Yamato Only Novel Deck(ver3.0)


『そこに仲間がいればこそ』

 >>>Alice   -- 03/08/17-15:51..No.[69]  
    「あっ…、ダメよ。山本君。」
「いいじゃないか。」
「でも…」
「平気だよ、ちょっとくらい。」

昼下がりの格納庫。愛機の整備に勤しんでいた加藤三郎は、隣のハンガーから聞こえてきた怪しげな男女の声に耳を疑った。

「やっぱりダメ。」
「いいじゃないか、減るもんじゃなし。」
「やめて!触らないで!」

「や、や、や、山本―――――――!」
転がるように山本機に駆け寄り叫ぶ加藤。
「何やってんだ、おまえ!」

「えっ?」
振り向いた山本の手は、ぱっくり開いたブラックタイガー機の胴体部に突っ込まれていた。その手に、技術班の女性クルーがしがみついている。
「あっ、加藤隊長。」
即座に状況が飲み込めない加藤は、2人の顔を交互に見やる。
「どうかしたか、加藤?」
「い、いや…」
「隊長。山本副長が、ブラックボックスを開けようとするんです。」
女性クルーが心底困った表情で、止めてくれと加藤に哀願する。

通常、ブラックタイガー機の整備は、それぞれの機のパイロットが自ら行うが、電子機器や精密部品を取り扱う場合は、技術班のエンジニアとペアで作業をする決まりになっている。

今朝方、ガミラスの偵察機と一戦交えた山本機は、尾翼に軽微な損傷を負った。一旦は完全に捉えた敵の機を撃ち損ない、逆にやられてしまったのだ。即座に僚機がフォローに回り事無きを得たが、エースパイロットが被弾した原因は、パルスレーザーの照準器に微妙なずれが生じたためだった。

帰還した山本機は、技術班が瞬く間に修理し、照準器の不具合も修正した。その後、格納庫に戻された機体を、待ち構えていた山本が細かく点検していて、これまではなかった不審な装置を見つけてしまったらしい。

「これは、技師長自ら取り付けられた部品で、絶対に、ずうぇったいに触るな!と厳命されました。」
「だって、気になるじゃないか。そもそも何なんだよ、これ?」
「それは…」
口ごもる女性クルー。
「あの、私も詳しい事は、聞いていなくて。ただ触るなとしか…」

「もういいじゃないか、山本。技師長が付けたんなら、きっと必要な物なんだよ。」
加藤がとりなす。
「そうだな。」
納得した表情ではないが、山本はしぶしぶブラックボックスから手を離した。

「ちょっと一服するか、ほら△△もおいで。」

格納庫の一角にある休憩スペース。山本は自販機でイオン飲料を買うと、君はどれにする?と目で問う。
「私は、アミノ飲料、ダイエットのやつ。」
「はい、はい。」

山本も△△も、今日は朝からずっと働き通しだった。飲み物片手にやっと一息いれながら、格納庫に整然と並んだブラックタイガーを眺めやる。飛行機を眺める山本の視線は、とても優しい。

「気になる?ブラックボックスのこと…」
「えっ?ああ、まあ確かに。自分が乗る機体のことだからね。」
「そうよねぇ。」
「でも、加藤が言うように、技師長がつけたんなら、間違いないだろう。」

△△は、そっと山本の横顔を盗み見た。
「山本君、なんだか痩せたね。」
「そうかな。」
「うん。地球を発進した頃に比べたら、ずいぶん痩せちゃったよ。仕事、キツイんでしょう?」
「それは技術班も同じだろ?」
「だけど、私たちは最前線で命張ってるわけじゃないから…」

ゴクリ。山本がカップの中身を飲み干すと、喉仏が大きく動いた。
「それは違うよ、△△。」
くしゃっと握り潰したカップを、そのまま隅のダストシュートへ投げる。(もちろん、ど真ん中)

