Yamato Only Novel Deck(ver3.0)


『Let be Dancing with ICARUS!(その2)』

 >>>ぺきんぱ   -- 04/05/20-21:22..No.[90]  
    波動砲発射シミュレーション・プログラムの突きつける現実に、真田は戦慄した。


人が百万、千万の数で、最悪の場合、億の単位で死んでいく。
それだけの命が、引き金の絞り、指の動きひとつで地上から消えうせるのだ。

・・・そんなことが、ただの人間にゆるされるのか?

今はいい。 
冷静沈着な艦長の沖田は、自衛のため、最後の手段としてのみこれを使うだろう。

だが、その後は? ガミラスとの戦いが終わった後は?

収束タキオン粒子による時空間破壊エネルギーには物理上の限界が無い。
威力を高めようとすれば、いくらでも高めることができる。
やがては恒星すら一撃で吹き飛ばす波動砲ができるかもしれない。
そうなれば、大陸のひとつ、都市のひとつどころではない・・・
星系文明そのものが、一瞬のうちに滅亡するのだ。

波動砲が生み出す、未来の地獄絵図を想像して背筋に悪寒が走る。
真田の体が震えだした。

胸が苦しい。 
体が鉛のように重く、制服の襟首を緩めるが、不快な圧迫感は無くならない。 
悪性の風邪を引いたかのように、ずきずきとこめかみがうずく。
青ざめた顔で立ち上がると、真田は洗面所に向かった。

すれ違う乗組員全員が、よほど自分の顔色が悪いのだろうか、こちらをまじまじと見つめてくる。 

“人殺し!”  “人殺し!”  “人殺し!”  “人殺し!”

突き刺さる視線が、真田に向かって叫んでいた。


わかっている。  錯覚だ。 

自分の乱れた精神状態が生み出す幻覚にすぎない。

だが・・・わかっているのに・・・

なぜ、こんなに視線が痛いのだろう、なぜこんなにも胸が苦しいのだろう? 

不快な圧迫感が強まると、突然、嘔吐が激しくのどを突き上げた。 
我慢できずトイレに駆け込み 床に膝を付くと胃袋の中身をぶちまける。
胃液すら絞りつくし、吐くものがなくなったところで、ふらつく足を踏みしめながら真田は立ち上がった。

洗面台で口をすすぎ、吐いたものの残滓(ざんし)を洗い流す。
顔を上げ鏡の中を覗き込んだ。

“人殺し”

鏡の中の男さえ、そう自分を非難する。 
激しい怒りが心の中で荒れ狂った。

ならば・・・おれは、どうしたらよかったのだ・・

ガミラスの戦力は圧倒的だ。 
それに対抗するには、敵の持っていない、強大な威力の兵器が必要だったのだ。
地球人が生き延びるためには、この力が必要なのだ。

 だから造った。  なのに、 ・・・神さま。

あなたはそれを責めるのですか? 
罪人(つみびと)と私をなじるのですか?
ならばあなたの罪はどうなのですか?
人間という不完全な精神を持つ生物に、知恵という凶器を持たせた、
あなたの罪は、いったい誰が問うというのだ


ガシャンという音が洗面所に響く。
洗面台の鏡が蜘蛛の巣のようにひび割れた。
砕けた銀色の破片が、辺り一面に飛び散った。

激しく鋭い音が響くなか、鏡の中の男が砕け、崩れてゆく。

真田は洗面台の鏡を殴りつけていた。
何度も何度も、こぶしを叩きつけて、言葉にならない叫びを上げながら。


誰に向かって叫んでいる? 何に向かって叫んでいる?
神か?  戦争か?  波動砲という化け物を野に放った自分にか?
それとも、この世の、暴力には暴力で対抗するしかないという無残な理(ことわり)というやつにか?

その全てにかもしれない・・・。


肩が激しく上下する。 息を切らしながら、壁に手をつく。 
見ると、右の手の甲に鏡の破片が突き刺さっていた。

痛みは無い。  義手   血の通わぬ冷たい造り物。


真田は、傷ついた自分の手をぼんやりと見つめ続けた。


波動砲は、これから何度も何度も使われるだろう。
そのたびに、人が死ぬ。 その繰り返しに、だんだんと心が麻痺していく。
やがて、この引き裂かれるような痛みの感覚もなくなり、血の通わぬ機械のように、自分の心も冷え固まっていくのかもしれない。


“いいじゃないか、それで・・・”

誰かが、ささやいた。

“いっそ、こんな風に痛みを感じなくなれば、楽になれるぞ・・”

真田はいそいで耳をふさぐ。 だが、心の中から湧き上がる声は容赦なく響く。


“そして、造ろう  どんどん造ろう  強力な武器を  高性能の兵器を“


やめろ ・・いやだ。 もういやだ。 人殺しの道具をつくるのはもういやだ。


“いやだ?  ・・嘘をつけ  しっているぞ  おれは知ってるぞ
 波動砲をチェックするとき お前は考えていた  
こうすればもっとよくなる  あそこを改良すればもっと強力な武器になる “


ちがう! ちがう! ちがう!  おれはそんなこと、考えてはいないっ!


