Yamato Only Novel Deck(ver3.0)


『浜辺を望む丘にて』

 >>>やすひろ   -- 03/12/23-10:31..No.[74]  
   
「古代! おい、古代…」

海を見晴らす階段の一角に一人腰を下ろしていた古代進は、真田志郎の言葉にはっと顔を上げた。
その古代の眼差しが半ば呆けた様に空ろである事を、真田はすぐに見て取ったのだった。

          ◇     ◇     ◇

ヤマトの元乗組員や家族、そして地球防衛軍の有志達が、かつての仲間達を想い、花を手向けに英雄の丘に集まった。

その日は、水惑星アクエリアスから地球へと伸びた巨大な水柱、それを断ち切る為に沖田艦長とヤマトが彼らの前より姿を消してから、丸1年を迎える日だったからだ。

儀礼めいた大げさな事はしたくない、それが彼らの共通した願いであった。
しいてセレモニーらしき事と言えば、沖田艦長の長年に渡る友でもあった藤堂司令長官の、短くも心に残るスピーチぐらいだっただろうか。

その長官も、にわかにはこの場から去りがたい元乗組員達の心情を察してか、つい今し方、孫娘の晶子を残して英雄の丘を後にしていた。

          ◇     ◇     ◇

「久しぶりに顔を揃えたからな。
 皆、飲みに行きたいらしいんだ。
 …お前も付き合うだろう?」
「そうですね…」
真田の問い掛けにも、浮かない顔のままの古代。

「どうしたんだ」
古代と並んで、階段に腰掛ける真田。

少し離れた場所で晶子と想い出話に花を咲かせていた雪、そして相原や加藤らも、そんな二人のやり取りが気になる様子である。

遠く湾内の向こうにそびえる中央都市のビル群を見つめながら、古代は真田に問いかけた。
「…幾たびもの戦いで、数え切れない程の尊い命が失われてしまった。
 なのに生き残った俺達は、今や何の不自由も無く便利な生活を送れる様になっている。
 その快適さに紛れて、皆のことを想い出す事さえ無い日々が、いつの間にか多くなってしまっているじゃありませんか…。
 ねえ、真田さん。
 俺は今日、沖田艦長や島達に、何て声を掛ければ良かったんでしょう?
 その答えが、どうしても見つからなかったんですよ…」

その言葉にひとしきり沈黙していた真田だったが、やがて自らを鼓舞する様に立ち上がり、眼下に拡がる海を見渡しながら古代に尋ねる。

「…古代、あの海まで走ってみないか?」
「えっ?」
「俺達は今、生きている。
 だったら、それを改めて実感してみようじゃないか。
 答えを探すのは、それからでいい…」

          ◇     ◇     ◇

英雄の丘を下った海浜公園の入口に、元乗組員達が集まっている。

「とっておきのプランって何ですか、真田さん」

彼らに向かって、笑顔で声を張り上げる真田。

「どうだ、皆! あの波打ち際まで、俺と競争しないか!」
「えぇ〜っ!」

常に沈着冷静なはずの彼から発せられた唐突な言葉に、呆気に取られる元乗組員達。
目を丸くした徳川太助が、真田に訊ねる。

「一体どうしたんですか、技師長らしくもない」
「らしくないなんて事があるか!
 俺だって、まだまだ若いんだ。
 そんな固定概念ごときは、空間磁力メッキMXハイパーでたちどころに跳ね返して見せるぞ!
 なんてな…」
「…」

予想もしなかった真田のギャグに不意打ちを食い、皆がその場に凍り付いてしまった。
その沈黙を破る様に、大きく頷き、胸を叩く加藤四郎。

「解りました、僕が受けて立ちましょう!」
「出た〜、筋肉体育会系はこれだからなぁ!」
「前に見た古い映画に、そんなシーンがあったんです。
 一度やって見たかったんだ、太田さんも付き合って下さいよ!」
「え〜、俺もかよ…」

