第八話 『BATTLE OF THE PLANET』(後編) |
「・・・雪ッ! 雪!大丈夫か?」 誰かが自分の名を呼んでいる、誰だろう? この声は・・・・。 「え、ええ、大丈夫よ。」 薄皮が剥がれていくように段々と意識が覚醒してゆく。 だが頭を動かしたとたん、彼女は鋭い痛みを首筋に感じて うめき声を上げた。 「本当に大丈夫なのか! 無理したらだめだぞ!」 「大丈夫よ、多分軽い鞭打ち症。 我慢できないほどじゃないわ。」 それより状況を教えて、と森雪は古代に尋ねた。 「外が見えないから分からないだろうけど、今、断層内を飛行中だ。 攻撃位置まで後五分ほど。 君が目を覚まさなければ一人でやろうと思っていたんだが・・・ 無事で本当によかった。 航法と通信、それから目標捕捉をやってくれるかい?」 「いいわよ、まかせといて。」 力強い言葉だ。 その言葉を聴いて古代は血が沸き立つのを感じた。 危うく死にかけたが、そう簡単にくたばってたまるか! どこの誰だか知らないが覚悟はいいか? 最後の大仕事だ。 俺がまとめて借りを返してやる。 「爆撃管制システム、再チェック終了。 全システム異常なし。 いつでもどうぞ。」 「了解、攻撃位置まで後20秒・・・5秒前・・・ 3、2、1、アタック(攻撃)!」 古代、操縦スティックを手前に引き機首を引き起こす、 と同時にスロットル全開。 最大推力。 フルパワーで、 ほぼ垂直に急上昇し、断層を飛び出すと爆撃高度を目指す。 だがその時、鋭い警告音が古代の耳を撃った。 ― この警告音は・・SAM(地対空ミサイル)かッ!― 古代の視神経へ、【ペルセウス】後部警戒レーダーからの情報が流れ込む。 『 警告。 後方よりSAM、4基接近。命中まで約十四秒。 緊急回避。緊急回避。』 警告音声と共に、視界の中にフライトコンピューターから回避コースが表示された。 古代、即座に機体を右にひねり、急降下。パワーダイブ。 急激な加速に肺がつぶされ息が出来ない。 ECM(対電子妨害)出力最大。 【ペルセウス】はチャフ(レーダー撹乱物質)とフレアー(熱源体)をばら撒き逃亡を図る。(※筆者注―1) だが警告音の間隔が短くなる。 距離が縮まっている。 ミサイルを振り切れていない! さらに急降下、灰色の大地が迫る。 高度警戒警報が‘墜落する’と悲鳴を上げていた。 ― うるさいぞッ!! まだだ、もう少し待て・・・今だッ!― 古代、千メートルを切った高度で【ペルセウス】の全エアブレーキを展開。 【ペルセウス】、急激にスピードダウン。 ミサイル、ペルセウスを追い越してオーバーラン。 超高速で接近したミサイルは、近接信管を作動させる暇も無く、 反転もできずに次々と地面に激突していった。 古代は失速寸前のふらつく機体を、地上すれすれの所で強力なエンジンのパワーを使い、強引に立て直した。 額のにじんだ汗をぬぐう。 間一髪、間に合った。 古代は機体を水平飛行に戻し、目標への進入を続けていった。 『警告。地上よりのミサイル発射を確認。 七時の方向、SAM、5基接近中。回避せよ。』 コンピューターの警告音声が終わらない内に体が反応する。 フットペダルを踏み込み、操縦スティックを傾ける。 スロットルを最大推力まで押し込むと【ペルセウス】が左上方へ 急旋回を始めた。 ― 敵のミサイルは高速だが機動性に欠けている。― 先の攻撃でミサイルの欠点を見抜いた古代は 【ペルセウス】に、右に左にとジング(※筆者注―2)を踏ませた。 急激な方向転換が頭を揺さぶった。 天地が何度も逆転して遠心力で体中の血液が逆流する。 息が苦しい。 Gが心肺を締め付けて、まるで巨人の足で踏みつけられているようだ。 だが操縦の手を緩めるわけにはいかない。 ダンスをやめた時が死ぬ時だ。 しかし、敵も機動性を高めたミサイルを使ってきたのか。 