Yamato Only Novel Deck(ver3.0)


『Let be Dancing with ICARUS!(その3)』

 >>>ぺきんぱ   -- 04/05/20-21:25..No.[91]  
   
物心つかぬ赤ん坊のときに、この子の母親は死んだ。 戦争のせいだ。
しばらくして、こんどは実の父親とも別れねばならなかった。 

サーシャの姿は地球から消えた。
激しい報道合戦から来るマスコミによる好奇の目を一時的に避ける、という理由からだった。

報道各社には、そう発表された。
だが、表向きとは別に、本当はもうひとつ、隠された重大な理由がある。
 
白色彗星帝国による地球防衛艦隊全滅の痛手は、まだ癒えきってない。
地球圏の防衛能力は無人艦隊の配備で補ってはいるが非常に心もとないのだ。

安全保障上からいえば、直接は地球に関係のない、暗黒星団帝国とイスカンダル=ガミラスの戦闘に、これ以上、巻き込まれたくは無い。 

これが地球側の、事の善悪は別にした本音だった。

もし暗黒星団帝国が敵国人として古代守とサーシャの引渡しを求めてきた場合、彼らを渡してしまおう、という 表立ってではないが不穏な動きをする勢力が地球連邦政府の一部にあるのだ。 
父親は、万が一の時を慮って秘密裏に娘を一番信じられる親友に預けようとした。最初、真田は断った。 当たり前だ。 
結婚もしたことの無い、子供など持ったことも無い自分に、乳飲み子の世話など・・・いったい、どうしろというのだ?
 
だが、結局は引き受けた。 
今、思えば、それは戦争という悲劇に巻き込まれ、大人たちの勝手な都合に翻弄され続ける者への同情か、または戦争に加担する自分の罪に対する、一種、贖罪の意識からかもしれなかった。


“・・まあ、そんな理屈など、どうでもいいか・・”

真田はそう思う。


こうして、辺ぴな小惑星での血のつながらない父娘の奇妙な共同生活が始まったのだが・・・なんというか、子育てというものは真田の想像を超えた、苦労と驚きの連続だった。 

今までの気ままな一人暮らしとは違い、子供の世話をし、子供の都合に合わせて行動し、泣き笑いといった感情や、健康に一喜一憂するという体験は時々、・・
いや、正直に白状をすれば、かなりうんざりとさせられるのだが。
なんともいえず新鮮で、なにより、誰かのために生きる、という人生には張り合いがある。

 ただなんとなく生きるのではなく、明確な目的のある生、それがこんなに素晴らしいものとは想像もつかなかった。

それを教えてくれた澪の笑顔、明るい笑い声だけでなく、怒った表情や、こちらを困らせ駄々をこねる憎らしげな顔すら、真田にはたまらなく愛おしく、全世界を敵に回そうとも決して失いたくないと思わせるのだ。 今では自分にこの子をもたらしてくれた卑怯な地球政府の政治家たちに感謝すらしている。
 
自分は幸せだ。 ここでの生活に充分満足している。

だが、澪の方はどうだろう? 
 
彼女が 時折かいま見せる、さびしげな憂い顔。
それを見るたび真田の心は引き裂かれるように痛み、言いしれぬ寒けが胸のうちを吹き抜ける・・・。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「それにね、科学者という仕事は面白いけど、もしかして、つらい思いをしなくちゃいけないかもしれないんだ」

「さっき言った戦争のこと?」

「いや、それとは別に、ぜんぜん関係の無いことで、だよ・・」

どう説明したらよいかな、と、真田は眉根にしわを寄せ、言葉を捜した。

「さっきの番組の話をしよう。
ガリレオ・ガリレイっていう人の最後の言葉、覚えているかな?」

もちろんと、澪は、大きく、元気よくうなずいた。

「“それでも、地球は動いているのだ” とってもかっこいいわ! わたし、その言葉で科学者になろうと決めたんだもの」

「そうだね。 お義父さんも、はじめて聞いたとき、澪と同じように感じたよ。
でも・・・」

真田はゆっくり、彼女が理解しやすいようにと言葉を選びながら話をつないだ。

「大人になってみると、本当にガリレオさんは、かっこよく、科学者として誇らしげにあんなことを言ったか、わからなくなったんだよ。 お義父さんには、ガリレオさんはとても悲しくて苦しくて、こぼすように言ってしまった言葉に思えるんだ。 テレビの中のヒーローがかっこよく言ったりするセリフとはちがうんだよ」

