Yamato Only Novel Deck(ver3.0)


『がんばれ相原ちゃん』

 >>>Alice   -- 04/11/10-01:18..No.[106]  
    ある朝、目が覚めたら、僕は見知らぬ空間にいた。

窓から吹き込む優しい風と小鳥のさえずりにまどろむ僕、そっと目を開けると柔らかい朝の光が差し込んでいる。そして「いつまで寝てるの?お寝坊さん」と僕の頬をそっとつつく細い指。僕が迎えるはずだった至福の朝の光景だ。

ところが今日、朝も早から僕を叩き起こしたのは、無粋なサイレン音だった。
「敵の攻撃?えっ…、まさか」
非常時には30秒で持ち場に駆けつけるよう訓練された体が、勝手に飛び起きる。すると、向かいと上のベッドから、ごっついクマみたいな影がのそりと現れた。
「ひぇ〜〜〜、誰、この人たち?」
…寝起きの頭がパニクっていると、中の1頭が吠えた。
「相原、なにをもたもたしてるんだ。すぐに着替えて、ランニングだ。」

ランニング?だって、顔も洗ってないし、ご飯もまだなのに?キョトンとしていると、大男に腕をつかまれて、無理やりベッドから引きずり出された。
「制服はそこだ。さっさとしろ!」

僕に与えられた制服は渋いグリーンのつなぎと黒いブーツ。キャップの横と後ろにはヒラヒラがついている。こ、これって、空間騎兵の制服じゃないか!!!!

そ、そうだった。防衛軍長官直々の辞令が出て、今日から僕は空間騎兵隊に移動になったんだ。非戦闘員の僕がなぜ…?と僕も司令部のみんなも疑問に思ったが、命令に説明なんかあるはずがない。きっと近々、高度な通信技術を要する任務があるのだろう。

しかし、空間騎兵隊は思いっきり場違いな僕を快く迎え入れ、昨日は深夜まで飲めや歌えの大歓迎会をしてくれた。それにしても、ここの隊員の飲みっぷりはすごい。アルコール度数の無茶苦茶高そうな得体の知れない酒をガバガバ呷る飲み方は、ヤマタノオロチも真っ青だ。僕はどちらかというと、ジャズやクラシックが流れるお洒落なバーで、チビチビやる方が向いているので、昨日の宴会はもっぱらお酌をして回り、早々に退散した。明け方まで飲んでいたはずの隊員たちは、すでに着替えて屈伸運動をしている。

「僕のことは気にせず、どうぞお先に…」
起き抜けからそんなにキビキビとは動けない僕が、おずおず申し出ると、
「朝のランニングは部屋単位だ。なんなら、俺たちが着替えさせてやろうか?」
…と凄まれてしまった。

空間騎兵の制服は、なんだか肩口も胴回りも袖丈も僕には大きすぎて、体にフィットしない。僕は古代さんよりは上背があるし、一応軍人なのでそれなりのトレーニングもしているから、そんなに貧弱な体格ではないけれど、筋肉のつき方…というより、体の造りが根本的に違うのだろう。

ぶかぶかの制服をなんとかベルトで締め上げて表へ出ると、ほかの部屋の隊員はすでに走っていた。
「今日は新人がいるから、軽く10キロってことにしておくか。」
「ジュ、ジュッキロオオオオ?」
僕の悲鳴はもちろん無視された。同室の猛者たちに引きずられるようにして、僕は荒涼とした第11番惑星の未開発エリアへ連行された。

ゴツゴツの岩がむき出しになった未開発エリア、道も何もあったもんじゃない。整備されたトラックを走るのとはわけが違う。僕は何度もすっ転びボロボロになってしまったが、同僚たちはこの悪路をものともせず、身軽にひょいひょい走っていく。ぶっとい脚は重たそうだが、まるで羽が生えているかのようだ。

地獄の特訓(?)に耐え抜いて生活ブロックに戻ってくると、とっくに走り終わった他の部屋の連中は、もう食事を始めていた。こんなにハードな運動をした直後は、胃が何も受け付けないはず…。僕の場合は、シャワーを浴びて、一休みして、それからゆっくりクロワッサンとカフェオレとハムエッグの朝食がいいな。そうそう、フレッシュガーデンサラダも欠かせない。そして、テーブルの向かい側には、「おいしいですね」と優しく微笑む僕の天使。

「おら、相原、早くしないと食いっぱぐれるぞ!」
だが、天使の微笑みはドスの利いただみ声にかき消されてしまった。食堂に押し込まれた僕が、そこで見たのは…、白いテーブルクロスの食卓とはかけ離れた光景だった。大きな丼に山盛りのご飯、片手では持てないサイズの椀から溢れそうな味噌汁、そしてテーブル中央にはうず高く積み上げられたおかずや漬物の大皿。しかもそのどれもが、恐ろしい勢いで消費されていく。室内には食べ物の匂いと男たちの放つ熱気が充満していて、僕は一気に食欲を失った。

「ほらよ!」
朝から僕を引きずりまわしていた髭面の大男が、丼飯を僕に差し出した。
「こんなにたくさんは食べられません…」
すると男は目を剥いた。
「きちんと食わないから、そんなに細っこいんだ。俺たちは体が資本で、食はその基本だ。無理してでも食べろ。」
目の前の丼にはゲンナリしたが、男の言葉はちょっと意外だった。もしかして、僕のことを心配してくれているんじゃ…?それなら、そのお気持に応えなければ!

