第十一話 『真田の分析』(前編) |
艦内標準時 地球標準時 A.D.2200 A.D.2200 3月13日 20時05分。 3月17日 16時29分。 M26恒星系第二惑星到着より四日後。 ヤマト艦内大食堂、カフェテリアの一角。 真田は勤務明けの休息をとっていた。 「おお、技師長。ご苦労さん。作業の進み具合はどうかね?」 声を掛けられた真田は目を通していた書類から顔を上げた。 徳川の隣に佐渡医師もいる。 彼らに席を勧めながら真田は、カップに残っていたコーヒーをグイッと飲み干した。 「ええ。艦の修復は、ほぼ終わりました。これから本腰を入れて予備資材の積み込みを始めます。」 順調そうな作業の進み具合に佐渡も徳川も顔をほころばせた。 「それにしても、ガミラスの連中はなんでやって来ないんじゃろうね?」 「私もそれを考えていました。」 徳川の問いに、真田がコーヒーカップと書類の束を脇に除け身を乗り出した。 「もしかしたら、ガミラスにはもう戦力が残ってないのかもしれません。」 「そりゃあ・・・、少し楽観的に過ぎるのじゃないかね?」 「確かに。 でもあのドメルと名乗ったガミラス人。彼は優秀な指揮官でした。 その彼が最後に自爆という手段を取った。 ここが引っかかるのです。 もし、後詰めの戦力があれば彼は撤退して態勢を立て直し、再び挑んできたはずです。」 真田の言葉に佐渡、徳川は黙って考え込んでしまった。 「まあ、これはあくまで推測に過ぎません。とにかく情報が不足していますから・・・ それよりも、この星の防衛システムについてかなりの事が分かってきましたよ。」 今度は佐渡と徳川の方が身を乗り出してきた。 表情が早く先を話せとせがんでいる。 「何から話しましょうか・・・、とにかくあれがガミラス人の造った物じゃないことははっきりしています。 建築デザイン、構成物の金属組成、システムの設計思想・・・何から何まで違いすぎます。 それよりも驚いたのはコイツを見つけた時です。 断層の地質調査の時に偶然、発見されたものですが・・・これを見て下さい。」 真田は書類の束の中からメモリーカードを見つけ出すと、テーブル備え付けの情報端末機に差し込んだ。 画面に建築物らしい三次元CG映像が映し出される。 「地中から強い金属反応が出たので、その地点を地下探査レーダーで探ってみました。 その際のエコー(反響)を基にして作ったのがこの映像です。 地面の下には建物が埋まっていました。 いや、建物というより‘遺跡’と呼んだほうが適当でしょう。 なにせこいつが埋まっている地層は約八万年前のものでしたから。」 真田の言葉に佐渡がフーン、と感想をもらす。 「しかしこりゃ、どっかで見たことがあるような形じゃな。」 真田は佐渡の言葉に大きくうなずいた。 「いい所に気づいてくれました。 この【遺跡】は堆積した土砂の圧力により構造が少し歪んでいます。 地上に在った時の自然侵食により損傷した部分もあるでしょう。 あくまでも推測ですが現状で手に入るデーターを基にして造ってみたのがこの復元図です。」 真田が情報端末機のキーをポンと押すと、徳川たちの目の前に新たな建造物が現れる。 しかし、これは・・・。 「どうです、これが【遺跡】の復元図です。見ての通り、姿形は我々が破壊した【M・N】そっくりです。」 そう言うと真田は情報端末機を操作して、三次元映像をゆっくりと回転させてみせた。 「もう一度繰り返します。 こいつが埋まっているのは、おおよそ八万年前の地層です。 年代測定に関しては地質学のプロがいればもっと正確な分析が出来るのですが・・・。 それでも誤差の範囲は最大でも一万年程度、といったところでしょう。 この【遺跡】、おそらくは老朽化したか、地震により回復不能なほど大規模な損傷を受けたことにより放棄されたもの、と推測されます。」 「このシステムはそんな昔から存在したのかね! しかも無人で?」 徳川が驚きの声をあげた。 真田は大きくうなずいた。 「間違いありません。 ・・・ある意味、無人だからこそ存在し得たのかもしれませんがね。 それにもっと昔から存在した、とも考えられます。 詳しく調査をすれば、より古い地層から同様の遺跡が見つかる、という可能性だって有りますよ。」 徳川がとても信じられん、とでもいうように首を振る。それを見て真田は言葉を続けた。 「それと【M・N】を破壊した直後から【M・S】に以前と違った反応が見られます。 なんらかの生産活動を行っているようなのですが・・・。 私は再建用の修復資材と作業ロボットを作っているのだとにらんでいます。 このシステムは自力で復活しようとしているのですよ。 理論的にはこういった完全自律の自己学習、改良型無人システムは、今の地球の技術でも充分可能なものです。 現にこれより原始的で小規模なものでしたが、50年前に人類がガリレオ衛星に送った無人工場群はちゃんと地球に15年間、重水素や金属類を地球に送り出してきました。 自己修復や施設の改良を繰り返しながらね。 結局はガミラスに破壊されてしまいましたけど。 しかし自分が問題にしたいのはその目的です。 なぜ彼らはそこまでして、これ程の物を造らなくてはならなかったのでしょうか? 建設に必要な資源、労働力、時間はそれこそ膨大なものになったはずですよ?」 「この惑星の何かを守るため、じゃないのかね?」 佐渡が口を挟んだ。 「そうです。あれが防衛システムであることは明白です。でも何を守っているというのです? 