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>>>Alice
-- 06/01/08-11:46..No.[117] |
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ビシィィィッ! 一点の曇りもない半紙の上に、黒々とした点が打ち込まれる。 「1年の初めに雑念を取り払って筆を取る。自分の心と向き合うがごとく、真っ白な半紙に己を映し出す。これが書初めの極意だ。」 たっぷりと墨を含ませた筆を力強く動かしながら、沖田が厳かに言う。オクトパス星団を無事に抜け、餅つき大会も終わり、約3週間ぶりに動き始めたヤマト艦内では、新年の行事が目白押しだ。餅の食べすぎと酒の飲みすぎで新年早々ぐったりモードの面々を待っていたのは、艦長主催の大書初め大会だった。もちろん全員参加である。 ぐぐぐぐっと勢いよく筆を払い、沖田は4文字を書き終えた。半紙の上には『初心貫徹』。まだ乾ききらない筆跡から、湯気が立ち上りそうなほど気合がこもった字だ。 「お題は自由です。今年の目標や自分の好きな言葉、なんでも結構ですよ。優秀作品は食堂に貼りだしますから、皆さん、がんばってくださいね。」ユキが墨汁や筆をクルーに配っている。 「げ〜〜っ、新年早々、またなんて面倒なことをさせるんだ・・・。」古代が文句をたれる。 「書初めなんて、小学校以来だなぁ。」島はなんだか懐かしげな表情だ。 「島、お前、得意なのか、習字?」 「小学校の時は金賞を貰ったけど。ま、日本人の一般教養だよな。」 「ちぇっ、優等生め。」 「字がきれいだと、祝儀袋に名前を書く時、重宝しますよね。」と、ご祝儀関係はたっぷりはずみそうな南部。 「そういえば、古代の字って乱暴だよな。お前の申し送り書、毎回、山本が清書してるぜ。」加藤が横から口を挟む。 「う、うるさい!戦闘に字なんか関係ないだろ!」 「字は人なり・・・ともいいますよね」憮然とする戦闘班長に相原が追い討ちをかける。 「なんだと?!」 「はい、はい、はい。ガタガタ言ってないで、さっさと書くぞ。この後は、航海班主催の大かるた大会が控えてるんだからな。」島が割ってはいる。 「戦闘班主催の無重力羽根つきトーナメントもお忘れなく。」さりげなくアピールする南部であった。 「よし、これだ。」 切り替えが早い古代は、筆を握ると一気に『打倒ガミラス』と書き上げた。 「…まんまじゃないか。お前らしいけど。」島が覗き込むなり言う。 「今の俺たちにはこれしかないだろう。そう言うお前はなんて書いたんだよ?」 島の作品は『安全第一』だった。 「あ・ん・ぜ・ん・だ・い・い・ち?ロマンのかけらもない文言だな。」 「悪かったな、堅実で。だけどな、古代、オクトパス星団を無事に抜けられたのも、結局は…」 「わかった、わかった。聞き飽きたよ。・・・で、真田さんは、なんて書いたんですか?」 「俺か?俺は『発送の転換』だ。」 「さすが、真田さん。科学者らしい!」 大げさによいしょする古代の後ろで、相原がポツンとつぶやく。 「でも、漢字が違ってますよ。」 「はっ!俺としたことが、どうして気づかなかったんだーーー!!!」 「相原!失礼なことを言うな。真田さんは科学者なんだから、理科は得意でも、国語はダメなんだよ。」とさらに失礼な古代。 「でも国語は全ての学問の基本ですよね?」相原はあくまで追求の手を緩めない。 「相原、古代」真田の三白眼がキラリンと光り、2人をねめつけた。 「いいんだよ、『発送』で。俺は、艦載機を宇宙に発送する新技術を開発するつもりなんだからな。」・・・なんとも苦しい言い訳である。 「できたぞー!」 加藤が頬っぺたに墨をつけたまま顔を上げる。加藤の作品は『お正月』、隣の山本は『青い空』。 「お前たちの書初めって、小学生並みだな。」 「あら、いいじゃない、ほのぼのしていて、可愛いわ。」とユキが微笑む。 「じゃ、君の書初めも可愛いのかな?」と島。 「うふふ。どうかしら。」 ユキが掲げた半紙には『才色兼備の紅一点』と書いてあった。 島は目がテンテンになる。「確かにそのとおりだけど、自分で言うか、普通?」と突っ込みたいところではあるが、満面の笑みをたたえたユキを前に口をつぐんだ。 『目の上のたんこぶ』と書き上げたのは機関員の藪。『愛子』と書いた徳川が眉根を寄せる。 「藪、これはいったい誰のことじゃ?」 「いえ、別に・・・。」 「言いたいことがあるなら、はっきり言ってくれ。」 「いえ…、だから、その、単に好きなんですよ、この言葉が。」 「しかし、書初めというのは、もっとこう、爽やかで晴々とした言葉を選ぶべきだと思うが・・・。」 「そうですか、では『一寸先は闇』にします。」 「いや、そうではなくて・・・」 「それとも『疑心暗鬼』の方が相応しいですかね?」 「………」 「太田、お前は今年も『減量』か?」 「いいえ!今年の僕は違います。そんな目先のことじゃなくて、もっと壮大な目標がありますから。」 「おっ、頼もしいな。『新航路開拓』とか『運航スケジュール厳守』とか書くようになれば、航海長の座も遠くないぞ。」なんの根拠もないのに、古代が檄を飛ばす。 「航海長か、それも悪くないですね〜。」 「おい、おい…。で、太田航海長さまは、なんて書いたんだ?」と内心穏やかではない島。 「へへへ…、『恋人募集中(常時)』です。」 「う〜ん、確かに壮大な目標だ。」 『老人優先じゃい』by佐渡酒造。 「佐渡センセイ、新年早々、自己チューナ物言イハ、イケマセン。」 「な〜にをゆうとるかい。亀の甲より年の功、年寄りは人類の知恵袋じゃ。優先されて当然じゃろが!」 「ソウイウコトデアレバ、年寄リノ何億倍モでーたヲ持ツ分析ろぼっとニ、1番ノ優先権ガアリマス。」 「優先権じゃと?」 「ソウデス。最高ノ花嫁をげっとスル1番ノ権利ハ、僕ノモノデス。」 「はあ?アナライザー、お前さんは一体何を書いたんじゃ?」 アナライザーは、書道のお手本をナノ単位まで正確に写し取ったような字で『三国一の花婿』と書いていた。 『お母さん』と書いた相原と『波動砲を撃つ』の南部、お互いの書初めを横目で見ながら、それぞれ心の中でため息をつき「あいつよりはマシ」とそっとつぶやくのであった。 新たな年への希望や願いを乗せて、急げヤマトよ、イスカンダルへ。地球の人々は君の帰りを、君の帰りだけを待っている。 |
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楽しい! >>> 長田亀吉 -- 06/01/08-22:55..No.[118] | |||
それぞれのキャラの個性を踏まえてて、声が聞こえてくるようで楽しかったです^^南部には爆笑しました。本編ではついに撃てずじまいでしたからね^^; ありがとうございました^^ | |||