ミサイルのスピードは先のものほどではないが、 それは獲物を追う猟犬のように距離をジリジリとせばめてきた。 苦しい息の下、古代がつぶやく。 「・・・なかなか・・やるじゃないか。」 ― だが、ミサイルと踊る趣味は無いぜ。― 古代は旋回を終えるとアフターバーナーを点火。急加速。 ミサイルとの距離を稼ぐと対空防御システムを起動、 機体下側の収納ラックから缶ジュース大のラグビーボールに羽を着けたような物体をばら撒いた。 物体は羽を使って滑空、敵ミサイルに接近すると次々と自爆する。 次の瞬間、大気が震えた。 着火剤と、揮発性に優れ極めて燃焼性の強い化学物質とがぎっしり詰まったそれは、 一つ一つが高性能の小型燃料気化爆弾といってよかった。(※筆者注―3) 爆発による強力な衝撃波は二基のミサイルをへし折り、 残りもデリケートな誘導装置にダメージを受けて見当違いの方角へと飛び去っていった。 「・・・ザマアみろ。」 あえぎながら古代は思わず悪態をついた。 額から流れ落ちる汗が目に入り、塩分が角膜を刺激する。 肺が大量の酸素を求め、ゴウゴウと激しい呼吸を繰り返す。 操縦桿を握った腕が鉛のように重い。 体中の筋肉は強張り、痙攣を起こす一歩手前だ。 強烈なGに耐え続けた体力も限界に近かった。 だが、敵は休ませてはくれない。 新たな警告音。 六時の方向、ミサイル4基接近中。 『 前方よりレーダー波の照射が有りました。 敵対空砲の精密照準を受けています。 対空砲の有効射程距離まであと五分、進入コースの変更を勧告します。 』 依然、ミサイルも後方より接近中。 まさしく前門の狼、後門の虎、だ。 ― 爆弾を捨てて逃げるか。― そんな考えが頭をよぎる。 ギリッと古代の奥歯がきしんだ。 なめるなよッ! 【ペルセウス】は運動性重視の機体だが高速性能も捨てた モノではない。 フル・アフターバーナーでミサイルをブッちぎり、 対空砲をかわしてみせる。 問題は帰りの燃料だが知ったことか! ここで敵を倒さなければ俺達にもヤマトにも、明日はないのだ。 彼は気力を振り絞るとアフターバーナーの点火スイッチを押す。 猛烈な加速に古代の体が対Gシートにめり込んだ。 機体を身軽にするため、主翼下のECMポッドを切り離す。 異常な加速度に【ペルセウス】が激しく振動する。 だが、突然にアフターバーナーは停止した。(※筆者注―4) 『 エンジン異常過熱(オーバーヒート)。 リミッターが作動しました。 エンジン冷却の為に、再燃焼装置の使用を一時停止します。』 エンジンに負担を掛け過ぎたか! よりによってこんな時にッ! 古代、フライトコンピューターにリミッターの解除を命令する。 『 否(ネガティブ)。 フル・アフターバーナーの連続使用によりエンジンの爆発が予想されます。その確率、85パーセント。』 コンピューターの警告を無視してリミッターの強制解除も可能だ。 だがしかし、・・・。 彼の全身からは冷たい汗が吹き出す。 古代はバックミラーで後部席を見る。 そこでは森雪が苦しそうに喘いでいた。 SAM警告音が激しい。 チャフやフレアー、対空防御システムも使い切ってしまった。 ― パラシュートで脱出して救出を待つか?― しかし採掘班の時とは違い、ここは敵防空圏のど真ん中だ。 ガミラス襲来の恐れもある。 ヤマトが救出に割く時間も、手段も無いだろう。 恐らく自分たちはこの惑星に置き去りにされる。 古代は覚悟を決めた。 リミッターを強制解除する。 エンジンが破裂するのが早いか、俺が突っ込むのが早いか、だ もちろん森雪には脱出してもらう。 彼女が拒否しても強制射出装置がこちらにはある。 古代は体をひねって後部席を覗き込んだ。 彼の視線に気づいた森雪は苦痛にあえぐ表情を押し隠すと、大丈夫、とでも言うかのように微笑んで見せた。 