Yamato Only Novel Deck(ver3.0)


『Let be Dancing with ICARUS!(その4)』

 >>>ぺきんぱ   -- 04/05/20-21:42..No.[92]  
   
「どうしてぇ〜〜、ねえ、どうしてなの?」

澪が真田のそでをひっぱって答えをせがむ。

まさか、あの過去の恥ずかしい体験をもとにして説明するわけにもいかず、
真田は、あわててごまかした。

「・・・え、えェ〜〜と、ま、まあ、そいつはおいといてだ。」

あ、ずるい。逃げた、というように不満げな顔をする澪。 
だが、次の瞬間、まあしょうがないわね、とでも言いたげに上目づかいにちらりとこちらを見ながらクスリと笑う。

澪の大人びた仕草に対し、真田は照れたように頭をかくしかない。

“やれやれ、恐ろしいほどの「おしゃまさん」振りだ。しかし、こうズバズバ、心を読まれると・・・こいつとつきあう男は大変だな“


・・・その心配は、いくらなんでも早すぎるだろう。


「とにかく、それはおいといてだ。 
大昔のヨーロッパ世界では、聖書をみんなが信じていて、・・というより、今でも信じられているんだが・・そこに書いてある、キリストさまの教えを大事に守って生活していたんだ」

「しちゃいけないことをすると、死んだ後、地獄に落ちてしまうんでしょ?」
「そうだよ、それがどうかしたかな?」
「地獄には、こわい鬼や悪魔がいて、死んじゃった人をいじめるんでしょ?」

真田はうなずいた。
しばらく考え込んだ後、少し怯えたような声で澪がきいてくる。

「でも・・義父さま。 地獄なんて本当にあるわけないよね?」

「さあて、どうかな? ためしてみるかい。 簡単だよ。 澪がう〜んと悪い子にしてればいい。死んだ後で地獄が本当にあるかないか、わかるだろ?」

ぶるっと澪が身震いをする。
こういうところは、まだまだ子供だ。

「でも、澪は良い子だからそんなことはしないな」

ちょっと薬がききすぎたかな、と真田は澪の淡い蜂蜜色をした頭をやさしくなでてやった。

「さて、話を戻して・・
ガリレオ・ガリレイは、聖書の正しさを証明しようとして、むしろ間違いを見つけてしまった。
それは、お義父さんや澪にはなんでもないことだけど、ガリレオさんにはすごくショックなことだったと思うんだ。
 聖書が言ってることには間違いが無い。 書いてあることは全部本当だ
みんなそう信じていたからね。  
もし、そこに間違いが見つかったなら、他にだって間違いがあるかもしれない。 神様が言ったという言葉の中に、ウソがまじっているかもしれない・・・。
ガリレオさんは、聖書に書いてある自分が信じていた世界、自分の理想が全部くずれてしまったように感じたかもしれない・・・お義父さんは、ガリレオさんにとって、それはつらくて苦しいことだったと思えるんだ・・・」


澪は考え込む。 しばらくして、こっくりとうなずいた。


「それに、神様の言葉が間違いだったと証明されたら・・
そうなったら、もう聖書なんか、神様のことなんか、誰も信じない、
何も信じられない。
この世に神様なんていない。 だから悪魔もいない。 善も悪もない。
なんにもない からっぽの世の中に、ただ、人間があるだけなんだ。
みんなそう考え始めたとしたら・・・。
それはね、とってもさびしくて悲しいことなのかもしれない。 
それに・・とてもこわいことなんだよ・・・澪、わかるかな?」


理解できまい。子供には観念的すぎる、と真田は思った。
が、澪はじっと身動きひとつせず、義父の話に聞き入っている。


「・・もし、人間が神様の教えを捨てて、やりたいことを自分勝手にやり始めたとしたらどうなるかな?
お金が欲しいから嘘をつき、憎いからと人を傷つけ、自分より弱い人を面白いからといじめ抜く。 
人間の醜さが暴走しはじめて、誰も止めるものがいないとしたら・・・。
澪、地獄はあの世になんかじゃない、この世に出現するんだ。
ガリレオさんはね、そのきっかけを自分がつくってしまうのではないか?
自分の発見が、この世の中にとんでもない悪をまき散らすのではないか?
・・・とてもこわくなったと思うんだよ・・」


“昔の、このおれのように、か・・・”

ほんの一瞬、ふっ、と真田の口元に自虐ともとれる笑みが漂った。

“たいしたものだ。 えらくなったものだな、真田志郎よ。 かの偉人と自分とを重ねるとは、な・・”


「科学は、この世の中の本当のこと、真実を見つけ出すことができる。
でもね。真実を知ったからといって、人が幸せになれるとは限らないんだ・・」

「じゃ、本当のことを知らないほうがいいの? 真実を知るのは、悪いことなの?
科学が無いほうが人はしあわせになれるの?」

「うぅ〜〜ん。 どうなのかな? 多分そうじゃないと思う。 人間を幸せにしてくれた真実もたくさんあるからね。 それに真実自体は、ただそこに存在(ある)だけで、善(よ)いとか、悪いとかは関係ないと思うんだ。
科学的発明や発見が教えてくれる真実をどう扱うのか・・・それが善悪を生む。
結局は人間の行い次第なんだろうな・・・」

