第十話 『戦士に安らかな休息を・・』(後編)



「フ〜ン。そりゃ、えらい目にあったんだな。」

島は森雪の語る、惑星での体験談に唸るしかなかった。
第一艦橋には二人の他には誰も居ない。

古代は忘れ物をした、と言って格納庫へと出て行ったし、
他の者も惑星上陸の準備のために出払っていた。

島はレーダーが未確認飛行物体をキャッチした、という事で、
念のために操縦席で待機していた。
 森雪には自室での休息が許可されていたが、なんとなく落ち着かなくて第一艦橋に来てみると、
そこに島大介がいた、というわけだ。

「それにしても分からないわ、艦長の言葉。 
‘二人には共通点がある’ですって。 
ネエ、島君。 私の古代君と似たところって・・・ある?」

次の瞬間、島はブッと息を噴き出すと、声を上げて笑い始めた。
なによ、ソレ。こっちは真剣に悩んでいるのよ、と森雪がふくれた。

「悪い、悪い。 そうだな、俺もアイツとは長い付き合いで
大抵のことは分かっているつもりなんだが、・・・やっぱり思いつかないな。」

でしょう。わからないのよね、と考え込む彼女の横顔を見つめる
島の脳裏に、ひとつの考えが浮かんだ。

ある意味、それは彼にとっては最悪のシナリオだった。
まさかな、と島はその考えを振り払うと、アイツ遅いな、と
思わずつぶやいた。

「アイツって、古代君のこと?」
「ああ、格納庫まで忘れ物を取りに行ったんだが・・・そうだ、
悪いけどアイツを探しに行ってくれないかな。
俺はここを離れるわけにはいかないし、もしかして、どこかで
ひっくり返っているかもしれない。」

なんですって! と森雪が大声を上げる。

「オッと、スマン。言い方が悪かったな。
アイツ、どこかで眠り込んでいるかもしれないんだ。
訓練学校でもよくあったよ。」
島は森雪を落ち着かせようと、慌てて説明を始めた。

「古代の奴、ああ見えてけっこう繊細でね。でっかい訓練だと緊張して
ギリギリまで自分を追い詰めてしまうんだ。
でも、そこからが強いのさ。
そこを突き抜けて自分の力を百パーセント発揮するんだ。
そういう時のアイツは本当に凄い・・・。」
敵わない、と何度も思わされたよ・・・
そう島は言いそうになったが慌ててその言葉を飲み込んだ。

森雪が興味シンシン、といった感じで島の話を聞いている。
彼女の前でだけは、そんなセリフを吐くわけにはいかなかった。

「とにかく、だ。その精神的ストレスはかなりのモノらしくて、厳しい訓練ほど、
終わった途端、緊張が一気に緩むのかそのまま眠っちまうんだよ。
だから今度も・・・
もし寝ているアイツを見つけたら、起こして個室まで連れて行ってやってくれないか。
 なあ、頼んだよ、森君。」



森雪は格納庫に急ぐと、忙しそうに働いている手近な整備員に
古代の居場所を尋ねた。
声を掛けられた男が、アア、それなら、と
格納庫脇のブリーフィングルームを指差した。

「忘れ物をしたとかで【ペルセウス】の操縦席を引っかき回した後、
あそこへ入って行きましたよ。」
「様子はどうだったかしら? 何か気づいた事はなかった?」
サアネェ、と整備員が首をひねる。

「そう言われてみれば、なんだか目の焦点が少し合ってなかったような気が・・・
足元も少しふらついてたかナァ、どうかしたんですか?」

なんでもないの、ありがとう、と森雪は礼を言うと小走りでブリーフィングルームへと向かった。

部屋のドアを開けると中を見渡す。 いない。 古代の姿は無かった。

どこへ行ったのかしら、と部屋を出ようとした時。微かに音が聞こえた。
あらためて部屋を見渡すと・・・いた。
 長机に隠れて見えなかったのだ。
古代は部屋の角隅で壁に体を預け、座ったままで寝息を立てていた。

古代君、と肩を揺さぶるがよほど熟睡しているのか、目を覚ます気配がない。
 それと姿勢が不自然だった。
なんだろう?何かを抱えるようにしている。 
腕の隙間から鈍色の金属が覗いて見えた。
どうやら拳銃のグリップ(握り)のようだが、なぜそんな物を・・・。

