最終話『加藤の誤解(改)』 |
艦内標準時 地球標準時 A・D 2200年。 A・D 2200年。 3月13日 21時45分。 3月17日 18時09分。 ヤマト艦内 医務室。 ICU(集中治療室)にて。 「な、なんじゃこりゃーッ!! 先生! 髪が、俺の髪がーッ!!」 なんじゃ、やかましいと、個室から出てきた佐渡が喜んだ。 「おおッ、加藤! 気がついたか!」 「そんなことより、先生! 髪が、俺の頭の毛がッ!!」 加藤の指さす先、頭には在るべきはずの髪の毛がまったく無い。 それどころか眉毛やマツ毛すら無かった。 そのツルツルの顔は、まるでゆで卵だ。 「ああ、そのことか。 頭だけじゃないぞ。お前さんの体毛は全部抜けとるよ。」 佐渡がナンだその事か、といった感じでシレッと言い、確かめて見ろと手鏡を差し出した。 「なんてこった。 ハ、鼻毛まで・・・、て、ことは・・・。」 加藤は恐る恐る、トランクスの奥をのぞき込んだ。 「アアアーッ!!! 本当だッ! 下の毛までェーッ!!!」 「やかましいッ!! ここは病室だぞ。 少しは静かにしろ! 心配センでも命に別状は無い!!」 落ち着け、馬鹿者。と佐渡は一喝すると、検査器具を用意しながら説明を始めた。 「いいか、言うておくがワシのせいじゃないぞ。 こいつは相原君がお前に浴びせたタキオン粒子の副作用じゃ。 (筆者註 第二話を参照のこと。) 体表の全ての毛根細胞が弱っておる。 毛が抜け落ちたのはそのせいじゃな。」 「ヘッ? 相原が?? 何でそんなことを??? いやッ、そんなことはどうでもいいッ!!」 加藤はヒッシと佐渡の白衣を掴んで放さない。 「先生! 僕はこれから一生このままなんですか?」 「心配せんでもいい。 毛根細胞は弱っているだけで、死んではおらんからな。 三週間も経てばまた生えてくる。」 だから手を放せ、と佐渡はうるさげに加藤の手を振り解こうとした。 「そんな・・・三週間もこのままなんて・・・冗談じゃない!!」 なんとかして下さい、と加藤が必死になってすがりつく。 佐渡はそんな加藤を見下ろすと、ニッと笑って突き放した。 「知っとるか? 加藤。 23世紀の今でも‘毛生え薬’の発明は、ノーベル賞の対象なんじゃよ。」 マッ、あきらめるんじゃな、と佐渡は肩をすくめて見せた。 そんな、そんなァと嘆いていた加藤の肩が、急に震えだした。 「先生、もう一度聞きますよッ! これは相原がやった事が原因なんですね!!」 加藤の両の眼の中で、炎がメラメラと燃えさかる。 ヤバイぞ、こりゃあ・・・。 そう感じながらも佐渡は、つい加藤の気迫に押され、答えてしまった。 「ア、ああ、そうじゃよ。彼も悪気があってやった事じゃないだろうが、タキオン粒子を浴びせたのは確かに相原君じゃよ。 でもそれは真田君の命令で・・・。」 だが頭に血が上った加藤は、佐渡の言葉を最後まで聞かずにベッドを飛びだした。 「くッそぉーッ!! あのマザコン野郎。 どこに居るッ! こんど会ったらただじゃおかんぞッ!!」 だがその‘こんど’がもう来るとは・・・。 「あのー、佐渡先生はいますか? まだちょっと頭痛が・・・うわッ!!」 幸か不幸か(いやもちろん相原には不幸なのだが・・。)相原は医務室に入った途端、加藤と出くわしてしまった。 「ド、どうしたんですか? 加藤さん、その頭は・・・・。うふ、ウフフ。」 アッ、スイマセン。と相原はあわてて謝るが、抑えようとすればするほど笑いが止まらない。 「ウプッ、プププ、いったい・・プププ、何が・・ウフフ、あったんですか?・・ククククク。」 「ホーッ。 相原君、そんなに笑えるかい? この頭は。」 加藤が、いや、まいったなァと相原に笑いかける。 あくまでも、にこやかに・・・。 その笑顔を見て、佐渡はいやぁ〜な予感がした。 「いっ、いや、ククク、そんなことは・・。ワハハハハッ。もうガマンできないッ! フハッ、ウワッハハハハハハハ・・・・。」 とうとうガマンが出来ず、腹が痛ぇー、と笑い転げる相原を見つめる加藤の目が、キラリンと光った。 「そうか、そうか。 相原君。 いやぁ〜喜んでもらえて僕も嬉しいよ。」 と、言い終えるが早いか。 加藤は相原の背後に回り込み、アッという間に彼を縛り上げた。 