Yamato Only Novel Deck(ver3.0)


『ガミラス出世物語』

 >>>Alice   -- 03/01/25-23:17..No.[42]  
    あたしが帝都に出てきたのは、16の時でした。生まれ故郷は南極に近い山間部で、いわゆる田舎というか、僻地でしてね。義務教育を終えて地元で就職したって、実入りのいい仕事があるわけじゃなし、先が見えてました。親父は金持ちでもない、地元の名士でもない、真面目が取柄のサラリーマンです。

その息子のあたしが一花咲かせるには、帝都にでて軍人にでもなるしか、道がありません。あたしが、軍の訓練学校に入るって言った日にゃ、お袋は涙を流して喜びましてね。「立派な軍人になって、故郷に錦を飾っておくれ」と、旗振って送り出してくれましたよ。

帝都に行くのは生まれて初めてで、そりゃあ驚きました。でっかい天井都市にたくさんの人。インフラもきちんと整備されていて、あたしの田舎とは比べ物にもなりません。訓練校で机を並べたクラスメートは、みんなおしゃれなシティボーイで、あたしは圧倒されちまいました。トップチャートの歌も流行のファッションも最先端のプレイスポットも、何も知らないんですからね。

それに都会の女の子は、なんというか、垢抜けていて奇麗でして、故郷に残してきた素朴で純情な幼なじみの彼女には、「必ず帰るから(中略)きっとその日も迎えておくれ」…なんて言い残してはきたものの、刺激的な都会で毎日愉快に暮すうちに、「ボクは〜、ボクは帰れない」なんてなるのも、まあごく自然なことだったわけです。とりあえず、木綿のハンカチーフだけは送っておきましたけどね。

でも、都会の女の子に目を奪われて遊びほうけていたんじゃありませんよ。故郷の期待を背負って出てきたわけですから、一日もはやく一人前になるために、しっかり訓練に励みました。

訓練校で最初にマスターしなければならなかったのは、「デスラー総統、ばんざ〜い!」の正しい唱和の仕方でした。ただ声を張り上げればいいのではなく、正しい呼吸法とリズムと発声法と発音があります。おまけに風格と気品を兼ね備えた万歳でなければピッされてしまいますからね。一回の試験でパスするのはほんの一握りの秀才だけで、あたしなんかは完璧な万歳を会得するまで、何度も追試を繰り返したものです。でも、どんなに辛い練習でも、あたしは泣き言を言ったりはしません。いつの日か、総統のお側で働く日を夢見て、がんばったんです。

努力の甲斐あってか、卒業する頃にはなんとかあたしも通り一遍のことはできるようになりまして、最初の配属先は、なんと栄えあるデスラー艦艦橋でした。デスラー総統のお膝元ですからね、大抜擢ですよ。

その頃、総統はガミラスの星としての寿命が長くない事を察し、新しい移住先を遥かかなたの地球に定めておられました。ガミラスの人民が移住できるようにと、遊星爆弾を打ち込んで地球の環境をガミラス型に改造している最中だったんです。

そういえば、故郷の親父が、最近やけに地震が多いと心配してましたし、じいちゃんも酸性雨の影響で牛の乳の出が悪いとぼやいてました。新しい星に移住するということになれば、当然、デスラー総統の覚えめでたい者の親戚縁者は優遇されるはず。あたしはますます張り切って、お勤めに精を出しました。

デスラー総統ですか?そりゃあ、偉大なお方ですよ。この大ガミラスの繁栄はすべて総統のお力のお陰です。崇高な理念を掲げ、いつも堂々としておられる。総統のお側に居ると、宇宙の果てまでもついて参ります!…って気持ちについなっちゃうんですよ、不思議なんですけど。これが人徳、いやカリスマ性ってやつですかねぇ。総統の命令は絶対です。宇宙広しといえど、総統のご意思に逆らえる者はいません。

ところがですね、移住先に選んだ地球から、ヤマトとかいう戦艦がやって来ました。放っておいてもそのうち自沈するだろうと、最初は誰も気にも留めていなかったんですが、だんだんとガミラスに近づいてきましてね。シュルツ司令の自滅にドメル将軍のまさかの敗退、果てはガミラス本土決戦。ニヒルに笑っておられたデスラー総統の顔つきも日を追うに従って険しくなりまして、さすがにあたしもこりゃやばいんでないかい?と思いました。

窮鼠猫を噛む…って言うんですか?ガミラスに乗り込んできたヤマトは、図々しくも人様の星で苦し紛れにあれこれ撃ちまくり、挙句の果てに地下の火山脈に波動砲とやらをぶちかましました。おかげでガミラス本星は、ボロボロですよ。まさに、『そこに都市はなかった。ただ廃墟があるだけであった。破壊の限りを尽くされた地上には、音もなく、動く物もなかった。宇宙の1つの星が今死んだのだ。』…状態です。まったくとんでもない事をしでかしてくれたもんです、地球人は。

総統府も爆撃を受けたので、総統はデスラー艦で避難されました。崩れ落ちる総統府で高笑いされていましたが、逃げ足は素早かったんですよ。その後、帰路についたヤマトの後を密かに追いました。誇り高きデスラー総統が、このままおめおめと引き下がるわけにはいきませんからね。

その時の操縦担当がこのあたしでして、発進した時は、さすがにまだ生きているかもしれない家族のことが気にかかりましたが、男には行かねばならない時ってものがあります。止めてくれるな、おっ母さん…てやつですよ。

母星を滅茶苦茶にした憎きヤマトを葬り去ること、乗組員一同そのことだけを考えてました。敵のレーダーに引っかからないよう慎重に航行して、ついに地球を目前にしたヤマトを捉えたんですが、すんでの所でワープされちまいました。

デスラー総統は、状況がよく飲み込めないご様子でした。
「どうした?」
「はっ。一瞬の差でヤマトはワープしたものと思われます。」
このご報告をしたのが、実はあたしなんです。いや〜、全国ネットに映っちゃうなんて、思いもしませんでしたよ。お恥ずかしい。でも、白目が渋くて、なかなかニヒルでしょう?
(お袋、見てる〜?)

