Yamato Only Novel Deck(ver3.0)


『Let be Dancing with ICARUS!(その5)』

 >>>ぺきんぱ   -- 04/05/20-21:44..No.[93]  
    「いやっ! 絶対にいやっ! どうして? どうしてそんなこと言うの? 
どうしてみんな、わたしをどこかにやろうとするの? 
いやっ! いやなの! だれかとお別れするのはもういやなのっ!」

いきなりぶつかってきた澪の重さにとまどいながら、真田はぼんやりと考えた。


“・・そうか・・まだ幼いというのに、この子の生は別れの連続だった。 
母親、父親、叔父・・
そんな子に、おれは、なんという残酷なことを・・“


真田が、おずおずと、壊れやすいものに触れるよう、小さな肩に両手をおく。
澪は顔を伏せ、さらに激しく泣きじゃくった。


「どうして地球へ帰れなんていうの? 義父さま、わたしのことがきらいなの?
悪いことばかりするから? 義父さまのいうこときかないから?

だったら・・いい子になります もういたずらはしません。 
だから・・だから、おねがいだから・・もう澪をどこかにやらないで・・
義父さまのそばにいさせて・・大好きな義父さまのそばに・・・」


さぁっと暖かい風が真田の胸を吹きぬける。
つめたくふさがっていた心が、あたたかいぬくもりで満たされていく。
目の前に光があふれ、見るもの全てが、生き生きとした躍動感を放つ、
気がつくと、腕を回し、真田は 我が子を抱きしめていた。


「ありがとう・・もう、言わないよ」


その言葉に、澪は顔を上げる。 
涙と洟でくしゃくしゃになり、泣き顔と笑顔が半々ずつごちゃまぜになった顔で、澪はまた泣いた。
だが泣き声には、もう先ほどの悲しみはない。
むしろ安堵と、かすかな甘えがその中に混じっていた。


「わかったから、もう泣くな、澪。 でも・・どうしてお義父さんが、澪を地球へ返してしまうなんて思ったんだい? そんなことは言わなかったぞ」


だって、だって・・、と相変わらずしゃくりあげながら、澪は答えた。

「義父さま、つらそうな顔してるから・・このごろ、わたしのほうを見てため息ばかりつくから・・だから、わたし、義父さまにきらわれてるんじゃないかって・・・」


おいおい、ちょっとまて・・・

真田の口が、への字に曲がった。


おれがつらそうな顔をしたのは、澪の悲しそうな顔を見たからで。
澪が悲しそうな顔をしたのは、おれのつらそうな顔を見たからで。
・・その顔を見て、澪はさらに悲しくなって・・それを見て、おれはさらにつらくなって・・・さらに澪は・・って、なんだい? こりゃあ。


への字だった口元がゆるみ、ふっ、ふっ、という忍び笑いが漏れ、それは、はずんだ明るい笑い声に変わった。 
泣きやんだ澪も笑う。
いつしか二人は、いっしょになって声をそろえ、お腹を抱えて笑っていた。

ああ、そうか・・・

涙がこぼれるほど笑い、心の通いあう幸福感に浸りながら、真田は気づいていた。


人が、真実に勝つことはない。
現実の理(ことわり)を超えることなどできはしない。
神でない人が、宇宙の真理を曲げることなどできないのだから。
だが人は、闘うことならできる。
真実に打ちのめされ、何度倒れようとも、倒されっぱなしではない。
再び立ち、挑(いど)み、抗(あらが)い、ぶざまに足掻(あがき)ながらも、
人は真実と闘うことができる。
これこそ“希望”なのだ。 人が人であることの誇りだ。
そして、この胸に抱く幸せな温(ぬく)もりあるからこそ自分は・・・人は、暗闇を退け、残酷な真実と向き合うことができる。
 
