Yamato Only Novel Deck(ver3.0)


『掌の上で』

 >>>ぺきんぱ   -- 03/02/19-01:09..No.[49]  
    ばさ、と音を立てて、目の前にある書類の山がまた一段と高くなった。

「生活班の定期ミーティング報告書、ここに置きますよ、艦長」

艦長、と呼ばれた古代が、恨めしそうな視線を書類を置いた人物に向ける。

「だいぶ溜まっているわね。手伝ってあげましょうか?」
森雪からの助け船、大喜びで乗り込もうとする自分を必死で押さえつけ、古代はかろうじてそれを断った。

「・・いらない」 
「そう意地を張ると、後でつらいわよ」
「いらないと言ったら、いらない」

そう言い張る古代の声は、ほとんど うなり声だった。

まるで駄々っ子だわ・・。 と、あきれながら、森雪は文句のつけようもない、教科書通りの敬礼をする。
そして彼女は、そそくさと艦長室を出ていき、一人、残された古代は、艦長室のデスクに積まれた書類の前で、大きくため息を吐いた。

工作班からの艦内備品の交換承諾請求書。通信部門からは定時交信記録の事務連絡文書。航海斑からは機関部員とのトラブル、その事件経過報告書。
・・・エトセトラ・etc。

ああ、くそっ!  古代は頭をかきむしると、自分に気合いを入れるため、いきなり艦長室で腕立て伏せを始めた。 
が、もちろんそんな事をしても、体力を消耗するだけで書類の山が低くなるわけではない。

なにやってんだ、俺は・・。

馬鹿馬鹿しい、と腕立て伏せを止め、古代は誰も見てない気楽さで、ごろんと艦長室の床に大の字になった。

『あの人の言った通りだな』 
天井を見上げた古代の胸に、懐かしい人の記憶がよぎる。

まだ自分が艦長代理の頃、
あの人が死ぬなどと、想像すらしなかった時の記憶だ。

彼は車椅子に座り、今と同じように艦長室のデスクに溜まった報告書の山を指差しながらこう言っている。
『見てくれ。また大艦隊の襲来だ』 
沖田は白髭に覆われた顔に、なんとも穏やかな表情を浮かべ、それでいて少しだけうんざり、という口調で視線の向きを変えると、古代の立っているのとベッドを挟んで反対側にいる、もう一人に語りかけていた。

『なあ、森君。もし自分が死ぬとしたらガミラスや病気のせいじゃないぞ。』
『あら、艦長。じゃあ、何のせいなんですの?』

森雪は沖田のベッドを整えながら、その冗談めかしたもの言いにクスクス笑っていた。

『決まってる、報告書の束だ。あいつらは本当に手強いぞ』

よほど体調が良いのだろう、沖田は普段より饒舌(じょうぜつ)だった。それがなんとなく嬉しくて、古代も積極的に会話に加わった。

『へぇ、艦長。本当ですか?ガミラスより手強いんですかね?』
『もちろんだ。なんせあいつら報告書を、波動砲一発で全部片づける、なんて訳にはいかんからな』
『なるほど、そいつは言えてます』
『という訳だから、全力でかかれよ古代』
『はぁ?』
『今後 戦闘指揮はもちろん、書類仕事のたぐいも君に任せる』

予想もしなかった言葉に古代は慌てた。
とんでもない話だ。 何が苦手といって、この世に書類仕事ほど嫌いなものはない。

『ええぇ、そんな、聞いてませんよ!艦長!』
『ふふん。古代よ、なんでワシが艦長代理をお前に頼んだと思う?』

沖田はまた書類の山を指差した。
『あいつらを、お前に押しつけるためだ』

古代の口がへの字に曲がる。
とたんに森雪の笑い声が弾けた。 目にうっすらと、涙を浮かべながら、自分の顔を指差して笑っている。
よほど自分は情けない顔つきをしたに違いない。