「・・・よくわかんない。」

「・・・だろうね。 う〜〜ん、どう話したらいいかな。 澪、キリストさまのこと、知ってるよね・・」

「うん、知ってる。 神様! 偉い人! クリスマスがお誕生日っ!」

「そうだ。えらいな、澪はものしりだ。 そのキリストさまのことを書いた本があって、それは『聖書』って呼ばれている。 キリストさまを信じる人は、それをとっても大切にして、その中に書いてあることを、だいじに だいじに守ってきたんだよ.・・・」

「でも、そこには、太陽が地球のまわりをぐるぐるまわっている、なんて本当じゃないことが書いてある。 番組で言ってたわ」

「その通り。 でも昔はそれが普通なんだ。 実際、太陽は自分たちの周りをぐるぐる回っているように見えるし・・・それに、聖書がそう言っているんだ。
疑う理由なんてこれっぽっちもなかったんだよ。 だから、ガリレオさんも最初は、聖書に書いてあることを信じていて、神様が言ってることは科学的にも正しいと証明しようとして、お星さまの動きを研究したにちがいないんだ」

「・・変なの。 本当かウソか、わからないから研究するんでしょ?
本当だと信じてるんだったら、そんなことしなくていいのに・・・」

うむむむむむぅ・・・ と、真田は思わずうめいた。

一本取られた。鋭い。
理屈からいえば、確かに、そうなのである。 

だが、それは科学者の性(さが)というもので、ともかく書物にこれが正しいと書いてあっても、本当にそうなのかどうか、確かめずにはいられないものなのだ。
実際、過去を振り返れば、真田にも覚えがある。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


まだ幼いころの話だ。
少年少女向け学習雑誌の、“ダイヤモンドは炭素の塊だから、高温になると炭のように燃えてしまう”という記事に感心して、よし、自分もやってみようと、母親の持っていたダイヤのネックレスや指輪をこっそり持ち出し、ガスコンロの火であぶったことがある。


『きゃぁぁーーーーーーッ!!! なにしてんのっ! 志郎ぉーーーッ!!!』


その現場を目撃し、母の上げた悲鳴は向こう三軒両隣に響き渡り、まさしく、この世の終わりを見たか、と思わせるほどで、ご近所の人たちが何事か?なんだなんだと駆けつけてきた。 

さすがに母も はしたないと思ったのか、
「あら、ごめんあそばせ。 キッチンにネズミとゴキブリが出て思わず悲鳴を。
オホホホホ・・・」 などとごまかし、口に手を当てて笑う。 
実に上手い演技である。 
太陽系アカデミー賞選考委員会がその場にいたなら、主演女優賞はぜひ彼女に!
と、オスカー像を手渡しただろう。 

そして、近所の人たちにお騒がせさまぁ〜〜と、手を振り、人騒がせなとブツクサ言いながら帰る彼らを、聖母マリア様もかくやというおだやかな笑みで見送り、こちらを振り返った母の顔は・・・・。


聖母どころか般若(はんにゃ)だった。

“・・や、やばい、とって喰われる・・・”

と、さすがの真田少年も観念したが、もちろん喰われるようなことは無く、頭にできたズキズキ痛むコブをなでながら、おあずけにされた大好物、晩御飯のおかず、 おいしそうに湯気を立てるエビフライが なすすべなく消えてゆくのを恨めしそうに見送るだけですんだのだった。

『こんどまた、似たようなことをやったら・・・』
 
母の頭には、また角が生えていた。

『二度と、お家には入れてあげませんからねっ!』

そう叱って真田のエビフライを持ち去り、奥の台所に引っ込む。
しょんぼりとうなだれた志郎の目に横からお皿に乗ったエビフライが飛び込んでくる。 思わず顔を上げると、しーっ、と唇に人差し指をあてた姉がいたずらっぽく笑い、“早く食べて”と目で合図していた。 

彼女の忠告どおり、一口で食べ終えた真田が、ふと正面の父親を見やる。 
すると父は優しそうに微笑んでいた顔をあわてて読んでいた新聞紙で隠し、
“私は、何ンにも見てませんよ”ポーズを作る。
それが可笑しくて、姉と志郎は母に聞こえないよう声を押し殺して笑いあっていた。





かわいいね♪

>>> Alice   -- 04/05/28-01:29..No.[96]
 
    志郎くん、かわいい。エビフライはともかく、暖かい家族に囲まれて育ったんですね。
私も悪戯盛りの少年の母です。時々般若にもなりますけど、ご飯抜きはしませんよ(ワンコじゃないんだから…)。
 


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