Yamato Only Novel Deck(ver3.0)




『火星 (中編)』

 >>>ふみひこ   -- 04/04/19-00:39..No.[78]  
     地球脱出のための「方舟」が、秘密裏に建造されている――そんな噂の真相を知ったのは、ゆきかぜを冥王星会戦へと送り出した後だった。ヤマト計画は国連の外郭団体によって進められ、その実情は巧みに自分たち軍所属の人間の目から隠されていたのだ。
 太陽系を脱出できる性能を持った動力機関の開発。その命令を訝しみながら送り込まれた出向先で、真田はヤマトの存在を知った。
 その姿が、漠然と思い浮かべていた方舟のイメージとは程遠いことに、真田はまず驚いた。
(方舟どころか、これは戦艦じゃないか)
 防衛軍の内部でこれを知るものは、藤堂長官と人材養成にあたった訓練学校の土方校長、そして最後の決戦を率いた艦隊司令の沖田など、ごく限られた者たちであることも、そのとき初めて知らされたのだ。

 ガミラスの攻撃を逃れ、種の存続が可能な惑星を求める。そのためには、どうしても太陽系の外へと出なければならない。ガミラスの出現はそうした航宙が現実に可能であることを示唆していたし、それがおそらくワープ航法であることまでは、真田も突き止めてはいた。だが、いくつかプランを出してはみたものの、光速の壁を越えるどころか航続距離を稼ぐことも覚束ないでいるうちに、イスカンダルからのメッセージが持ち帰られ、波動エンジンの設計図がもたらされた。
 それからは、残された力を総動員してのエンジン製造に、真田には息をつく間もないほどであった。
(確かにこれは最高機密に違いない。こんな船があると知られたら、乾坤一擲の特攻作戦に旗頭として担ぎ出されかねなかった――それこそ、250年前に沈んだ船のように)
 それこそが、この船を「ヤマト」と名づけ、その名を持つ戦艦の残骸に匿身させることを選んだ人々にとって、もっとも回避せねばならない事態なのだということは、容易に推察できた。彼らはこの計画の立案にあたって戦艦大和の悲劇に思いを馳せ、新しい使命によってその無念を晴らし、以って地球に誕生した生命の、その最後の希望を繋ぐ航海の守護としたかったのだろう。センチメンタルな物神論だとは思ったが、それをあざ笑う気になどなれない。
 ただ、真田には、どうしても捨て去ることのできない疑念があった――守は、ここにこそ求められていた人材だったのではないかということだ。

 派手な奴だな――その印象を改めて振り返ってみた時、それが実は守自身の言動よりも周囲の反応に由来していたのだということに思い当たる。
 よほどの天の邪鬼でない限り、誰もが守を慕い、その力量を認めていた。守も周囲の人間の力を引き出すことに長けていて、それが為にあの厳しい戦況を戦い抜いてこられたのだろう。
 人類の命運を繋ぐための、先の見えない放浪の旅。本当に、そんな旅に出るしかないとあっては、尚更あの曇りのない人格は貴重なものとなった筈だ。
(そうだ、そもそもあいつには、玉砕覚悟の特攻などおよそ似合わないじゃないか)
 その守にあんな戦術を取らせてしまったのは、やはり自分の施した補修が不完全なためだったのではないか。巧みな操艦によって健闘はしたものの、いざ撤退となると足手まといになるしかないことを悟って、守は敢えて旗艦の楯となったのではないだろうか。
 冥王星会戦が地球の未来を賭けた最終決戦だと思えばこそ、あのとき断腸の思いでゆきかぜを見送った。だが、地球の生命を繋ぐ最後の綱はここにあったのだ。もし、ゆきかぜが出撃不能であることを上層部に告げ、守たちを足止めすることができていたら。いや、それでも守は、一砲手としてでも出撃していっただろう。しかし、玉砕の悲劇は、ひょっとしたら避けられたのではないか。
(彼を天涯孤独の身の上に追い込んだのは、俺なんだ)