『艦長。生活班長 森雪、お願いがあります』
笑いが一段落した後、真面目くさった口調とは裏腹に、彼女は笑みを依然、その顔に残したまま沖田に敬礼をした。

『言ってみたまえ、森生活班長』
『艦長代理はあの“報告書艦隊”に相当苦戦しそうです。“戦死”されては大変ですので、私が援軍に行ってもよろしいでしょうか?』
『うむ。よく気が付いた。許可しよう』

沖田も真面目くさって敬礼を返す、と、お互いぷっと吹き出し、声を上げて笑い出した。

 ・・あっ、オレ 、からかわれている。 と、古代はここで気づいた。

どうやらこの筋書き、彼女と沖田艦長とで打ち合わせ済みらしい。
あの二人は、急に書類仕事を押しつけられた時の反応を楽しむため、自分を会話に引き込み、森雪が補佐する、という情報を“後出し”にしたに違いない。

そう思うと、古代の口がますますへの字にひん曲がる。

その顔を見て、森雪と沖田がまた笑った。
二人とも身をよじりながら声を上げて笑っている。 だが、笑われているはずなのに、古代は少しも嫌な気分がしなかった。 
彼女と艦長があんなに楽しそうに笑っている。 その笑顔が自分の心を暖めていた。
 
・・ふむ、たまにはピエロになるのも悪くないな。

『よろしくね、古代君』 

・・そうだな 彼女が一緒なら、書類仕事も悪くない。

差し出された森雪の手を握りながら、古代は思わず顔をほころばせていた。




それ以来、古代は書類仕事をもっぱら彼女に頼って処理してきた。
そう、この“第二の地球探し”の航海までは。
いや、正確に言えば、一週間前に島大介から忠告をされるまでは。
その日、古代と島はカフェテリアで向かい合っていた。

『なあ、古代。そろそろ、書類決裁ぐらい自分でやったらどうだ?』
『どうして?』 『どうしてって、お前・・』

あのなぁ、と島はあきれて首を振った。
『戦闘航海ならいざしらず、探査みたいな通常航海の場合、艦を運航させるのはもっぱら書類なんだよ。なんせ宇宙戦艦なんてのは税金で飛んでるようなもんだからな。ネジ一本、調達するのだって、請求書類が通らなければどうにもならない。つまり、書類決裁を任された奴が、この艦の事実上 最高権力者ってわけだ』

『だから?』

・・こいつ、わざと トボけてるのか?  それともただの天然のボケなのか?

『いい加減にしろよ古代。 いいか、昨日の事だ。 うちの航海斑に木下という奴がいるんだが、俺が定時報告書を艦長の所へ持っていけと命令したら、あいつ、 たまたま通りかかった森君に報告書を渡したんだぞ』

『いいじゃないか。どうせ雪に見てもらうんだから』
『だーからッ! それがまずいって言ってんだろ!』

ドンと島がテーブルを叩く。
何事か、と周りの乗組員が振り返る。島は周りの注目を浴びてる事に気づくと、急に声を落とした。

『お前、森君が今、この艦でなんて呼ばれているか、知ってるか?』
『いや、知らない』
『“影の艦長”だ。 それだけじゃないぞ。“裏番長”に、宇宙戦艦ヤマトの“ゴッド・ファーザー”とまで呼ばれている』
『そいつは変だよ、島。 雪は女だから“ゴッド・マザー”の方が正しいんじゃないかなぁ?』

う〜ん、と島は頭を抱えてしまった。 

・・この航海、はたして大丈夫なんだろうか?

『ようし! 言いたくはなかったが、言ってやる。 お前、自分自身、乗組員たちになんて呼ばれてるか知ってるか? 
“案山子”だよ、カカシっ! 
つまり、お前は飾りモンで実権は森君が握ってると思われてるんだよ!』


『へえ、なるほど、俺がカカシで雪が・・・・って、なんだとぉぉぉーーーッ!!!』


古代が、書類仕事を森雪に頼むのは止めよう、と決心したのはこの瞬間だった。




そして現在、彼は決裁書類の大群を相手に孤軍奮闘しているわけだが・・・相変わらず戦況は芳しくなかった。おまけに弱り目に たたり目。とうとう睡魔までもが襲いかかってきた。