「科学者の責任ってこと?」

「いや、科学者をふくむ人間全部のだよ。 でも、実際に発見や発明をするのは科学者だから、普通の人よりよけいに悩んじゃうんだ・・・」


“科学というのはギリシャ神話のパンドラのようなものかもしれない。”

ふと、そんなことを真田は思う。


科学技術が、真実という箱をあける。
その中から飛び出したものに驚き、人は、右往左往する。 
波動砲を造った自分もその通りだった。
ならば、自分たち人類に残された“希望”はどこにあるのだろう・・・


「だから、澪。 科学者になると苦しい思いをするかも知れないよ。
真実を見つける作業は、楽しくて素晴らしい。 
でも、見つかる真実が素晴らしくて楽しいものだという保証はないんだ。 
真実は必ずしも人にやさしいわけじゃないよ。
自分が信じていた全てのものを壊してしまう残酷な真実だってあるんだよ。
それから目を背けなかったガリレオさんは、だからこそ・・りっぱな・・人で・・・」


自らの言葉が、真田の胸を衝いた。


「・・・・?」

話の途中、突然、口の止まった真田を、澪は不思議そうに見ていた。


そう、真実だ。 澪の真実。 自分と彼女との真実。


澪はこの頃、憂い顔をしてため息をつく回数が前にも増して多くなっていた。
そのたびに、声をかけようとするのだが、できない。

どうした? なにを悩んでいる?
もしかして、ここの生活がつらいのか?

訊くまでもないことかもしれない。
肉親とも離れ離れで、どこの誰とも知らない人間たちと、大地を吹き渡るさわやかな風も、温かな太陽の光とも無縁な暗黒宇宙の片隅で幽閉同然の生活を強いられることが子供にとって楽しかろうはずが無い。


そんなに悲しそうな顔をして、澪、地球が恋しいのかい?  


言葉にすれば単純な質問だ。 
だが、自分にはそれがどうしてもできなかった。
返ってくる言葉が、真実を知るのが・・・彼女を失うのが怖い。

だが知らねばならない。

澪が地球に帰りたいなら、それで良いのだ。 
引き止める権利など、自分にありはしない。
地球には、ここで望むべくもない暖かな自然があり、古代兄弟や、一時、母親のようにやさしく世話をした森雪もいる・・帰ったところでなんの不都合も・・・
いや、もう彼女は地球に帰り、真田澪からサーシャに戻るべきなのだ。

真田は、ひとつ、大きく息を吸い込み、心を決めた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「澪、大事なお話があるんだ。 聞いてくれるかな?」
「どうしたの? 義父さま」

無邪気な瞳がこちらをのぞきこむ。 真田の胸が詰まった。


口の中はからからに乾き、舌の根がこわばる。 
 
言葉が・・出ない。

声を出せば、澪と自分の生活が消えうせてしまう。
口を開けば自分のつかんだ幸せが逃げてしまう。
真田は、ぎゅっと目をつむった。

“今の生活が幸せ? ふざけるな。それはお前の「幸せ」であり、彼女の「幸せ」ではない。 澪の気持ちを無視した、偽りの幸福に浸って、貴様、それで満足か?”

気力をしぼって、目を開ける、口が ひらいた。

“言え、言うんだ。 臆病者。 なぜできない。 ガリレオを見ろ! 彼は真実から目をそらそうとはしなかった。 たとえ、それがおのれの信じる世界、そうあって欲しい世界、全てを打ち砕く真実だったとしても、彼は逃げたりしなかった。 だから、このおれも・・・”


「澪・・澪は、やっぱり地球が・・」 

どん、と 何か温かい、小さな固まりが胸に飛び込んできた。

「いやだっ!」

澪が真田の身体にすがりつく、力いっぱいに、必死に。

真田を見上げる澪の瞳がうるみ、水滴がもりあがると、目から涙があふれ出る。 頬をつたう大粒の涙がぽろぽろとあごを落ち、真田の服をぬらす。
悲痛な叫びが、少女の小さな口からほとばしっていた




うむむむむ・・・

>>> Alice   -- 04/05/28-01:45..No.[97]
 
    それでも地球は回っていると言い続ければ、自分が信じてきた世界が崩れるかもしれないと、ガリレオは考えたかもしれない…と考え付いたぺきんぱさんの発想って、すごいと思います。しかも、ガリレオの真実と澪の幸せは地球にあるのでは?という想いを結びつけるなんて、ストーリーが本当によく練られています。こういう思いがけない発想との出会いが小説を読む醍醐味ですよね。いや〜、感服です。

 


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