惑星の地表を隅から隅までスキャンしましたが守るべきものなど在りませんでした。 過去にそれが存在した、という痕跡すら見当たらない。」 「目に見えない何か、ということだって考えられるのじゃないかね? 何しろ異星人が造ったものだからな。 地球人が理解できない理由があったのかもしれんじゃないか。」 でも、それを言っては、と真田は徳川の答えにやや不満そうだ。 「そうですね。 ・・・でもやはりこの星には何か在ると思いますよ。 そしてその謎を解く鍵は地面の中にあると僕は確信しています。 システムが発動したのも採掘班が地面を掘り返した時ですからね。 この星の地下には我々の想像を絶する何かがあるに違いない、そう僕は思っています。 それに異変が起こる前、送られてきたメッセージと思われるデジタル信号。 もう少しで解読できそうなんですが・・・。」 真田は、時間さえ有ればなあ、と嘆いて天井を仰いだ。 その姿を見て佐渡は意地悪そうに笑った。 「はたしてそうかな? 真実というのは案外期待はずれで単純なものだった、ということが多いからな。 分かってみたらがっかりしたかもしれんぞ。 さあ、あいつの事はもういいじゃろう? それより艦長の作戦の件はどうじゃ? なにか分かったか?」 「もちろん暇を見つけて情報を集めてみましたよ。 そして仮説ですが自分なりの結論を出しました。」 真田はワザとゆっくり二人の顔を見渡すと 聞きたいですか? と言ってみる。 「当ったり前じゃろうが。 モッタイつけずに早く話せ!」 けが人の治療もひと段落して、暇をもてあまし気味の佐渡の口がつい荒くなる。 そんな佐渡医師の気持ちを察してか、真田は、分かりました、と苦笑交じりながらも素直に答えた。 「でも、ちょっとここでは・・・、場所を変えませんか?」 真田は周りを見回し、声を少し落としながら二人にそう言った。 「えらい大袈裟な話のようじゃな。」 ― どうやら今日一日は退屈せずにすみそうだ。― なにやら秘密めかした真田の口調に、徳川は少しだけ胸が高鳴った。 (第十一話、終了。) これより 筆者注。↓ さて皆さん。 冒頭の時間表示、筆者の書き間違えではありません。 まあさっしが良い方は、ハハァンと思ってらっしゃるでしょう。 多分あなたの予想は間違っていません。 そう、これが“ウラシマ効果”というヤツです。 アインシュタインの唱えた特殊相対性理論の『光速度不変の原理』と『相対性の原理』。 これによると運動をしている(ただし、『相対性の原理』によれば本当に運動しているか分からない。)モノと、静止(ただし、特殊相対性理論では、絶対的静止という現象は在り得ないって、アアッ、もうワケ分からん!)しているモノとでは時間の進みが違う、という現象が導かれてしまうのです。(そしてその現象は実験により確認されている。) 運動している物体では光速度に近づけば近づくほど時間の流れが遅くなります。 例えば双子の兄弟の一方(双子A)が宇宙船に乗って出発し、一年たって戻ってきたとしましょう。 その宇宙船の速度を光速度の50%(宇宙船の加速と減速の問題はめんどくさいから無視!)とすると宇宙船内の時間は273日と18時間しか経っていないことになるのです。 双子Bは地球で自分より、91日と6時間若い双子Aと対面することになります。 地球時間という絶対的な標準を無視して考えれば、双子Aは未来へ時間旅行をして91日と6時間分、自分より年寄りになった双子Bと再会し、逆に双子Bは91日と6時間分過去へ飛んで、昔の自分より若い双子Aと対面した、とも言えます。 不思議でしょう? でもどうしてそんなことが起こるかは聞かないでね。 それを説明すると長くなる・・・いやミエを張るのは止めましょう。 私もまだ理解できてません。 ただ今勉強中であります。 そしてコレを遠い未来に起こる不思議な現象などと思ってはいけません。 我々の日常でも日頃から起こっている現象なのです。 例えば・・・。 う〜ん、ちょっと長くなりそうなので続きは次回にしましょう。 【補足】 相対性理論により導かれる時間の遅れを計算する公式を書きます。 T1=√1−(Vの二乗/Cの二乗)×T 宇宙戦艦ヤマトを例にとりましょう。 『T1』はヤマトの艦内時間。 『C』は光の速度(約30万km/秒。) 『V』はヤマトの速度。 『T』は地球時間を入れてください。 『C』は光速度をひとつの単位として『1』とすれば計算がやさしくなります。 さあ、あなたも電卓を叩いて計算してみましょう! けっこう簡単ですよ。 それではヤマトが光速度の60%で航行して地球時間で一年間の航海をしたとしましょう(例によって加速減速は無視!)、すると。 V=0.6ですから、0.6の二乗は0.36。 C=1ですから、1−(Vの二乗/Cの二乗)=0.64。 よって、√0.64×365(日)=292。 地球では365日経っているのに、ヤマト艦内では292日しか経っていない。73日間のずれが出来てしまいます。(ネッ、簡単でしょう?) 島航海長は航路のズレだけでなく、地球時間とのズレも考慮して航海計画を立てなくてはならないのです、大変だナァ。 |
ぺきんぱ
2002年08月24日(土) 11時05分45秒 公開 ■この作品の著作権はぺきんぱさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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