Yamato Only Novel Deck(ver3.0)


『まつ毛は長いよ』

 >>>らる   -- 04/11/29-23:51..No.[109]  
    「あ、痛い!」
ユキはあわててヤマト居住区域の自室へと駆けて行った。左の目は赤く、ぽろぽろと涙がこぼれていた。

イスカンダルで放射能除去装置を無事受け取ったヤマトは、ガミラスの攻撃にあうこともなく、順調に帰路の航海を続け、地球到達まであとわずかに迫っていた。もはやユキが泣かなければならない状況などないはずだった。

船室に走り込んだユキはベッドサイドテーブルの上の洗眼器をいそいで手に取り、洗眼液を満たした洗眼カップを左目にあてるとまばたきを繰り返し、痛む左目を洗った。数十秒程で左目の痛みはやわらいだ。顔を上げて洗眼カップを見ると、長いまつ毛が一本、洗眼液の中にぷかぷかと浮いていた。ユキはため息をついた。


ふう・・・まったく、まつ毛が一本抜けるたびにどうしてこんな痛い思いをしなきゃならないのかしら。世の中って不公平ね。普通の長さのまつ毛なら、抜けて目の中に入ってもそれ程一大事にならないみたいだけど、私の場合はもう大変。痛くて痛くて涙が出ちゃう。うっかり目をこすろうものなら、眼球に傷がついて眼科のお世話になる始末。「まつ毛が抜けた」じゃ労災も適応にならないし。「まつ毛が長いのは女のチャームポイント」なんていうけど、どっこい苦労も多いんだから。付けまつ毛使った方がずっと楽よ。

付けまつ毛で思い出したけど、中学の時の担任のオールドミスのおばさん先生、どうしてるかしら。うちの親をわざわざ学校に呼び出して「お宅のお嬢さんは学校に付けまつ毛をしてきています。中学生にあるまじき行為です。ご家庭の教育はどうなってるんですか!」なんてピントのずれた説教しちゃって。おあいにく様、私のは「地毛」なんですよって。「天然パーマ」で注意された話は時々聞くけど、「付けまつ毛疑惑」は私ぐらいじゃないかしらね。

それから、地下都市の病院に看護婦として初めて勤務した時、上司だったお局看護婦にもやられたわね。「付けまつ毛をしてくるなんて、看護婦としての自覚に欠けている!」と患者さんの前で大声で怒鳴ったりして。よく見なさいよ。こんな長い付けまつ毛、どこ探したって売ってないわよ。

病院といえば、私が生まれた時、あんまりまつ毛が長いのでみんなびっくりしたって、ママが話してたっけ。産婦人科の先生の第一声が「いやー、まつ毛の長いお子さんですなー」だったので、ママと付き添っていたパパはなんだか心配になっちゃったって。確かに赤ん坊の時の写真を見ると、顔一面まつ毛だものね。まつ毛の長さって赤ちゃんの時からきっと余り変わらないのね。

まあ、まつ毛が長いといい事もあるけど。なんてったって「小顔」効果バツグン!だし。「まつ毛にマッチ棒が何本のるか」でギネスブックに挑戦もできるし。そういえば最近トライしてないわね。今度地球に帰ったら、またやってみなくちゃ。

あーあ、洗眼液もだいぶ残り少なくなちゃったわ。地球まではもうそんなに日数がないからいいけど、足りるかしら。心配だわ。宇宙にいると地球にいるより、まつ毛がよく抜けるのよね。

宇宙服のヘルメットしている時は、最悪。抜けたまつ毛が目に入って、痛くて痛くて涙があふれても、ヴァイザー越しに目薬さすわけにもいかないし。ガミラス星での戦闘の時はひどかったわ。もう放射能の中でもヘルメットとっちゃおうかと思ったぐらいよ。あの時は運悪く両目とも抜けて目に入っちゃったのよね。もう痛くて涙が止まらなくて。ガミラス星の崩壊の様子なんて、涙ごしでよく見えなかったわよ。でも私が涙をこぼしている様子を見て、古代君誤解したみたいだったから、ま、あれはあれで、ラッキーだったかも。

そういえば、イスカンダルのスターシャさんもまつ毛長かったわね。あの人のは天然かしら、付けまつ毛かしら。天然なら私といい勝負ね。やっぱり、抜けたまつ毛で苦労しているのかしら。聞いてみればよかったわ。ひょっとしたら「イスカンダル製・アイクリーナーD」とか「双子星印のよくきく目薬」とかあったかもしれない。残念。

ユキはイスカンダルで会ったスターシャの様子を思い返していた。すると、ある光景がユキの脳裏にはっきりと浮かび上がってきた。

ヤマトがイスカンダルを飛び立つ最後の時に、スターシャさんはタラップの所で急に目を瞬かせると涙をこぼし、走り去ったわ。あの涙は古代君のお兄さんにイスカンダル残留を決心させる決定打になったけど。まさか、あの時、スターシャさんのまつ毛が・・・

まさかね、とユキは思った。いくらなんでも、そんなに都合よくまつ毛が抜けて目に入るはずもない。あれはスターシャさんの心からの涙だったのだと、ユキは自分に言い聞かせた。

洗眼器を置いて目薬をさすと、ユキは自室を出た。まだ左目は少し赤いままだった。


「ユキ、どうしたんだ。目が赤いじゃないか。泣いていたのか。」
偶然廊下で出会った古代進が、心配そうにユキの顔をのぞき込んだ。
「なんでもないわ。」
ユキは明るく答えた。
「なら、いいけど。オレも兄貴も女の涙には弱いからなあ。」
進が、照れたように言った。

まさかね・・・とユキは再び思った。



楽しかったです^^

>>> 長田亀吉   -- 04/11/30-00:06..No.[110]
 
    まつ毛に目をつけるとは、らるさん、アナドリガタシ!
ギネスブックの話にも、びっくりしました。ううむ、そういう記録もあるんですねえ^^;
ヤマトの感動シーンの多くにはつけまつ毛の威力があったことも、おそらくヤマトファンのほとんどにとって衝撃のスクープですね(笑)
私も明日から辛い会議のときは、つけまつ毛で頑張ります(笑)
 
笑ってやっていただけたら、幸いです。

>>> らる   -- 04/11/30-00:10..No.[111]
 
    ユキ及びスターシャファンの皆様、すいません。
松本「女性キャラ」に共通の悩み(?)について書いてみました。
なお、この作品は当然のことながらフィクションですが、「長いまつ毛が抜けると大変!」という点は事実に基づいています・・・
 
朝から楽しい気分です!

>>> Alice   -- 04/12/06-09:02..No.[112]
 
    「私には神様の姿が見えない…」って言ったのは、目が痛くて見えないという意味だったのですね。なるほど〜、ヤマトって深いなぁ。

らるさん、はじめまして。楽しいお話ですね。実際の場面を掘り下げたり、実はこうだった…という展開の話、好きなんです。次にその場面を見る時、「みんな知らないけど実はね…」と楽しさも2倍になりますしね。
まつ毛ときたら、次は眉毛かもみ上げでしょうか?次作も楽しみにしています。
 
有難うございます!

>>> らる   -- 04/12/16-15:20..No.[113]
 
    Aliceさん、はじめまして。お心入りのご感想有難うございます。
重箱の隅をつついたような話ですが、楽しんでいただけたら、とても嬉しいです。
これからも「私だけでしょうか、こんなしょうもない事に気付いてしまったのは・・・」的なお話を続けられたらと思っております。
今後もよろしくお願い致します。


 


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