思わず顔をしかめる太田をしり目に、雪が言う。

「いいわ、私も走ります!」
「君まで、何を言い出すんだよ、雪」
「あら。
 こう見えても、学生時代はスプリンターで鳴らしたんだから!
 さあ古代君、行くわよ。
 …皆が元気で頑張っているって事、沖田艦長達に見て貰いましょう!」
「…よし、解った」

真田や雪達の気持ちが伝わったのか、ようやく笑顔を取り戻す古代。
その傍らでは、元乗組員達とすっかり打ち解けた様子の島次郎が、アナライザーの頑丈そうな脚を興味深げに触っている。

「アナライザー、どれ位のスピードで走れるの?」
「運動ニオイテモ、ワタシハ万能デス」
「それじゃあ、僕達も競争しよう。
 僕が勝ったら、学校の宿題1年分、君にお任せだからね!」
「ワタシガ勝ッタラ、ナニガ貰エルノデスカ?」
「そうだなぁ…。
 よし、クラスで一番可愛い子を紹介してあげるよ!」
「ワタシハ、ユキサンノ様ナ大人ノ女性ニシカ、興味アリマセン!」
「ちぇっ、贅沢言ってらぁ!」

「晶子さん、僕達も走ろうか?」
「はい…、義一さんが一緒なら…」

顔を見合わせ微笑む相原と晶子に、すっかりあてられた様子の太田と南部。

「あ〜あ、こっちもすっかりいい感じ、てか!
 俺達の幸せって、一体何時来るんだろ。
 なあ、南部?」
「ぼやかない、ぼやかない。
 今度、合コンをセッティングしてやるからさ」
「メンバー次第だからなぁ、その手の飲み会も…」
「あっ、そう。
 相手は親父の会社の秘書課の子たちなんだけど…、止めとくかい?」
「えっ、秘書課!
 行くよ、いや、参加させて下さい!
 よぉーし、そうと決まれば、走りまくってダイエットするぞーぉ!」

「おいっ、ワシも走るぞ!」
「無理しないで下さいよ、佐渡先生」
「呼吸1りっとる当タリノあるこーる濃度、0.3みりぐらむ。
 過激ナ運動ハ危険デス、自重シテ下サイ」
「なんじゃい、どいつもコイツも、人を邪魔にしよってからに!」

皆に止められ剥れる佐渡の肩を、山崎が軽くポンと叩いた。

「先生、あと一杯、私に付合ってくれませんか?
 もう暫く、沖田艦長とお話したい気分なんですよ」

真田がもう一度、周囲に声を掛ける。

「皆、用意はいいか!
 こんなこともあろうかと、とびきり旨い中華料理の店を予約しておいた。
 俺に勝った奴は、フカヒレだろうが、エビチリだろうが、何でも食べ放題だぞ!」
「北京ダック、頂きまーす!」
「太田、お前たった今、ダイエットするって言ったばかりじゃないか」
「ダイエットは明日からって事で、針路変更!」
「それじゃあ、スタートよ!」

浜辺に向かって一斉に走り出す、古代と雪、そして元乗組員達。

「アラ、アララッ!」

たちまち砂に脚を取られ引っくり返ってしまったアナライザーを、次郎と真田が助け起そうとする。

「アナライザー、大丈夫かい?」
「砂浜ゴトキ場所、ワタシノ能力、発揮デキナイ!」 
「相変わらず言い訳の多い奴だ、まったく。
 ハッハッハッ…」

          ◇     ◇     ◇

英雄の丘へと戻った佐渡と山崎は、そんな元乗組員達の様子を見守りながら、佐渡がお気に入りの銘酒「美少年」を傾けていた。

アクエリアス接近による大災害を乗り越え、各地域の都市機能をほぼ回復させた地球連邦は、太陽系内の復興へその政策の重点を移し、鉱物資源等の開発や太陽系外との交流を見据えた基地建設のプロジェックトが、まもなく立ち上ろうとしている。