「チョ、ちょっと待って下さい、なにするんですか?! 笑ったのは謝りますよッ! えっ、なに? なんで? 加藤さん、なんでバリカンなんか持っているんですか?!」 「やかましいッ! てめえ、宇宙で迷子になりかけた時、探しに来てやった恩も忘れやがって。 ・・・よくもやってくれたな。 お前も俺と同じ頭にしてやるから覚悟しやがれッ!! 「・・・???? な、なんで?」 「アッ、この野郎! とぼけるつもりか? もう勘弁できん!!」 加藤はブチ切れると、即座にバリカンのスイッチを入れる。 二個も。 そして二丁拳銃よろしく、バリカンを頭上に振りかざすと相原に飛びかかった。 「オマエなんか、お前なんかッ、コウしてくれるワァーッ!!!」 「ワーッ! チョッと、ちょっと待って! 先生ッ、佐渡先生! たすけてぇーッ!!」 「こっ、こら! 静かにせい! ここは病室だと言っとるじゃろがッ!」 佐渡があわてて加藤の腰にしがみつき、止めに入る。 ちょうどその時。 背後で扉の開く音がすると、そこに人影がひとつ・・・。 「先生ッ!!」 「おおッ、古代か! いいところに来た。 艦長代理の命令でこいつらを大人しくさせ・・・????」 「せんせぇ〜〜〜〜ッ!!!」 「うわっ! ななななな、なんだ、なんだ? なんじゃぁ?」 古代、いきなり佐渡の腰にしがみつく。 加藤が逃げようとする相原の腰にしがみつき、その加藤の腰に佐渡がしがみつき、今また古代が佐渡の腰に・・・。 ・・・こりゃ、ほとんど運動会のムカデ競争状態だ。 「せんせぇ〜〜、僕にねっ、・・クロレラがね、・・イヤだって言うのにね、雪がね、イジメるんですよぉ。 なんとかして下さい、せんせぇ〜ッ!!」 なに? なに? いったい何を言っとるんじゃ、こいつはッ!! 「古代・・・まったく、お前という奴は・・・使えん男じゃな! なに涙目でワケの分からん事を言うとるんだ! コラッ、しがみつくな! これ以上、事態をややこしくするんじゃない!」 エエイッもう。まったくもう! やむを得ん。 こうなったら最後の切り札だ・・・。 「オイッ、真田君! なんとかしてくれ!」 佐渡の個室からゴソゴソ物音がすると、真田がひょっこり顔を出す。 ・・・顔が真っ赤だ。 しまったぁーッ!! 飲ませすぎたかァーッ!! 「ウルサイナー。 せんせぇ〜、どうしたんですかァ〜。 まだ話は終わってないレスヨ〜〜。 あの艦長がネェ〜 ウヘッ、ウヘヘヘヘヘヘヘェ。」 真田はそう言って笑うとバタンと倒れ、そのままイビキをかき始めた。 ・・・・おやすみなさい、真田技師長。 「あーッ、もうまったく、どいつもこいつもッ!!」 ギャーギャアー騒ぐ加藤と相原をなだめ、すがりついてくる古代を蹴飛ばしながら、ふと、佐渡は天井を見上げた。 「艦長。 ・・・アンタ、やっぱり当分は死ねんよ。」 シミジミそうつぶやくと佐渡は、コラッ、お前らイイ加減にせんと冷凍するゾッ、と三人の頭をポカポカ殴りつけるのだった。 これより二日後。 宇宙戦艦ヤマトは補給を完了し、M26恒星系第二惑星を後にしたのだった。 いそげヤマトよ、イスカンダルへ! 地球は君の帰りだけを待っている。 放射能汚染による人類絶滅と言われる日まで、あと二百と四日。 人類絶滅と言われる日まで、あと204日!! 【 END 】 |
ぺきんぱ
2002年11月24日(日) 16時38分40秒 公開 ■この作品の著作権はぺきんぱさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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いんやー面白かったです!文章もかなり練りこんでますね!!加藤や相原のヘアスタイル見てみたい。真田さんの壊れぶりもあっぱれですね。沖田艦長の居た時代は、他のキャラが未熟さを認められた時代でいとおしいです。元々は僕のミスがきっかけでお手間をかけさせてしまいましたが、本当に良作をありがとうございました!! | 長田亀吉 | ■2002年11月24日(日) 22時24分27秒 |
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