 古代進。乗員名簿でその名を確認し、実際に顔を合わせ、そのたびに真田は申し訳なさと悔恨のために心臓を引き絞られるようだった。
 ひとこと、詫びたかった。ひそかに求めていた機会を、今、まさに得られたのだと思った。だが、ヘルメット越しに見た古代の硬い表情と、先程口に上せた懐疑の言葉が、それを止まらせる。
 守の死はまだ、古代にとっても自分にとっても、触れればすぐに血があふれ出すほどの新しい傷なのだ。
(気持ちの整理ができていないんだ。当然じゃないか、あれからまだ日も浅い。ここで許せだの何だのと言い出しても、俺と同じ詮無い後悔の中に引きずり込むだけだ。それで俺は胸のつかえを軽くできるかもしれんが、そんな身勝手のために彼の傷を開く権利などない)
 いつか。時間の経過とともに古代の苦しみが和らぎ、辛いけれども変えようのない過去として受け入れることができたなら、その時は、彼が受けるべき謝罪の言葉を告げることができるかもしれない。
 それまで任務に専念し、できることならこの青年を支えていこう。きっとその兄が望んでいたのと同じように。それが今の自分にできる精一杯のことだ。真田は喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。




探索艇には

>>> ふみひこ   -- 04/04/21-00:41..No.[81]
 
    直列3座席のタイプもあると「ヤマト画報」に載っていたので、アナライザーにも来てもらいました。
いろいろとツッコミどころも多いかと思いますが、笑って許していただけるとありがたいです。

実はこの小説を書いている時、「戦艦大和の最後」(吉田満)を同時進行で読んでいました。誠実な記録と戦後の真摯な内省に、「戦いというものの無惨」「そのなかにあっての、人間の真の栄光」ということを考えずにはいられませんでした。
生半可さに冷や汗の出る思いですが、「大和」に触れずにいられなかったのは、そうした思いがはるか未来に設定された「ヤマト」の時代の人々にも通じていてほしいという願望の現れかと思います。
 
守兄さんの存在

>>> じゅう -[URL]  -- 04/04/29-11:56..No.[85]
 
    アニメではそれほど出番があったとは思えないのに、進・沖田艦長・真田さんの心の中で強く生き続けている守兄さんの存在感って大きいですね。
でも真田さんは守兄さんに対して「派手」だとは語っているけれど、もっと掘り下げた感情の、具体的な描写が少ないと感じていたので、ふみひこさんの書かれた文章を読んで、深く頷きました。
それだからこそ余計に、進を見る真田さんの想いがひしひしと伝わります。

今回、中編のイラストでは、真田さんから見た、古代兄弟のイメージと、彼らへの心情を表現したいと思って描かせて頂きました。

 
いいコラボですね

>>> Alice   -- 04/05/02-11:06..No.[86]
 
    はじめまして、ふみひこ様。安定感のある文章と巧みな心理描写にぐいぐい引き込まれます。冷静沈着な科学者ではなく、人間味あふれた真田さんの描写で、技師長がますます好きになります。また、ヤマトの存在が公になっていたらとっくに戦闘に徴用されていた…という件、考えてみれば最もなことですが、今まで思いつきもしませんでした。確かに満足に闘える戦艦があるのなら、冥王星会戦に行かされそうですよね。納得しました。
そ・し・て!じゅうさんのイラスト、ますます冴えてます!笑顔の兄とうなだれた弟の対比がすごく決まっていますね。文章ともよくマッチしていて、次が今から楽しみです。
 


▼返信用フォームです▼

Name
URL
Title       
Message
Forecolor
Password     修正・削除に使用(4〜8文字)




■修正・削除: 記事Noと投稿時に入力したパスワードを入力し
edit(修正)又はdelete(削除)を選びupdateボタンを押下

No. Pass
あっぷっぷ Ver0.595 Created by Tacky's Room