「ブラックタイガーで飛び出していく時は、そりゃあ確かに怖い。だけど、それでも敵に向かって行けるのは、後ろに強力なバックアップがあるとわかっているからなんだ。」

2人とも視線は戦闘機に向けたまま。

「つまり、その、△△たちが万全のサポート体制をしいているから、俺は安心して出撃できるって言うか…。もちろんコックピットには俺1人しかいないんだけど、1人で戦っていると思ったことはない。」
「山本君。」
「BT隊が最前線で戦えるのは、ヤマトの仲間がいるからこそで…、だから、みんな一緒だよ、命張ってるって事に関しては。」

△△はコクンと頷く。実際に戦場に出る戦闘班や艦載機隊とそれを陰で支える技術班。当然派手な戦闘を繰り広げる部署は、リスクも高いがとにかく目立つので、艦への貢献度は評価されやすい。彼らに比べて自分の仕事が劣っているとは思わないが、一緒に戦っていると言われたことは、素直にとても嬉しかった。

「うん。パルスレーザーの照準器、もう絶対にぶれないようにしておきました。」
ちょっとおどけて返すと、山本も笑った。
「らしくないこと、言っちゃったな。」

とても穏やかで優しい時間が流れていく。


後日、△△は真田技師長にブラックボックスの用途について質問した。忙しそうに動き回っていた真田は、一瞬手を止めてニヤリと笑う。
「あれか?あれは、俺がこんなこともあろうかと開発した、究極の士気高揚装置だ。」
「士気高揚装置?」
「うむ。単調な戦闘が続くと、飽きっぽい若いやつらは気を抜くからな。敵機にヒットすると拍手や声援、外すとブーイングや葬送行進曲がコックピットに鳴り響く仕掛けだ。10発クリーンヒットが続くとファンファーレも鳴る。どうだ、ゲーム世代にはぴったりだろう?」

△△の目が点になる。

「声援や叱咤は、沖田艦長、戦闘隊長、加藤隊長、森君、それから佐渡先生に20パターンずつ吹き込んでもらった。みんななかなかの役者でね、迫真の名演技だったよ。山本機でうまくいけば、全機に搭載しよう。これで、BT隊のやる気倍増、間違いなしだ。」

確かに、間違いなく、これで山本の寄せた全幅の信頼にはひびが入るだろう。

もっとまともな物、開発してくださいよ〜(涙)、△△は、山本のはにかんだ様な笑顔を思い出しながら、心の中で叫んでいた。



予想外なオチになりました

>>> Alice   -- 03/08/17-15:56..No.[70]
 
    「癒し系第2弾!シリアスにほのぼの」…のつもりだったのですが、書いているうちにキテレツシローが入ってしまいました。でも、山本だけは、あくまでもさわやかに素敵にしておきました。(へへへ)

なお△△には、ご自分の名前を入れて、一緒に仕事している幸せな気分をご堪能ください。(しつこいって!)
 
実は今

>>> 長田亀吉   -- 03/08/17-20:07..No.[71]
 
     ガミラシアの執筆の参考に(?)、エースコンバット04っていうゲームをIKUYOさんに勧めてもらってやってるんです。
そしたら、英語でいろいろと指示されたり励まされたりして結構燃えるんですよね。だから、真田さんの装置も「ありそう」な気がします(笑)。

 隊の中では「ユキの声だけ」バージョンの開発要望が高まっていくんでしょうね(笑)
 
 つかみがぐっと気持ちを引っ張るので最後まで一気に読めました。分量も長くなく短くも無く、ちょうど良い感じで快適です。お見事!!
 
技師長ったら〜;;

>>> ぴよ   -- 03/08/18-02:20..No.[72]
 
    なんとおちゃめな装置を…というか、確かにこれはキテレツシローの世界ですね(笑)。ところでこの装置ですが、以前私がガンダムのシューティングで、シャアと戦いつつ大気圏突入した時には、セイラさんの「オーバータイムよ、戻って!」という絶叫に、ずいぶん士気が下がった記憶があるのですが…(それどころじゃないんだ、というアムロくん本人の心境がよくわかったと申しましょうか。)

で、とにかく、山本君のさわやかさが前面に出ていて、素敵な作品ですね。△△さんってどんな子かなぁ、と、いろいろ想像するのも楽しかったです。艦長のおっしゃるようにヒキもオチも秀逸で、ほんとにいつもお上手ですね!!!つい後日談を期待してしまいます♪
 


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