第ニ話 相原。あの加藤機を撃て! |
「おい古代、変だぞ。 加藤が見つからない。」 島は前方障害物警戒レーダーを再チェック。 見落としが無いことを確認する。 「もうそろそろ合流点だ。俺達より先に来ている筈の加藤がいない。」 島は後ろを振り返ると森雪に遠距離レーダーによる捜索を頼む。 「待って島君、レーダーのレンジを上げてみるわ。いいわね、古代君。」 古代は森雪の方を向いて頷いた。 ガミラスの策敵部隊に気付かれるかも知れないが仕方が無い。 「加藤機、確認しました。距離8万5千、12時の方向、上下角+10度、相対速度・・なに、これ?・・・。 加藤機は移動していません。ほぼ停止状態です!」 「相原!!」 「やってますよ!艦長代理・・・これだ! コールサインに応答あり! 加藤機からの通信をスピーカーに回します。」 加藤からの通信は惑星からの放射線の影響か、受信状態が最悪。 ほとんど聞き取り不能。 『きい・・かヤマト・・げろ、近づ・・おれも・・・らと同じ・・・仲間を殺す・・・俺を墜と・・・はやく・・』 「なんだ、いったい何を言っているのか分からん。加藤!おい、加藤!」 「熱反応をキャッチしました。加藤機のエンジン始動を確認、毎秒0.5Gで加速中。真っすぐこちらへ向かってきます。」 「そうか。着艦準備を急げ。佐渡先生、格納庫へ急いでください。加藤の様子がどうもおかしい。」 太田の報告に古代は少しだけ胸をなでおろす。 だが、しかし・・・。 「かッ、艦長代理、攻撃照準波をキャッチしました!ロックされています!」 「なんだと!ガミラスか!? 確認しろ、太田!」 「確認しています! 加藤です。 ブラックタイガーが本艦を狙っています!」 ― そんな馬鹿な!!― 爆発しそうな感情を必死で抑え、古代は島に指示を出していた。 「避けろ! 島! 緊急回避だ!!」 「古代! だめだ。間に合わん!」 ブラックタイガー加藤機、パルスレーザーガンを発射。 射線が第一艦橋をかすめる。 思わず悲鳴を上げる第一艦橋クルー。 「外れた・・いや、外したと言うべきか?」 「どういう意味ですか?真田さん。」 「あの距離で加藤の腕だ。外しようがないのは古代、お前の方が良く知っているだろう。間違いない。 あの惑星上のと全く同じ現象が加藤に起きているのだ。 しかし彼にはまだ理性が残っている。 射線を外したのがその証拠だ。 彼を墜とすわけには行かんぞ、古代。」 「誰が墜とすもんか! でも真田さん。じゃあどうしたら・・ 難題に頭を抱える古代とは対照的に真田は余裕の表情だ。 ― どうやらアレを使う時が来たようだな。― そう胸の内でつぶやくと真田は、相原の方を見てニマァ〜、と笑ってみせた。 相原の背に悪寒が走る。 なんだろう? ものすごーく悪い予感がする。 「まあ、まかせておけ。おい相原、指向性超光速タキオン粒子通信機は使えるか?」 「えっ? あっ、はい、もちろん使えますけど、ソ、それが何か?」 「相原。通信機の出力を0,3にセット。加藤機に向けて放射だ。」 「ええっ!? そんなこと、ボッ、ボクがやるんですかァ!」 「やるんですかあって・・お前以外に誰がいるんだよ、誰が!」 「だって・・・、だってこれ超遠距離の固定目標に使用する通信機ですよ。高速移動する艦載機になんかに使ったことないし、操作性悪いし、それに・・」 「それに、なんだッ?」 真田、語気がだんだん荒くなる。 「こんな近距離で使用して大丈夫なんですか? 出力だって高すぎますよ! 変に当たり処が悪くて加藤さん死んじゃったら、ボク、ブラックタイガー隊員に殺されちゃいますよォ!」 ― な、なんじゃあ、そりゃあ。お前はイジメラレっ子の小学生かッ!? ― 真田は腹が立つやらあきれるやら。 とうとう堪忍袋の緒が切れた。 「バッ、馬鹿かお前は!! 当たるかどうかも分からんのに当たり所を心配してどうするんだ!」 「そんな!勘弁してください。 ボクにはできませんよ!」 まるでらちが明かない。 だがブラックタイガーはそんなことにはお構いなしだ。 「攻撃照準波をキャッチ。加藤機急速接近中、第二撃が来ます!」 太田が真田をせっつく。 真田、あせる。 そして真田の次のセリフが遊星爆弾のように艦内で炸裂した。 「このキン〇マ無しのフニャ〇ン野郎!!」 ― しまった!言い過ぎた。― 次の瞬間、ハっと冷静になる真田。 だが吐いた言葉は戻せない。 後のお祭りピ〜ヒャララ。 真田の頭の中で後悔という言葉がサンバを踊っていた。 「ンッ、ウンッ」 と背後から大きな咳払いの音が聞こえる。 