|
>>>長田亀吉
-- 03/04/13-21:18..No.[51] |
|||
病室のドアをこわごわと古代は開けた。 そこには、朝の光が差し込んでいた。 「土門…」 土門竜介は確かにそこに居る。 上半身を起こして、窓の外の明るい光景を見つめている。 土門は、古代の声に応えるように穏やかな笑みを見せながら、振り向いた。 「艦長…」 古代は、ゆっくりと土門のそばに近づいた。 「具合はどうだ?」 「なんとか、大丈夫です」 土門は笑って見せた。 「そうか・・・」 古代は土門をじっと見た。 土門は、笑いながらいった。 「艦長、暗い顔はやめてください。確かに体のほとんどは機械になりましたが、普通に暮らせます。大丈夫です」 古代は、土門がいじらしくて涙が出そうになる。しかし、こらえて…笑った。 外見上は、生身の人間と変わらない。しかし、土門竜介の体はハイドロコスモジェン砲の影響力の及ばぬ崩壊をしており、脳を含む頭部を除いては、再生の余地が無かったのだ。土門は体のほとんどを機械に転換された。それは、かつて真田志郎が歩んだ道でもある。 「それに、ある程度時間が経てば、有機体再生内臓への転換もされます。少しは生身に戻ります。手足に爆弾を仕込んでないだけ、僕は幸せです」 土門は笑った。 「艦長…謝らないでください。あなたは止めた。なのに僕は走った。そして、死んだ。自業自得なんです。こういう生き返り方をしたのも」 「しかし、そのおかげで地球は救われたんだ」 古代は、土門の肩に手を置いて言った。 土門は、静かに、しかし、しっかりとうなづいた。 「でも、戦士には向いてません」 土門は微笑した。 そんなことはない…古代は思った。確かに土門はサイボーグになってしまったが、能力だけをみれば人間以上だ。ただ、土門の言わんとすることは古代にも分かっていた。それは出会った瞬間から古代の勘としてあったのだ。あのとき、確かに自分は「大砲撃ちの道は険しい」などどいって、土門にいつかは砲術長に、戦闘班長に、と思わせるようなことをいったが、本心だったかどうか。いや…夢見がちな若者が自分の本当の適性をわかるまでの麻酔のような言葉として発した言葉だったではないか。古代は土門に夢を見させながら、本当の自分に気づいて欲しかった。 土門は、艦を降りると云った。 古代は、じっとその言葉を受け止めて、やがて、「許可する」と云った。 「これから…どうするつもりだ」 古代はやっと微笑して土門に訊いた。 「ヤマトで学んだことを活かしたいと思ってます」 土門は、目を輝かせていった。 「小さな店を持ちたいんです。そこで、じゃがいもをむいて…ご飯をたいて…」 土門の夢は広がっていく。 古代は病室を出た。 雪が心配げに立っていた。 古代は、微笑して、うなづいてみせた。 森雪もそれに応えるように微笑した。 「平田のレモンティー、土門の握り飯…ヤマトの名物がまたひとつなくなるな。あいつの握り飯はこれから有料になる」 古代は、冗談めかして雪に愚痴ってみせた。 「あとは君のコーヒーだけか」 古代は、わざとしかめ面をした。 「いつまでも入れてあげるわよ。タダでね」 雪は古代をこづきながら、いたづらっぽく笑った。 今、命が歩き始めた。 |
|||
ちと急ぎ足でしたが^^; >>> 長田亀吉 -- 03/04/13-21:24..No.[52] | |||
完結させました。 なんだか歯の奥になんか挟まったみたいで自分でも早く何とかしたかったんで。よく考えれば、今でも「再生医療」というのが研究盛んでして、将来的には、機械の体になるなんてことはなくなるかもしれません。歯医者にいっても、生の歯を入れてもらえたりして^^;だから、全身サイボーグというのも設定としてはイマイチかも。とにかく、土門を生き返らせる、それだけのために書きました(笑) | |||