だが・・・おれはまだまだ弱いな。 
結局は言えなかった。


「ふん。ガリレオ・ガリレイには、成れそうにないか・・・」

少し悔しそうな真田に、澪は微笑を向けた。


「ならなくってもいいよ」
「・・・???」
「あんなヒゲだらけのおじいちゃんになんか、なっちゃいやだよ」
「・・それも、そうか」

ふふふ、と笑って二人は顔を見合わせた。

「ねえ、わたし、やっぱり科学者になる」

どうして・・、という問いに、澪は声を弾ませた。

「科学者になって、義父さまのお手伝いがしたいからっ!」

腕の中の、暖かく、柔らかく、かけがえのない存在を確かめるように、真田は澪をさらに強く抱きしめる。

「・・・痛いよ、義父さま・・」

少女は幸福(しあわせ)そうにつぶやくと、目をつむり、真田の胸に顔をうずめた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「義父さま! わたし、アイドル歌手になる!」


ずりっ、と、そこだけが高重力になったかのように、真田はイスから転げ落ちた。

「ちょっと、待て! 確か昨日は看護士さんになりたいって言わなかったか?」

澪は、3DTVに写る、【SSN(ソーラー・システム・ネットワーク)歌謡祭 歌う太陽系アイドル大集合!】、なる番組から目をそらし、 あれ、そうだったっけ?
と、小首をかしげた。

あのなぁ、と真田はこめかみを押さえる。

昨日、澪はJTV(ジュピター・テレヴィジョン)製作、
【ガニメデ救急病院24時。命を救え、白衣の天使たち!】なる番組を見ていたのだが・・・。

「わたしも、白衣の天使さんになる!」
「・・・・・ ( ̄0 ̄;) 」

そして、今日はアイドル歌手である。
このあまりに影響されやすく、節操のない性格はいったいどこから来たのだろう?  いや、そんなことより・・・

「一週間前は、科学者になってお義父さんのお手伝いをするって言ってたじゃないかっ!」

「う〜〜ん、どうしようかなあ、義父さまのお仕事ってけっこう地味目だし・・・」

「ガぁーーん。 み、澪、お前までがお義父さんのお仕事をそんな風に・・・
い、いや、それはともかく。 
澪、お仕事を決めるっていうのは大事なことなんだから、いい加減に決めちゃいけません!」
「ちがうもんッ いいかげんになんか決めてないもん!」
「だって、番組を見るたび、なりたい職業が違ってるじゃないかっ」
「ちがってないもん。澪がなりたいのは看護士さんの資格を持った科学者でケーキ屋さんにお勤めするアイドル歌手だもん!」

あ〜〜なるほど なるほど。 
澪がなりたいのは、看護士資格を持ったケーキ屋さんで働くアイドル歌手 兼 科学者ね・・・・って 

 なんじゃい、そりゃあーーーーッ

「ううむむむぅ。 危うくだまされるとこだった。 しかしなんという強引な屁理屈と巧妙な逃げ口上。 それにこの強情ッパリな性格は、いったい誰に似たものやら・・・」

と、真田がくらくらする頭を抱えたとき

「ワッハハハハハァ〜〜〜 そんなことぐらいで悩むな、志郎っ!」

「アッ、この声は・・・」
「ムムッ、広川太一郎に似ている、この声は・・・」
ばん、と勢いよく扉が開いて登場したのは・・・

「それは、わたしです。(きっぱり)」
「あ、古代(兄)!」
「キャァ〜〜 やっぱり、父(とう)さまだぁ!」

そうかぁ・・やっぱり澪は、こいつに似たのかぁと、真田は、澪の実の父親、
古代守を見ながらうんうんとうなづき、妙に納得していた。

「出張仕事で近くへ来たんでな、顔が見たくて寄ったんだ。 元気そうだな 
サーシャ、アイドル歌手になりたいんだって?」

「そうなの! 地味なお仕事ってつまんないんだもん」

父親に抱っこされた澪が、古代の肩ごしにアッカンベーを真田にかます。

「そうだよな! “地味”なお仕事より、“派手”なお仕事のほうが楽しいもんな!」

ちろり、と古代守が意味ありげな流し目を送ってよこす。

「うぐぐぐぅ、おのれ、父娘(おやこ)そろって調子に乗りよって・・・」

い、いや。 落ち着け、真田志郎! 
瀕死(ひんし)の際(きわ)で他星系の女王様を口説くようなスチャラカ男に澪の教育などさせてはならぬ。 よし、いい機会だから、この場で地味だが堅実な人生の素晴らしさを“派手好き父娘”に こんこんと説いてやろう・・・