『イカァーんッ!眠るんじゃない。まだ半分も書類に目を通してないんだ・・寝るんじゃない!眠ったら死ぬぞッ、古代!』

・・・おいおい。 
雪山じゃないんだから、死にはしないよ、古代君。\(^▽^;)

結局、奮闘むなしく、睡魔に負けた古代はそのまま艦長デスクに突っ伏して心地よい眠りに引き込まれていったが、その直前、書類の山を見ながら、心に思い浮かんだのは・・。

『ああ、ここに“靴屋の妖精”がいてくれたらなぁ・・。』
と最後まで、思いっきり他力本願な彼なのでした。



ピピピ、と電子音が艦長室に響く。
ハッと目を覚ますと、古代は慌ててインターフォンのスイッチを入れた。

「艦長、太田です。10分後、探査目標恒星系への最終ワープを行います。第一艦橋へおいで下さい」 

・・しまった、もうそんな時間か。
古代は急いで腕時計をのぞき込む。 あれからもう3時間以上が経っていた。

すぐ行く、と返事をして、椅子から立ち上がった時、何かが自分の肩から滑り、背後にバサッと落ちた。 振り返って見ると、そこにあったのは毛布だった。

「・・・?!」

今度は、デスクの上を見ると・・予想通り、書類の山はきれいさっぱり無くなっていた。

やられた・・・。 

心の中でうめくと古代は第一艦橋へと降りる。


「艦長、探査目標の惑星環境データーです」

降りるなり、“靴屋の妖精”が自分の目の前に観測データーを差し出した。
それを受け取りながら、古代は小声でささやいた。

「ありがとう。 書類の件、すまなかった」
「あら、なんのことでしょうか? 古代艦長」

そうささやき返し、彼女は古代にウインクをする。
そして彼女は、─恐らくわざとだろう─、他の乗組員に聞こえるよう声を張り上げた。

「さあ艦長、ご指示をお願いします」

森雪は古代に向かって微笑んだ。
全てを許し、何かも理解しているといわんばかりの、自分を吸い込み、丸ごと包み込んでしまう、柔らかで聖母のような微笑み。

そう、この微笑みが問題だ。

案外、俺が彼女との結婚に踏み切れないのは、これが原因なのかもしれない。

古代は一瞬だけ、ふっと苦笑いを浮かべた。

俺が孫悟空で、彼女がお釈迦様か・・。


「・・そうだな。 よし、行こう!」

何とも言えず幸福ではあるが、ほんのちょっぴり憂鬱で、悔しいけれど、まあ、これも良いのかなという、かすかに諦めが混じった複雑な気持ち。

「総員、配置につけ! 全艦ワープ準備!」

古代は自分の感情に少しだけ戸惑いながら、
それを吹っ切るかのように、いつもより大きな声で命令を出していた。




まあ、たまには・・

>>> ぺきんぱ   -- 03/02/19-01:26..No.[50]
 
    こんなのも、よろしいかと・・。(汗)
う〜ん、マジなのかシャレなのか?
文章的にはちょっと中途半端だったかなぁ。


 
ヤマト=西遊記は王道ですよね

>>> マカロン   -- 03/07/01-23:24..No.[61]
 
    通りすがりで失礼します。
ヤマトVが初代に次いで好きなので、こういう話が読めて嬉しいです。
Vの雰囲気がよくでてますね。というか、とてもありそう。
 
Thanks!マカロンさん。

>>> ぺきんぱ   -- 03/07/05-09:48..No.[63]
 
    >通りすがりで失礼します。

いえいえ、とんでもない!
通りすがり、だろうが、行きずりだろうが
読んでもらって、感想までいただけるなら何でも良いです。(^^)
ありがとうございます。

>Vの雰囲気がよくでてますね。というか、とてもありそう。

ちなみに、この話のコンセプトは・・
『雪の尻にしかれる古代進』です。(; ̄〜 ̄)/
う〜ん。Vの雰囲気、云々は自信無いですけど、まあ、確かにありがちです。(逆は想像しずらいもんねぇ。)
 


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