「追え!こっちもワープするのだ!」
「しかし、ヤマトの航路を探知するには時間が…」
ワープっていうやつは、一つ間違えば宇宙が吹っ飛んでしまうくらい危険なものなんですよ。航路計算もしないなんて、無茶です。だけど、デスラー総統はいきなりムチであたしを殴りつけました。
「ええい、ワープが先だ!」
い、痛いですぅ…(涙)。一体そんなもの、どこに持ってたんですか、総統!

案の定、ワープアウトしたあたし達は、ヤマトのどてっぱらに突っ込んでしまいました。
「どうしたんだ、これは?」
どうしたんだ…じゃ、ありませんよ。だから言わんこっちゃない。あたしは状況をてきぱきと報告しました。
「ワープの終わる空間が、偶然一致してしまったんです。ヤマトの横っ腹へ、突っ込んでしまいました。
ですから我々はヤマトの航路探知をしてから、ワープをすべきだったんです。それを…」

あたしはつい熱くなってしまいましたが、総統は落ち着いておられました。
「何をわめいているのかね。
そんな暇があったら、ヤマトへ切り込む準備をしたまえ。
ヤマトへ乗り移って、白兵戦を挑むのだ。放射能ガスを送り込んで、我々も突入するのだ。」
総統は不適に微笑んでおられる。窮地をチャンスに変えていく…、嗚呼、やっぱり総統、あなた様は偉大です。

それから放射能ガスをヤマトに送り込んで、白兵戦です。機関室から進入して、上部を目指しましたが、その途中でヤマトの艦長代理とやらに遭遇しました。これが意外にも、まだ青さの抜け切らない若造ちゃんでしてね。『我々のしなければならなかったのは、戦う事じゃない。愛し合うことだった。』とか言ったその舌の根も乾かないうちに、何の躊躇もなく向かってきましたよ。だけど、あたしと同じような年頃でもう艦長代理とは、けっこうデキル奴なのかもしれません、ヤマトの坊やとやらは。

その坊やに放ったデスラー総統のお言葉は、もうそれはかっこよくって、しびれちゃいました。
「私がガミラスの総統、デスラーだ。死んだと思っていたかね?
ガミラスは死なんよ、このデスラーもな。
我が大ガミラスとよく戦ってきたな。お若い艦長さん、褒めておいてやろう。しかし、勝負はこれからだ。」
…ですって。これは後世までも残る大名言でしょう。あたしが女の子なら、黄色い声で『ステキー!』とか叫んじゃいますね。

白兵戦も初めは優勢だったんですが、途中でガスが消えちまいました。地球型の空気では、ガミラス人は思うように動けません。それで、一旦艦を離して、切り札のデスラー砲でカタをつけることにしました。こいつは強力なビーム砲で、一発くらったらどんな艦でもひとたまりもありません。ヤマトも宇宙の塵と消えるはずでした。はるばるイスカンダルまでの往復、ご苦労さんってなもんですよ。

それなのに、ヤマトはビームが命中する寸前おかしな膜を張りましてね、あろうことか、強力なエネルギーがそのまま跳ね返ってきたんです。ひとたまりもなかったのはこっちの方で、「デスラー総統、ばんざ〜い」に続いて「かんぱ〜い」のつもりが、あえなく木っ端微塵ですわ。あたしは咄嗟に体を張って総統をお守りしようと、タラン将軍と同時に総統に駆け寄りました。それで、3人まとめて吹き飛ばされたわけで。

暗い宇宙空間に放り出され、もう体の自由も利きません。これで終わりか…と思うと、すげなくしちまった幼なじみのあの子の顔が浮かんできたりしてね。高望みなんかしないで、地元で就職して、あの子と所帯を持って、地道に暮らしていればよかった…なんて、今更思っても手遅れってもんですけど。

だんだん意識が遠のいていく時、カブトガニみたいな形の小型艦がす〜っと近寄ってきまして、乗員がぐったりしたデスラー総統とタラン将軍を救助していきました。地獄で仏とは、まさにこのことです。総統がご無事で本当によかった。

でもって、あたしは?あっ、小型艦が発進していく。そ、そんなぁ〜、ヒラの兵士だからって、それはないでしょー!?あたしも助けて下さいよ…。

ちょっと、お願いしますよ、総統〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!


(つづく…かも)






こ、これは・・、面白すぎ!!

>>> ぺきんぱ   -- 03/01/25-23:34..No.[43]
 
    これいい! いいっスヨッ!!
久々に腹がよじれるほど笑わせてもらいました。
そうですか、あの白目の兵隊さんが主人公ですか(笑)。
意表をつきますねぇ、さ〜すが。
一人称の文体も決まってます。ぜひ続編を希望〜ッ!
 
凄く

>>> ゴーシ   -- 03/01/26-00:47..No.[44]
 
    面白いです。マジで。
長田艦長の藪のお話にも似た味がありますね。続編希望!
 


▼返信用フォームです▼

Name
URL
Title       
Message
Forecolor
Password     修正・削除に使用(4〜8文字)




■修正・削除: 記事Noと投稿時に入力したパスワードを入力し
edit(修正)又はdelete(削除)を選びupdateボタンを押下

No. Pass
あっぷっぷ Ver0.595 Created by Tacky's Room