その正体がわかった瞬間、森雪はすべてを理解した。

古代進が後生大事に、まるで『お守り』のように胸に抱く拳銃といえば・・・
タイタンで拾ったあの銃しかない。

彼は本当に追い詰められていたのだ。 
きっと彼は、たまらなく苦しかったに違いない。 
だからあの銃に、古代守の形見にすがった・・・。

誰一人として頼ることも出来ず、私という他人の・・・いいえ、私だけじゃない。
乗組員みんなの運命まで背負って飛行機に乗り、
敵の心臓部に殴りこみを掛けようというのよ。

不安になって当たり前じゃない。 
誰かにすがりたくなっても当たり前じゃないの。

でもそんな時、彼が助けを求める事ができたのは、
兄の想い出を呼び起こしてくれるこの銃しかなかったのだ。
なのに私は・・・。

森雪は部屋を横切ると、ブリーフィングルームのロッカーを探った。
確かこの部屋は、ブラックタイガー隊員たちの仮眠室も兼ねていたはずだから。
・・・・・あった。

彼女は毛布を持って戻ると古代の体にそっと掛けた。
そしてゴメンナサイ、と心の中で謝った。

 たぶんエネルギーカートリッジを抜いて、撃てなくしたそれを
飛行機に持ち込んだんだわ。

なんて馬鹿だったの、分かってないのは私の方だった。

なぜ彼の苦しみを理解して、分かち合おうとはしなかったの?
どうして彼の不安を慰めてやれるだけの優しい心が持てなかったの?
なんで私は、彼の孤独な魂を感じ取るだけの余裕がなかったの? 

理由は簡単。 自分の事で手一杯だったから。

何のことはない、私のことを思いやってくれた彼の方がずっと立派。
自分の事しか考えていなかったのは私の方だった。

森雪は古代の、まだ少年の面影が微かに残る寝顔をやさしくなでた。

もうあなたの邪魔はしない。ゆっくり眠ってちょうだい。
あなたは一人なんかじゃない。 私がここにいるわ。
いえ、私にあなたを慰める資格なんかないかもしれない、
・・・でも、せめてこの時だけ、
あなたが目を覚ます時まででいい。 ここに一緒に居させて欲しい・・・。


森雪は、もう一枚の毛布をかぶると古代の隣に腰を下ろした。
そして彼の寝息に耳を澄ます。
その規則的な音に・・・彼女もやはり疲れていたのだろう、
安らかな眠りへと引き込まれていった。

それからしばらく後、室内にパッと明かりがつき、
真田がブリーフィングルームに置いてあった資料を取りに室内に入ってきた。

彼の目に真っ先に入ってきたのは肩を寄せ合い、
座ったまま眠り続ける二人の姿だった。

おやおや、と真田は胸の内でつぶやいた。
 どうやら宇宙戦艦ヤマトの王子様とお姫様は相当、お疲れらしい。
起こしてしまうのも野暮の極み、と言うものだ。
 
真田はそっと足音を忍ばせながら室内を歩き回ると、
目当ての物を探し出し、音を立てないように静かに部屋を出た。


「オイッ!みんな、 作業一時中断、全員集合!!」
部屋の外に出た真田が艦内スピーカーを使って呼びかけると、
ナンだ、ナンダ、と作業員や操縦士たちがぞろぞろと集まってきた。

真田が、誰か赤いペンを持っているか?と尋ねると、
作業員の一人が赤いマジックペンを差し出した。
真田は室内から持ち出したA―3サイズの紙にデカデカと
『立入り禁止!!』、と書くとブリーフィングルームのドアに貼り付けた。

「いいか、お前ら。今からここは立入り禁止だ。分かったか!」

当然、なぜですか?という疑問の声が上がる。

「いい質問だ。それはな、・・・この俺が今決めたからだ。
ちなみに俺は艦長から直々にこの補給作業の全権を任せられている。
つまりこの俺の命令は艦長の命令と同じだ。 
いいか、覚悟しとけよ。 
命令を無視して無断で部屋に入ってみろ。
営倉入り一週間は喰らわせてやるからな。 分かったか!」

ムチャクチャな理由だ。
だが真田の迫力に押されたのか、正面切って反論するものはいなかった。
 が、マタなんかやらかしたのかねェ、とか、
どうせあの人の怪しい発明品でも隠してあるんだろう、とか言う声も聞こえてくる。

・・・お前ら、普段からおれのことをなんだと思ってるんだッ!