思わず真田が振り向くと森雪が軽蔑の眼差しでこちらを睨んでいた。 他の第一艦橋クルーもポカンと口を開けてこちらを見ている。 ― マズいッ、このままではクールで知的な天才科学者という私のイメージが・・・。― 真田がモゴモゴと言い訳の言葉を口にしようとした時。 第一艦橋が衝撃でゆれる。 今度はかすったレーザーが艦橋の一部を削り取っていった 「チクショウ、さっきより狙いが合ってきた。今度来たらやばいぜ、島。」 古代がうめくように言う。 「ああ、仏の顔も三度までってヤツだな。どうします?真田さん。」 島はチラッと真田達に視線を流す。 その視線に‘コノ役立たず’という色が付いていた、と感じたのは真田のひがみだろうか。 屈辱である。 真田の堪忍袋は緒が切れるどころかズタボロに破け散っていた。 「仕方がない!! 佐渡先生!そちらで一番強烈な酒を持って上がって来て下さい。」 「酒ッて、真田君。まさか?」 「そのまさかですよ、機関長。 度胸付けにはこいつが一番だ。 さあ来たぞ、先生。何を持ってきてくれましたか?」 「“アブサン”ちゅうてな、ニガヨモギから作った蒸留酒じゃ。 『魔酒』ともあだ名される業物じゃよ。」 ひひひ、と笑いながら佐渡がボトルを振る。ガラス瓶の中、ドギつい緑色した液体がゆれる。 「サ、真田さん。まさかそんな怪しげなモノをボクに飲ませるんじゃ・・イ、イヤですよ! 絶対に飲みませんからね、ボクは!」 「ナニイッ、この期に及んで往生際の悪い奴め! よしっ古代、押さえつけろ!」 わかりました、真田さん。と 古代は背後から相原を羽交い絞めにする。 ― 相原、悪く思うなよ。やりたくはないが これも加藤を救うためだ。― 古代、思わず心の中でナムアミダブツとお題目をつぶやいた。 「そんな・・古代さん。ひどい、グワッ・・アグッ、アグッ、アグッ・・・」 真田は相原の口をこじ開けると盛大にビンの中味を注ぎ込んだ。 「コッ、こらっ、そんなに飲ませるな!こいつは貴重品なんじゃ。 二度と地球では造れんかもしれない物なんじゃぞ!」 佐渡が慌てて止めに入るが、すでにビンの中味のほとんどが相原の胃袋へと消えていた。 相原、ようやく解放されたが通信席にへたりこんで荒い息をついている。 「チッ、しまった。飲ませすぎたか・・・ 仕方ない。おい南部、ちょっと来い。」 「チョッと来いって・・・まさか俺にやらせるつもりじゃないでしょうね? 勘弁して下さいよ。 通信機なんて訓練学校以来、触ってもいないんですよ!」 「ええいっ、まったく、どいつもこいつも! ン? なんだ?」 通信席に突っ伏していた相原の口から声が漏れ、 ゆっくりと顔がもち上がる。 「フッ、フフッ、フフフフフフフフフフフフフフフフフ・・・・・。 」 一見してヤバイ雰囲気というのが分かる。 が、それでひるんでしまうヤワな神経の真田ではない。 「オオッ、相原。無事だったか! 加藤が戻ってくる。 早速頼むぞ!」 「・・・“お願いします” でしょ?」 ボソボソと相原がつぶやいた。 「なにっ???」 何かの聞き間違いかと真田が耳を寄せた。 「 “お願いします。加藤機を狙って下さい、相原様。” は、どうしたんだと聞いているんだよ、このボケッ!眉毛なしの角刈りマッドサイエンティスト!」 「ナ、ナ、ナッ、 きっ、きさ、きさ・・」 真田は『なんだと、貴様。』と言いたいのだろうが、怒りと驚きの あまり後が続かない。 「手足に爆弾ブチ込んでるアブないヤローが 偉そうに指図するんじゃネェ、て言ってんだよ! アホンダラッ!!」 先の真田の発言が遊星爆弾なら、相原のは波動砲級の衝撃だ。 真田を含め乗組員一同 ・・・・・・・・・・・・・・・・沈黙。 次の瞬間。ウワーッ、と第一艦橋クルーは心の中で思わず 頭を抱えてしまった。 まあ、相原の言ったこと、 基本的には間違いではない。 しかし世の中、心の内では思っても、言って良い事と 悪い事があるものだ。 もちろんタイミングも最悪。 しかし言ってしまったものはしょうがない。 ここは何とか真田をなだめなくては、と古代は助けを求めて 艦橋内を見渡した。 徳川さん! は、ワシはもう知らん、とアキレ顔。 南部!・・・は、さわらぬ神にタタリなしと聞こえなかったフリ。 太田は、おろおろと相原と真田の顔を交互に見ているだけ。 島からは、俺は操縦に忙しいんだよ、と露骨にイヤな顔を されてしまった。 なんだってんだ、チクショウ! 何でもカンでも俺に押し付ければいいと思いやがッて!! こんなことなら艦長代理なんか引き受けなきゃよかったと、 古代は泣きたい気持ちで後ろを振り向き頼みのツナに顔を向けた。 