「いいかね二人とも、よく聞くのだ。確かにアイドル歌手みたいな職業は派手でお気楽そうに見える。 だが、水鳥が優雅そうに水上を泳ぐも、水面下では必死に水かきを動かすように、人生すべからく、地道な努力が必要であって・・・」

「よしっ、そうと決まればさっそくレッスン開始だ! サーシャ、お父さんの後について歌うのだ。 あぁ〜〜♪わたぁしのぉ〜〜こ〜〜いわぁ〜〜♪」
「・・・父さま、それ、誰?」
「松◯聖子」
「ふっるぅ〜〜〜い! ◯田聖子なんて古すぎるわっ! 今、はやりのアイドルといえば、モー◯ング娘よ!モー娘よ! 
ニ〜〜ッポンのみらいわぁ♪ウォウオゥ♪ウォウオゥ♪」
「今はやりって・・・(^^;)サーシャ、言っておくがこの小説の時代設定は23世紀だぞ」

「・・そもそも、古来より日本に伝わる“縁の下の力持ち”ということわざが示すがごとく、地味な仕事ほど世のため人のために・・・って、コラーーーーッ!!
そこの“ノーテンキ 大ボケ”父娘っ! 
ひとの話を真面目に聞かんかァーーーーッ!!!」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


・・などと、怒ってはみたものの・・まあ、泣く子と地頭にはなんとやらで・・
しかし、なんでおれまでがこんなことを・・・


「いいわね、準備OK? じゃ、メンバー紹介ね! 右側、加藤四郎withコスモ・タイガース!」

臨時こしらえの観客席からどっという歓声と拍手、ピーピーという口笛が飛び、舞台では、やけにノリノリな加藤四郎が華麗なステップを披露した。

「そして左側、義父さま&山崎のおじさま率いる波動エンジニアーズ!」

「ちっ、ちょっと真田技師長! なんであたしまでステージにいるんですかっ」

山崎機関長が必死になって真田の腕をひっぱる。
シブいロマンスグレーも、死ぬほど似合わない原色派手ハデのダンス・スーツと合わさればほとんどお笑いである。
 
なんでかって? 決まっているではないか・・・

「一蓮托生、なのだ」

これで、いーのだ、とバカボンのパパみたいに真田がうなずく。
こちらもまた、ファッションの神様がもだえ悲しむほどステージ衣装が似合ってない。
だまされたぁ、だまされたぁ、と往生際悪く山崎が床をころげ回って嘆いていた。

そう、今日は愛する娘のレッスン成果のお披露目会。 
バックダンスのメンバーが足らぬとあれば、他人をだまくらかしてでも人員をそろえるのが親心というものなのだ。

「じゃあ、みんないくわよ! ワン! ツー! スリー! GO!」

音楽が鳴ると、観客の手拍子にあわせ、フリフリのステージ衣装をゆらしながら澪が歌う、加藤がアクロバティックなダンスで客席を沸かす、そして真田たちはといえば・・・フラダンスとも盆踊りともつかぬ怪しげな動きで笑いを取っていた。 

だが、それもまた一興。
細かいことは気にするな。 歌え、 踊れ、 本能のままにビートを刻め、
リズムにのって心を解(ほど)き、 自由きままにシャウトを放て

Come on Everybody! 
Welcome to Cosmic Party! 
Let be Dancing with ICARUS!

(完)




イカルスと踊れ!

>>> ぺきんぱ   -- 04/05/20-22:01..No.[94]
 
    相も変わらずシリアスなのかコメディーを書きたかったのか、どっちつかずのちゅぅ〜〜〜〜と半端な出来ではありますが、自分なりの「イカルスダイアリー」という感じでAliceさま一連の力作に恥じぬよう、精一杯書かせていただきました。ところで題名の英文って文法的に正しいのだろうか? ああ不安だ(^^;)

 
コケッ・・・って感じで

>>> Alice   -- 04/05/28-02:02..No.[98]
 
    ずっとシリアスで来たのに、いきなりのこの展開!「昔から育児は育自というように…」と、シリアスなコメントしようと思っていたのに、ほんとにもう、笑うしかないじゃないですか!(でもコメディも好き♪)
波動砲エンジニアーズのビジュアルも、見てみたいような、怖いような…。それはともかく、楽しそうでよかったね、澪ちゃん。
 


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