「来月、古代と森君の結婚式が済んだら、しばらく皆で集まる機会も無くなりますねぇ…」
「うむ。
 各惑星への輸送船団の運航が始まれば、あいつ等はきっと皆、目が廻る様な忙しさになるじゃろう」
「ところで、先生はもうすぐ就航する『ホーキングU世号』に乗られるそうですね?」

佐渡酒造は、宇宙空間における豊富な臨床経験を見込まれ、銀河系中心部を横断し合計三十数万光年を踏破する予定の調査船に、勤務医として参加する事が決まっている。

「そうとも。
 こんなワシでも見込んでくれる人が居るとは、人の縁とは本当に有難い。
 それに、コイツもすっかり宇宙暮らしが板に着いてしまったからのう。
 なあ、ミー君?」
「みゃぁおーぅ」

起用な仕草で注がれた日本酒を受け取り、喉を鳴らして味わう愛猫の頭を、そっと撫でる佐渡。

「そう言う君も、来年から宇宙航空大学の技術教官になると聞いたが?」
「ええ。
 太陽系内の開発が一段落したら、次はいよいよ、地球人が銀河系の各所で活躍する時代が来るでしょう。
 機関士、航海士、通信士、どの部門のスタッフも今以上に必要とされるに違いありません。
 その時に備えて優秀な人材を育てる事が、今の私に出来る一番意義のある仕事かと思いましてね…」
「それは良い。
 銀河系の中に限っても、地球に対して交易や技術支援への協力を求めてきている知的文明は、ゆうに100を下るまいて。
 その数多くの星々から、あいつ等の様な若い力が必要とされる日が、もう直ぐ来る。
 君の技術と経験を、後輩達に漏らさず伝えてくれよ、なあ!」

戦士達が眠る丘で感慨にふける二人の耳元に、穏やかな午後の潮騒と明るい歓声が、かすかに響いてきた。
ふと、遠く波打ち際に目をやると、次なる舞台への旅立ちを間近にして、屈託のない笑顔を浮かべる元乗組員達が、並んで見えている。
そんな彼らの姿に目を細めた佐渡は、沖田十三の像を振り返った。

「艦長、あんたの子供達が、新しい使命を携えて銀河の大海原へ漕ぎ出して行くぞ。
 …この数十年の間に、地球でも他の星々でも、一体どれだけの人々が戦いで傷つき、そして失われた事じゃろう。
 だが、ワシらは信じておる。
 例え、不幸なきっかけから始まったとしても、人と人が解り合い想い合う気持ちはこの宇宙いっぱいに拡がって、やがては必ず通じ合うという事を。
 それは虹を追いかけて走る、終わりの無い夢の様なものかもしれんが、あいつ等ならその日が来る事を信じて、必ず成し遂げてくれるはずじゃ。
 土方竜、山南敬介、古代守、島大介、斉藤始…。
 志半ばで死んでいった沢山の戦士達も、それを願っておるに違いない。
 あんたが本当に望んでいたのは、まさしくそんな未来だったものなぁ…」

「先生、彼らに乾杯しませんか…」
「よし、若者達の一層の活躍を祈って、乾杯じゃ!」

柔らかな夕陽が射し込む浜辺に、一陣の風がそっと吹きぬけていく。
その日、英雄の丘から見晴らす海は、どこまでも蒼く、そして澄み切っていた。



名場面への補完、どうかお許しを

>>> やすしと書いてひろしです   -- 03/12/23-10:32..No.[75]
 
    先月、EEシリーズ「ヤマト・ザ・ベスト」を購入したのですが、その中で「明日に架ける虹」にすっかりはまってしまい、出来上がったのがこの短編です。
補完の域を出ていませんが、何卒大目に見てやって下さい。^^;)

 
夢の続きとして

>>> やすひろ   -- 06/04/18-23:31..No.[122]
 
    以前投稿した短編に手を加えさせて頂きました。
海を目指して走る彼らの想いを、もう少し時間を掛けて表現してみたかったのです。
あのシーンに出て来なかったはずのキャラクター達については、カメラフレームの外を走っていた(笑)、とお考え頂ければ幸いです。^^;)
 


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