いい、いいと周りが云っている映画は実際観てみるとそれほどでもないことが多い。
この映画はそういう意味では例外にあたる。
予告編は、お約束をちりばめたお涙頂戴物語の予感をぷんぷんさせている。
しかし、実際の本編は、大いに淡々としている。そこが気に入った。
主演・マッド・ディモンが、絶望的な状況下でも希望を捨てずに淡々とやるべきことをやるという主人公をしっかり演じている。
NASAの地球側の人間模様も面白い。冷徹な論理の中で動く組織ではあるが根底には宇宙への憧れという夢がある。
宇宙とは厳しい自然の究極のもので、主人公の言葉を借りれば人間に好意的なわけではない。
挑戦していくには、人間の側にもやりあっていく根性が要求される。
マッド・ディモン演じる主人公は親しみやすさもあって、偉大とか偉人とか、そういう感じは抱かさせない。
しかし、かつて、地球上で、さまざまな「はじめて」に向き合った人たちもまた、必要に迫られて努力して、やり抜いただけなのかもしれない。
そんなことを思うと、自分も火星はともかく自分の置かれている「戦場」で生き残れるのではないかと希望が生まれる。
火星での生存は素人には難しい。難しいというより不可能だろう。
主人公が凡人と違うのは、最初から、自分の腹部のオペを自分でやるところから実は始まっている。
さらに、植物学者であるから、ジャガイモが栽培できた。
科学の知識があり、実験もしていたから水を合成することもできた。
どれをとっても、絶対自分にはできないことばかりである。
そして、何より孤独に耐えたこと。
途中からNASAとの意思疎通が可能となるが、それでも、気が遠くなるほど不安な状況の夜をいくつも越えねばならない。
僕は、好きな人も嫌いな人も周りにいて、「一人になりたい」「一人にしてくれ」と思うことが多いが、何日も何年も一人でいることがキツイことは容易に想像できる。
この点に理解が示せるから主人公に共感しやすいのだろう。
劇中を彩る音楽が多彩だったことも触れておきたい。
80年代に青春を送った私としては、ほぼ全曲、ラジオでいつも聞いてた曲だ。
これら音楽が、映画全体をメリハリのあるものにし、孤独な主人公の気分を、NASAの気分を代弁し、映画の「華」となっている。
ラストは、見る前から分かっている。主人公が帰還できないわけがない。史実ならともかくフィクションの映画なのだから。
どうやってそこにもっていくのか、そこまでどうやってつないでみせるのか、ということを見事にやってのけた映画。