母親にすがる子犬のような目をする古代に、シカタナイワネ、 とばかりに森雪はフゥーと大きくため息をつくと古代の横に立った。 「サ、真田さん。 お気持ちは分かりますけど、場合が場合ですからッ!!」 「そうよ、古代君の言うとおりよ。ここは抑えて、ねっ、ねっ。」 「そ、そうか、わかった・・・。悪かったな相原、よろしく頼む。」 と頭を下げる。 しかし頬がヒクついているのと、こめかみに太い血管が浮いて いるのがマル分かりだ。 「 “相原様”だろ? 」 「・・・・・・・。」 「真田さんッ!!」 「加藤を狙って下さい! どうかお願いします! 偉大なる 我らが相原様!」 もうヤケクソな真田だった。 ヨシ、ヨシと満足げな相原。 「ヨーシッ 南部! 射撃管制コンピューターの回線、 切り換えてこっちによこせ! それから太田! 位置測定を正確にやれ! 加速度と推進ベクトルの方向をまちがえるなよ!」 「はっ、はい。」と南部。 「りょっ、了解。」慌てて太田も答える。 相原、射撃管制コンピューターの支援と太田からの観測データ を受けて、通信席のジョイスティックを操作。 加藤機を精密照準、ロックオン。 「シュート!(発射!)」 叫んだ後、相原は満足げにニヤリと笑い、そのまま通信席で ぶっ倒れた。 ・・・・ご苦労様。相原通信班長。 加藤機はレーザーを発射せず、第一艦橋のすぐ脇を後方へと 飛び去っていった。 「加藤機、六時の方向へ。」 太田は報告をした後でオヤッという顔をする。 「ブラックタイガーのエネルギー反応微弱、どうやらエンジンが 停止した模様です。」 「どういう事ですか?真田さん。」 古代が不思議そうに真田に尋ねた。 「フフン、以前俺はタキオン粒子を利用した電子戦装置を 研究していたんだ。 タキオン粒子には面白い性質があってな。 光電子機器に浴びせると強力な電磁パルスと同じくそいつを オシャカに出来るんだ。 違うのは対電磁波用のシールドをタキオン粒子は楽々とすり抜けることだ。 しかも人体には殆んど影響がない。」 どうだ、スゴイだろう。 と真田は胸を張る。 彼はいつの間にか機嫌を直して楽しそうに答えていた。 「そいつはすごい! 実用化できたなら究極の防御兵器 じゃないですか! でもどうして駄目だったんですか?」 島が興奮気味に質問した。 それがナア、と真田は嘆く。 「波動エネルギーをものすごく喰うんだよ、こいつが。 現状ではそれを使うより、衝撃砲やパルスレーザーを 撃ちまくった方がよっぽど効率的なんだ。死人は出るがな。」 古代も残念そうにため息をついた。 「まあ、とにかくその装置をずうっと小規模にしたのが 指向性タキオン粒子通信機だと思ってくれていい。 加藤機の光電子機器は全て狂っているはずだ。エンジン停止が その証拠だな。多分、エンジンが暴走して安全装置が 作動したんだろう。」 「でもそんなものを使われて加藤君、大丈夫なのかしら?」 森雪が心配そうに尋ねた。 「なんだ雪、聞いてなかったのかい? 人体には影響がないんだよ。そうですよね、真田さん。」 「ウッ・・うん。まあな、人命に影響は無い。俺が保障するよ。 ・・・ちょっと副作用はあるがな・・」 「えっ、何ですか真田さん。後半がよく聞こえなかったんですが?」 「イヤ、その・・・。 それより古代、加藤をどうする?」 「おっといけねー、忘れてた。 おい山本、加藤を回収だ。 機体は漂流状態で武装も使用不能だから安心しろ。」 「じゃが問題は着艦後じゃ、油断するな。 麻酔銃を用意 しておけよ。 操縦席から出たとたん、きっと暴れだすぞ。」 と、佐渡から注文がでる。 「何とか切り抜けたな、古代。 だがこれからどうする?」 島が操縦を自動に切り換えると席を立ち、厳しい表情で 古代の方へと歩み寄った。 「とにかく情報不足だ。 真田さんや佐渡先生の分析結果を 待とう。でないと次の行動に移れん。」 「それまで彼らがもつかな?」 島はパネルに映った採掘班の医療データを見上げながら 古代に尋ねる。 分からん、と吐き捨てるように答える古代。 艦長の代理。その重圧が彼の両肩に重くのしかかってきていた。 |
ぺきんぱ
2002年07月14日(日) 22時46分01秒 公開 ■この作品の著作権はぺきんぱさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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