古代はその笑顔を心に刻んだ。 『 SAM、接近。 命中まで後十秒。緊急回避! 緊急回避!』 フライトコンピューターの警告音声が古代の背中を押す。 時間がない。 ミサイル警報が狂ったように鳴り響くなか、 彼はサヨナラ、と心の内で別れを告げると耐熱シールド収納スイッチに指を伸ばした、その時。 天使は彼らの頭上に舞い降りた。 (第八話、終了。 次回に続く。) ――――――――――――――――――――――――――――― ここからは本筋とは関係の無い、用語解説になります。 説明されなくてもわかっている、という物知りな方は飛ばして下さい。 その用語の使い方や解説は間違っているぞ、というマニアな方は・・・筆者の無知を笑って下さい。(^_^;) ※筆者注―1 【チャフ】 敵のミサイルを誘導するレーダーをかく乱する為にばら撒く物質のこと。 主にアルミ箔の細片などが使われる。 レーダーから身を隠す、電子的“煙幕”または“分身の術”みたいなもんだと思って下さい。 【フレア】 熱源追尾式ミサイルをかわす為の“囮”。 花火のように打ち出されると高熱で燃え上がり、飛行機から出る排気熱を追いかけるタイプのミサイルを引き付ける。 ちなみに、まだ熱源追尾式ミサイル(代表例、サイドワインダーミサイル。)の性能が低かった時代。 コイツに喰いつかれた時、太陽に向かって回避機動をしてやると、ウン百万円もした高価なミサイルは太陽へ向かって飛んでいってしまうことが度々あったそうである・・・トホホ。 それと【近接信管】。 直接、敵に命中しなくても接近しただけで作動し、爆発させる信管のこと。 第二次大戦中に米軍が開発、通称『マジック・ヒューズ』。 こいつのおかげで日本とドイツの飛行機はボコボコにされまくったのであった、合掌。 ※筆者注―2 【ジング】 敵の追尾を回避する時に使用するジグザグな機動のこと。 ダンスステップにも激しい動きをする“ジグ”というものがあるが、どちらも英単語の『zigzag』が元だろう・・と作者は勝手に思ってます。 (イイ加減だナァ・・・。) ※筆者注―3 【燃料気化爆弾】 燃焼性の高い化学物質をミスト状にして空気中にばら撒き、適度に空気と混ざった時点で点火。文字通り爆発的な燃焼が起こり、その時に生じる衝撃波で建物をぶっ壊したり、人間の内臓を破裂させたり、熱線で人を焼き殺したり、燃焼で酸素を奪って敵を窒息死させたり、ついでに残留化学物質で環境汚染まで引き起こす、という残虐、かつご近所迷惑な兵器。 米軍が開発(またお前らか・・・)。 通称『デイジーカッター』。 上記のように、あんまりにもアンマリな兵器なので使用禁止にしようという国際的な動きもある。 よってこの小説の中では対人兵器としては使用しない! (これって偽善かね、やっぱり・・・) ※筆者注―4 【アフターバーナー】 エンジンの排気ノズルに燃料を再注入し、燃焼させる為の装置。これにより更なる加速が得られるが当然、燃料をバカスカ喰う。古代のセリフで『帰りの燃料・・・云々。』というのはこの事を指す。 【ECMポッド】 敵のレーダーやセンサー、無線などを電磁波を発して妨害、無効化する(ECM)装置の詰まった容器(ポッド)のこと。機関砲が詰まっていれば『ガンポッド』。ミサイルの場合は『ミサイルポッド』。象が詰まっていれば『象印○ッド』・・・・スイマセン、スイマセン、スイマセン、(以下、百回繰り返し)。 |
ぺきんぱ
2002年08月08日(木) 00時59分15秒 公開 ■この作品の著作権はぺきんぱさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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