“ なぜだ  なぜ拒む  もっと正直になれ  自分の心  科学者の本能に
つくりたいんだろ  つくらずにはいられないんだろ?
自分の得た知識を使い  なにかを あたらしいものを創造せずにはいられない
たとえそれが  兵器だとしても  無慈悲な 大量殺人の道具だとしても
お前はつくらずにいられない・・・“


ちがう・・・ちがう・・・ぜったいに・・ちがう・・


“ だからつくろう   もっとつくろう
お前の頭の中にある 持てるアイディアの全てを実現させて 
このヤマトを  もっと強力な 宇宙最強、 無敵の戦闘艦に創りあげるのだ
わくわくするだろ  心がおどるだろ  
たのしいぞ   たのしいぞ  たのしいぞ
 きっと きっと 楽しいぞっ!“


じわじわと、えたいのしれない暗闇が、自分の心に迫ってくる。

こわい。
心の中で響く声
もう一人の自分に押し流されそうな自分がこわい。


ずるずると背中が壁をすべり、腰が落ちる。
真田は洗面所の床に座り込んでいた。

のろのろと腕を動かす。
自分の顔の前で、鏡に叩きつけた手を動かしてみる。
衝撃でゆがんだ指、マニュピレータの関節部品が軋み、かすれた金属音を立てた。

義手が悲鳴を上げている。
そんな気がした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「・・どうして義父さまみたいになっちゃいけないの? わたしも科学者になって義父さまのようにヤマトみたいな船にのって・・」

澪の声が過去の追憶から真田をハッと目覚めさせた。

「だめだ。 ぜったいに、だめだっ!」

怒声に、びくんと小さな身体が震えた。
自分はよほど怖い声を出したのだろう、怯えの色が少女の顔に浮かんでいる。
あわてて、真田が澪を抱きよせた。

「ごめん。びっくりしたかい 澪は悪くないよ。 悪いのはお義父さんだ・・」

一度だけ、しゃくりあげる声がした。
自分の胸で、澪の小さな手が動くのを感じる。服がひっぱられている。
どうやら涙をふくのに使われているらしい。

「お義父さんはね、澪が一生、あの艦(ふね)に乗らなければ良いと思っているんだ。 どうしてかっていうと、あれは、戦争をするための道具だからだよ。
澪には、できれば一生、戦争にかかわって欲しくないんだ。 悲しい思いをいっぱいするからね・・」

抱擁を解いて、わかるかな?と膝を折ってしゃがみこむ。
真田は、イスに座る澪と同じ視線の高さになって語りかけた。

「そういう思いをするのは、お義父さんたちだけで充分なんだ。
ヤマトは人を殺すことが出来る、人を殺すための艦(ふね)なんだ。 
ヤマトに乗るってことは、人を殺さなくちゃいけないってことなんだよ。
だから、澪には乗って欲しくないんだ・・」

ふっと澪の視線が真田から外れ、足元に落ちた。

「義父さま・・。 もしかして、ヤマトがきらい?」

真田は激しくかぶりを振った。

「そうじゃない、そうじゃないんだ。 ヤマトを憎んだりなんかしてない。 
お義父さんは地球を守るヤマトを造ったことを、とても誇り思ってる・・でもね
ヤマトが戦うとき、敵も味方も、人がいっぱい死ぬんだ。 
お義父さんは、ヤマトが・・・自分の造った艦(ふね)がどんどん人を殺していくのが、時々・・・とっても怖くなるんだよ・・」

真田は流された血、失われた命の多さ思う。
やがて、やり場の無い怒りと悲しみが、心の奥底からふつふつと湧き上がった。


「戦争には武器が、兵器が要る。 たくさんの人をいっぺんに殺せる爆弾、人にいっぱい血を流させるような銃・・。  科学はね、澪。 その開発に使われ続けてきたんだ。 とてもりっぱな発明や発見が、恐ろしい武器を造るために利用され・・・大勢の人をとっても悲しませてきたんだよ・・」

“そして この子も、その一人だ。”

まっすぐこちらを見つめている、澄んだ、澪の無垢(むく)な瞳。
真田の胸が痛んだ。





悩む天才のリアルな姿

>>> Alice   -- 04/05/28-01:16..No.[95]
 
    なんだか異色の展開ですね。最初は親子のほのぼのした情景だったのに、一転して真田さんの苦しみもがく姿。今まで思い至りませんでしたが、人類が波動砲を手にすることで後々どんな悲惨な殺戮が繰り広げられるのだろう…なんて思うと、開発者たる者、心穏やかでいられるわけがありませんね。ダイナマイトを発明したノーベルも、原爆を生み出す方程式を発見したアインシュタインも、真田さんと同じような心の苦しみを味わったのかもしれません。ぺきんぱさんの相変わらず深い人間洞察に、脱帽です。
 


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