それにしても、ここの連中はお行儀が悪い。音をたてて食べたり、食事中に大声でしゃべったりくらいは、ヤマトのクルーもやっていたので許せるし、楊枝でシーハーするオヤジっぽい行為も、まあ目をつぶれる。でも、食べ物を散らかしたり、食器を片付けなかったり、テーブルに小汚い足を上げたりする行為は、同じ地球人として、どうよ!と思う。

こう見えても僕は、厳しい母に食事の作法をきちんと躾けられている。『お百姓さんが作った食べ物は、感謝して頂きなさい』が母の口癖だ。僕の母は、意外に思われるかもしれないが、結構ハイカラだ。あの前世代の遺物のような家も、実は見せ掛けだけで、本当は冷暖房や湿度管理は言うに及ばず、防犯システムも照明もすべてコンピューター制御のオール電化住宅だ。例えば、「少し寒い」と言うだけで、自動的に囲炉裏に火が入る。そんな最先端住宅の機能的なキッチンで母が作る料理は、無理に信じてほしいとは言わないけれど、ブイヤベースだったり、ローストビーフだったり、骨付き子羊肉の香草焼きだったりする。僕はそれらの料理を感謝しながらお行儀よく食べて、成長してきた。だから、食べ物に敬意を払わない行為は、生理的に好きではない。

不愉快な雰囲気の中で、あまりにもたくさんの量を食べて、身も心もゲフゲフしていると、斉藤隊長がドカドカと近づいてきた。
「よお、相原。どうだ、空間騎兵隊の初日は?」
「はあ…」
「今日の訓練は、お前のために、歓迎スペシャルメニューを組んだぞ。有難く思えよ。」
「………」
「なんせ、お前のことは長官直々に“しっかり鍛えてくれ”と頼まれてるんでな。ま、せいぜい頑張ってくれ。」

長官直々とか鍛えるとかって、一体どういうことだろうか?僕の任務は、空間騎兵隊の通信業務強化じゃ、もしかして、ない…?これって、僕が晶子さんとお付き合いしてることに、何か関係があるとでも????

ワケが分からなくなって茫然自失の状態に陥った僕がふと我に返ると、一体いつの間にこういうことになったのか、僕は他の隊員たちと輸送機に乗って、第11番惑星の上空にいた。輸送機の重いエンジン音が、直接お腹に響いてくる。ヤマトの第一艦橋とは、エライ違いだ。

斉藤隊長がおもむろに立ち上がった。
「よし、今日は相原の歓迎も兼ねて、久々にフル装備での降下訓練を行う。装備が重いからといって、失速するなよ。」
「おーーーーっ!!!」
「え゛〜〜〜〜〜っ????」

こ、降下訓練って、僕はそんなこと聞いてましぇ〜〜ん。そりゃ、宇宙遊泳くらいはできるけど、輸送機からハンドジェット背負っての降下なんて、やったこともないし、やりたいとも思わない。しつこいようだけど僕は非戦闘員で、そんな荒っぽいことはとても無理だ。それになんだよ、この装備は。あちこちにイロイロぶら下げられて、立ってるだけでもやっとの重量だ。何でみんなは、あんなに平然としているんだろう。

と・に・か・く、僕にはこんなことはできない。お断りだ。

…と、輸送機の降下口がパックリと開いた。
「じゃ、相原、お前から行かせてやるよ。」
その無情な言葉とともに、誰かが僕の背中を蹴っ飛ばした。

「うっわあああああああああ…………」


みるみる小さくなっていく相原の影。
「あれ?あいつにハンドジェットの操作を誰か教えたか?」
斉藤隊長の言葉に、みな一様に首を横に振った。

「この艦はぁ……人でなしのぉ……集団かぁ………」

奈落の底から、途切れがちな相原の絶叫が響いた。



相原の運命や、いかに

>>> Alice   -- 04/11/10-01:27..No.[107]
 
    もしも相原君が空間騎兵だったら…?このネタが意外と好評だったので、想像して書いてみました。新番組が始まったら、主役は相原に決まり!…かな?

降下訓練から生還できたら、続きもあるかもしれません。…が、相原本人はどうするでしょうね?
@ 晶子さんと駆け落ちする
A 立派な空間騎兵を目指して、訓練に邁進する
B 軍を辞めて実家に戻り、オール電化住宅で快適に暮らす

 
負けるなっ 相原くん!

>>> ぺきんぱ   -- 04/11/11-20:20..No.[108]
 
    果たして、彼の運命やいかに・・・、(^^;)
いやぁ、面白いです 笑えます。
Alice様の、ほのぼの系コメディを読むのは本当に楽しいです。
次回作も楽しみにしてます。
あ、それから”続き”の展開には、@に一票入れときまぁ〜す(^^)。
 


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