達のレスポンス・データが落ちてきていたんだ」

「でも、私にうまく出来るかしら…」
「心配はいらん。
 こんなこともあろうかと、過去200年間の女性雑誌の記事などをデータベースに、私が心血を注いで創り上げた体感シュミレーションソフト、『男のモチベーションを高める256の方法』、そして『男をはぐらかすテクニック・ベスト100』を用意しておいた。
 この2つのソフトをフルに活用して、イメージルームで特訓すればいい。
 …お前にとっても、将来のために男性心理について学ぶいい機会かもしれん。
 頼んだぞ、澪」

確かに、今日の某乗組員の舞い上がり方を思えば、例えその怪しげなソフトの力を借りなくても任務は果たせるのかもしれない。
(でも…)
浮かない表情の澪に、真田が問いかける。
「どうしたんだ。
 …まさか、ヤマトの中に好きな人でも出来たんじゃ…」
「ヤダッ、まさか…」
何故か古代進の顔が想い浮かび、ほんのりと赤く染まった頬に、そっと両手で触れる澪なのであった。


打算ありあり作戦と乙女の純情

>>> 長田亀吉   -- 06/04/06-00:03..No.[120]
 
    素晴らしい!
作戦は打算ありありでも、澪のリアクションが純情で素敵です。
それにしても、水漏れ甲介、懐かしいですね(笑)

 
感謝とお礼を申し上げます

>>> やすひろ   -- 06/04/06-01:26..No.[121]
 
    艦長、早速のご返信、感謝の極みであります。(ちなみに、石立ドラマ、大好きなんです)
無意識の内に、若干、○ンダムが混ざってしまった様ですが、何卒お許し下さい。(^^;
また、Yamato Novelsの各作品を大いに参考にさせて頂きました。作者の皆様方にお礼申し上げます。
 
うちの給湯器も水漏れしてます

>>> Alice   -- 06/04/18-23:41..No.[123]
 
    やすひろさん、はじめまして。すごく楽しいお話ですね。読みながらクスクス笑ってしまいました。
それにしても真田さんったら、メカニックだけでなくクルーの心理までメンテしているなんて・・・、ほんとマルチな技師長です。もし澪のシャワーが壊れたのも意図的だったとしたら、まさに水も漏らさぬ作戦ですね。
 
身に余るコメントです

>>> やすひろ   -- 06/04/20-00:42..No.[124]
 
    Alice様へ。
『イカルスダイアリー』愛読者の一人としては、こんなエピソードを投稿して良かったのかどうか…。(^^;
拙作への身に余るコメント、ありがとうございました。^^)
 


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