自分の日頃の行いを棚に上げ、ムカッ腹を立てる真田だが、
ここで怒っては元も子もない。
なんとか気持ちを静め、作業再開だ、と命令する。

格納庫に、工作艇のエンジン始動音と、操縦士と整備員とのやり取り、
そして怒号を交えた作業員たちの声が飛び交う喧騒が帰ってきた。
真田は、チラッとだけ『立入り禁止』の張り紙を振り返り、
マッタク世話を焼かせるヨ、とつぶやきながら、
人の流れの中へと飛び込んでいった。
 

ブリーフィングルームは完全防音だった。
静まり返った室内では慌しい動きの格納庫とは異なり、
全く時間が流れていないかのようだった。

いや、そうでもない。

非常灯の淡い明かりが照らす静かな空間のなかで、
二人の軽やかな寝息だけが、
時が流れている事を証明するかのように、穏やかに響き続けていた。




佐渡が去って一人になった沖田は、しばらく窓の外を眺めていた。
“痛み止め”の影響だろうか? 睡魔が沖田に忍び寄る。
だが彼はもう少し外をながめていたかった。
艦長室の窓からは惑星が見える。
ヤマトから発進した工作艇だろうか、小さな光の点が列をなして
惑星の方へと音もなく飛んでいく。

その光景に、沖田は幼いころ見た蛍を思い出した。 
今でもはっきりと思い出せる。
父や母と一緒に見たそれは群れを成して、青白く幻想的な光の
乱舞する、この世のものとは思えないほど美しい光景だった。
まだ幼かった自分の息子にこの話をすると、彼は目を輝かせて
自分も見たいと沖田にせがんだものだった。
 
『 お父さんに無理言うんじゃありません。 』 
妻の息子をしかる声がキッチンから聞こえる。 
彼は口をへの字に曲げてダダをこねる。
そんな息子を抱き上げ、笑いながら沖田は約束した。
『 いいとも。 お父さんが悪い宇宙人を追い払ってやるからな。 
そうしたら母さんといっしょに蛍を見に行こう。
 約束するぞ。きっと見に行こう。 』

幸せそうな妻の笑顔。 嬉しそうにはしゃぐ息子の笑い声。 
 甘く、懐かしい家族の記憶。
だがそれすらも、直に苦痛と激しい後悔に充ちたものへと変わる。

結局、自分はその約束を守る事ができなかったのだ・・・。

彼の心の片隅で、閉じかけていた傷がまた開いた。
沖田はその傷口に注ぎ込むかのように、
瓶に残った“痛み止め”を一気にあおった。

もちろんそんな事で傷が塞がるわけではない。

今日だけだ、・・・心の痛みを酒で誤魔化すのは今日だけだ。
だがこの苦しみは・・・いったいいつまで続くのだ?

彼はそう自分に問いかける。 しかし、その答えはとっくに出ていた。
この心の痛みは自分が死ぬ時まで続くのだ。

沖田は空になった小瓶を置き、外の惑星を眺めながらぼんやり想う。
・・・この星にも蛍はいたのだろうか?
そんなことを酔いで、かすんでゆく意識で考えながら、
沖田は眠りの底へと落ちていった。

そして夢を見た。
夢の世界で沖田は、幼い頃の息子と一緒に蛍を追いかけていた。
そんな二人を微笑みながら彼の妻が見守っている。

これは現実ではない。幻(まぼろし)なのだ。
圧倒的な幸福感に押し流されてゆく自分に、沖田はそう言い聞かせた。
・・・だが夢でもいい、幻想でもいい!!
しょせん現実世界では、死んだ人間が生き返ることなどないのだから、
だから、せめて・・・この夢が、長く長く続いて欲しい・・・。

沖田の夢とまるで同調(シンクロ)するかのように、
ヤマトの工作艇やそれを護衛する艦載機たちが、
ホタルのようにまたたき、光りながら、
群れをなして惑星へと、音もなく舞い降りていった。

M26恒星系第二惑星。
その星から照り返す光は、やわらかく、
沖田の安らかな寝顔をほのかに照らし続けていた。



(第一部最終話、終了。)
ぺきんぱ
2002年08月13日(火) 19時42分16秒 公開
■この作品の著作権はぺきんぱさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ

このような駄文に感想をお寄せ頂きました皆様、
本当にありがとうございました。
また、このような機会を与えてくださった
長田様にも感謝致します。
(オオッ、なんかアカデミー賞の受賞スピーチみたいだぞッ。)

さて、今後のことです。
 次回より第二部、解決編を始めたいのですが、う〜ん。
どうも読者の皆様にこの話のオチが見破られているような気がする。
(Alice様、あなたのことですよ。)
そこで、皆様のウラをかくため、
二週間ほどかけて見直しをしようかと思っていますので、よろしくお願いします。

それから8月15日が近づいてきました。
ドンパチ映画が大好きで、自爆テロのニュースを聞きながら
平気で飯が食える自分が言うのもナンですが、

『戦争』というものが小説や映画の中だけで起こる出来事になりますように・・・。


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