第六話 『BATTLE OF THE PLANET』(前編) |
「全員聞いてくれ。 これより作戦手順を再確認する。 現在本艦は惑星の上空、390kmの周回軌道にあり、 目標の【М・N】へと接近中である。 目標との距離、1〇〇〇kmで攻撃機を射出。 本艦はその後、 目標直上へと移動。 攻撃機の爆撃による目標の動力停止および バリヤー消失を確認後、艦砲射撃により目標を完全に破壊する。 この惑星全体を覆う放射線の発生システムだが、 【М・N】、【М・S】の二つがそろってはじめて機能するもの、 という事が推測されてはいるが、これはあくまでも推測だ。 よって本作戦は、目標の【М・N】破壊後も放射線が消滅しない 場合は直ちに第二目標である【М・S】への攻撃に移行する。」 沖田が通信機に向かい、準備はいいか? 古代。 と、呼びかけた。 『全システム、グリーン。異常なし。 発進準備完了。』 古代の張りのある声が返ってきた。 「君たちの後に無人機を五機出す。 囮だ。それらでかく乱する その隙を突いて接近し、攻撃をかけろ。 くれぐれも慎重に行動せよ。 以上だ。」 【ペルセウス】、発進。 無人機たちを後ろに従え、惑星に降下する。 「大変デス、艦長!【М・N】ノ方向ヨリ小型飛行物体ガ四ツ、 高速デ接近中。 オソラクハ敵デス。 雪サンガ危ナイ!」 森雪に代わりレーダー席に着いたアナライザーが悲鳴を上げる。 「しまった! 奴ら無人機の攻撃から学習したのだ。」 真田は真っ青になって通信機に飛びつくと必死の形相で呼びかけた。 『 古代、聞こえるかッ! 逃げろ! 【ペルセウス】には 対空兵装を着けてない。爆弾を捨てて逃げろ! 早く!!』 「畜生、出だしからこれか・・・仕方ない、引き返すぞ!」 「ちょっと待って、古代君。無人機が・・」 無人機の内、一機だけが編隊を離れ、速度を上げながら前進する。 原因が分からず、ヤマトと連絡を取ろうとした古代の耳に 聞きなれた声が届いた。 『 戦闘班長、こいつらは俺に任せて下さい。』 「・・・山本ッ! なんでお前が! いったいどういうつもりだ?!」 『 加藤隊長の借りを返してやろうと思いましてね。 整備の連中に 無理を言ってもぐり込んだんですが・・・。 でも、こうなっちゃしょうがない。 雑魚はまとめて引き受けますから、後は頼みましたよ!』 おいっ、チョット待て、 と制止する古代の通信は・・・ アッサリ無視された。 「どうするの?古代君。」 「知るかッ、もう勝手にしろ! 部下の監督不行き届きで艦長から罰を喰らうのは俺だぞ! アノ野郎、帰ったらただじゃおかん。」 「そんなことじゃなくて! 山本君の事。 一機だけで 大丈夫なの?」 「フン、そのことか。それなら心配ない。 まあ一応、監視は しとくか。」 古代、遠距離レーダーをオン。 戦闘状況を監視する。 敵機を表す四つの輝きから小さな光点が分離した。 数は八つ。 遠距離用対空ミサイルだろう。 山本機からも光点が四つ分離する。 おそらく囮(デコイ)ミサイルだ。 敵ミサイルの半数が、囮に釣られて山本機からそれる。 残りはそのまま山本機へと殺到していった。 光点が山本機の輝点に重なる・・・。 ように見えた瞬間、弾かれた様に輝点が動き出す。 山本機が回避機動を始めたのだ。 その動きは息を呑むほど激しいものだった。 ループ(宙返り)やターン(回転)。 そんな言葉では表現できない、鋭角で不規則な、まるで猛り狂った稲妻のごとき直線的なパターンを輝点は描いていた。 その動きにミサイルは翻弄され、付いていけなかったものは目標を見失い脱落していく。 そして、全てのミサイルをかわしきった山本機は、敵編隊の 真ん中へ飛び込んでいった。 ― さあ、これからが奴の本領発揮だ。― 古代は心の内でつぶやいた。 編隊を組んだ、集団同士の摸擬戦での山本は大したことはない。 加藤や自分が勝つ。 だが単独機での格闘戦でこそ、ヤツの腕は冴える。 一対四とはいえ、並みの動きではかすり傷ひとつ彼に負わせることは できまい。 だが、次に起こった事は、山本の勝ちを確信していた古代の 予想をも完全に超えるものだった。 山本はミサイル回避時より数段も激しい機動をしてみせた。 どうやったらあの機動に体の感覚がついていけるのだ? とても人間業とは思えない。 敵機は格闘戦にもちこむことさえ出来なかった。 いや、これは‘戦闘’などと言えたものではない。 これは虐殺・・違う、相手は無人機械だから、一方的な破壊行為だ。 ― 腕を上げたと感じてはいたがこれ程とは・・・。― 古代は内心、舌を巻いた。 戦場と言う極限状況が彼の才能を鍛え上げたのか。 月宙域でガミラス機に追いまくられていた頃の‘ひ弱さ’など は何処にも無い。 彼は、獰猛な虎のように敵を蹴散らしてみせた。 山本機が翼端灯を点滅させ、“幸運を祈る” というサインを 出しながらヤマトへと帰って行く。 その光を目で追いながら、古代は山本に軽い嫉妬にも似た感情を 覚えていた。 「ヤマト、こちら【ペルセウス】、大気圏突入15秒前、 キャノピー保護のため耐熱シールドを下ろします。 突入角度、微調整して下さい。 プラス03・・・突入!」 古代はHUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ)に表示される 数値を読み取り、森雪の指示に従い操縦スティックを操作する。 「現在、高度9万、機体外殻温度は約5千℃・・・。 大気速度はマッハ6で正常に飛行中。」 耐熱シールドで遮られているために外は見えないが、 大気との摩擦熱で機体は真っ赤に染まっているはずだった。 「高度2万mに到達。 耐熱シールドを上げるぞ。 耐熱外殻の排除5秒前。 衝撃にそなえろ。 ・・・・3,2,1、排除。」 耐熱タイルで覆った機体外殻を爆薬で排除。 大気圏外飛行用ブースターも同時に切り離し、 大気圏用エンジンを始動させて身軽になった機体を操縦してみる。 ・・・悪くない。 自然と古代の顔に笑みが広がった。 「ヤマト、こちら【ペルセウス】。 順調に飛行中。 すでに放射線影響圏内に入りましたが、両名とも今のところ異常なし。 20分後、断層内に進入します。」 古代、通信を切ると大きく息をつく。 放射線の影響はまったく感じられなかった。 案ずるより生むが易しか・・・。 そう思ったとき森雪が声を掛けてきた。 「上手くいきそうね。」 そうだな、と返事をしようとした次の瞬間、 「ウオッ!」 「キャアッ!」 頭の中に針を打ち込まれたような鋭い痛みが二人を襲った。 だが、その痛みは始まった時と同じように不意に消えてなくなった。 「な、なんだ、今のは? 雪、そっちは・・」 大丈夫なのか、と言いかけた時。 突然それは起こった。 胸に万力で締め付けられるような感覚を覚えると同時に、 心臓が猛烈な勢いで脈動する。 苦痛の叫びが口をこじ開け、酸素を求めて喘ぐが息を 吸い込む事ができない。 急激な血圧の上昇に眼球の毛細血管が破れたのか、 目の前が赤く染まっていく。 ― なんだ?! いったい何が起こった?― 放射線のもたらした猛烈な恐怖の感情は、理性がそれを 感知する時間すら与えず、 彼らの身体に激しい生理反応を引き起こしていた。 そして古代は、津波のように襲ってくる苦痛に巻き込まれ、 抗うことも出来ず、意識は闇の底へと落ちていった。 |
ぺきんぱ
2002年08月02日(金) 22時45分48秒 公開 ■この作品の著作権はぺきんぱさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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