第一話 システム、覚醒。


 「よーし、予想通りだ。古代。無人観測機からのデータに
 よると、この星には鉱物資源がたっぷりある。 
 それと雪、朗報だ。わずかだが植物が生き残っている。
 それも地球型に近い型だ。」
 「えっ、本当!」 森雪の顔がパッと輝いた。
 「そうこなくっちゃ! よし、真田さん。早速、作業員たち
 を出しましょう・・・真田さん?」

真田は腕を組み宙をにらんで思案中である。
 
 「なあ、古代。少しおかしいとは思わないか?」
 「何がです?」
 「なぜここにはガミラスの資源採掘基地がないんだろう?恒星系の位置から考えてもバラン星基地建設、維持のための
 資材を調達するのに絶好の場所の筈だ。 なのにここには基地が無い・・・なぜかな?」
 「多分、物資はバラン星で採掘したんでしょう。」
 「いや、それは違うな。 あれほど大規模な基地を建設、維持
 するためには膨大な物資が必要だが、それをまかなえるような
 採掘施設はあの星には無かった。 それに分析の結果、バラン星
 には重金属類がほとんど埋蔵されていない事が分かっている。」

 「もっと近くに都合の良い惑星があったのじゃないかな。」
島が操縦席から口を出した。
 「だとしたら我々はその惑星を見逃したことになる。
 そんな筈はないのだが・・・。」
 「とにかく時間が無いんだ。グズグズしているとガミラスが襲ってくるかもしれない。真田さん、はっきりしないことを気に病んでもしょうがないでしょう。
 まずは偵察も兼ねて少人数の採掘班を降ろしましょう。」

古代が議論に一応のケリを付けて、 おい、格納庫。と呼びかけた。
格納庫、採掘班員の声がスピーカーから流れる。
 『みんな!用意はいいか?  OK。 いつでも行けますよ、
 艦長代理。』
 「よし、作業班Aだけ先に降ろす。残りは待機だ。作業班A、聞こえているな。」
 『感度良好。何ですか?艦長代理。』
 「この星には不審な点がある。少しでもおかしいと思ったら
 直ちに報告、帰艦するんだ。 繰り返すぞ。
 こちらでも監視するが、少しでもおかしいと思ったら
 すぐに帰ってこい。」

 作業艇、発進。 降下飛行は順調なようだ。
 「相原。作業班とはこまめに連絡をとれよ。」
 「やってますよ。・・・おっと、来ました。作業艇、無事着陸。現在作業班を展開中。」
 「おい!加藤はいるか?」 古代、もう一度格納庫に呼びかけた。
 『いますよ、戦闘タイ・・じゃなかった、艦長代理。』

遠くから、お偉くなっちゃって・・とか、柄じゃねえぜ、といった声が忍び笑い交じりで聞こえてくる。

 「おい聞こえてるぞ、お前ら。」 
 ・・・まったくアイツらときたら。 
 「加藤、念のためだ。作業艇上空の哨戒を頼む。」
 『了解!ブラックタイガー加藤機、発進します!』
加藤機、発進。作業艇上空、高度4000m。哨戒位置につく。

 「取り越し苦労だったかな、古代。」 
真田は少し照れたような微笑を浮かべて古代を見やる。
だといいんですがね、といいながらも少しホッとして気持ちが緩んだのも確かだった。

  だが、異変の兆候はすでに現れていた。 
  そしてそれを最初に告げたのは、相原だった。

 「艦長代理。ちょっと良いですか?」 
古代が通信席に近寄ると相原は自分のヘッドセットを差し出した。
古代がそれを被るとそこから雑音交じりではあるが、
規則的な電子音が流れてきた。

 「相原、これは一体何なんだ?」 
相原はその質問に解りません、と答えた。
 「デジタル信号の一種ですが、時間をかけて詳しく分析しなければ何を意味 するものかはチョット・・・。 ただ何かのメッセージではないでしょうか。 全く同じ内容の信号が先ほどから
 約90秒の間隔で繰り返し流されています。」
 「発信源は?」
 「この惑星のどこかです、もう少しで特定できますからチョット
 待って・・・。」
オヤッ、という表情をした後、相原は通信機を慌ただしく操作しだした。

 「どうした、相原。 何かあったのか?」
 「信号が切れました。 発信源は残念ながら特定できませんでした・・・しかし信号は完全に記録されましたので内容を分析すればある程度のことが・・・」

相原がそこまで言ったとき。 なんだこれは、という驚きの声が上がった。 太田の声だ。  
興奮のため声の調子もうわずっている。

 「艦長代理! 惑星表面にエネルギー反応確認! 位置はこの惑星の南北両極、二ヶ所です!」
素早く観測機器を操作し真田も報告を叩き出す。
 「こちらでも確認した。それだけじゃないぞ、古代! 未知の放射線が地磁 気の様に惑星全体を覆いつつある。
 発生源は・・クソッ、やっぱり南北両極だ。」

それに佐渡医師の声がかぶさった。
 『こちら医務室だ、古代! 作業員達の医療モニターが悲鳴を
 上げとるぞ! すぐに引き揚げさせるんじゃ!』
古代は艦内ブザーのスイッチを押す。スピーカーが吼える。 
古代の反応は素早かった。

 「相原、引き揚げだ!すぐに連絡を取れ!」
 「そっ、それが、さっきからやっているのですが応答ありません!」
 「呼び出しを続けろ! 応答があるまでやるんだ!!」 
その時、第一艦橋に加藤からの報告が飛び込んだ。
 『ヤマト!ヤマト! こちら加藤。 聞いているか? 艦長代理。』
 「聞いているぞ、加藤。報告しろ。」 古代が切り返す。
 『作業班上陸地点でコスモガン発射反応多数を確認。
 銃撃戦と思われる。これより 降下して偵察および援護を行う。
 以上。』  
報告する加藤の声が、冷静すぎるほど冷静だった。
それが古代の不安をかきたてる。 
おそらくはただの銃撃戦ではあるまい。

― 加藤の奴、何かを感じているな。―
殺るか、殺られるかのドッグファイトを数え切れないほど
切り抜けてきた彼だ。
危険を嗅ぎ分ける嗅覚はいつも驚くほど鋭かった。
そしてそんな時。 彼のいつもの陽気さは消え、
氷のように冷静になるのだった。

 「よしっ、分かった加藤。気を付けて行け。 総員戦闘配置!」 
艦内では非常配置を告げる警報が鳴り続けていた。
 「ガミラスか?古代。」 島が尋ねた。
 「まだ分からん。おれは艦長に報告してくる。」
沖田の声がスピーカーから流れた。
 『その必要は無い。古代、事態は艦長室でモニターして
 分かっている。お前はそのまま指揮をとれ。頼むぞ。』

 「分かりました艦長。 よし、とりあえずは加藤の報告を待つ。
 相原、作業班への呼び出しは続けているな。」
 「はい。しかし、未だ応答ありません。」
 「そうか・・佐渡先生、作業員たちの様子はどうですか?」
 『まだ生きとるよ。 だが頭の中はむちゃくちゃじゃ。
 こんな脳波パターンは初めて見た。 とにかく一刻も早くここにつれてくるんじゃ。』
 「分かってますよ、先生。でも・・」
古代の返答に加藤の声が割って入る。

 『ヤマト、ヤマト、聞こえるか? こちら加藤。』
 「古代だ。加藤、何か分かったか?」
 『同士討ちだ。』
 「なにッ? 加藤、今なんて言った!」
 『同士討ちだよ、艦長代理! あいつら仲間同士で撃ち合ってやがんだよ、古代!』
加藤の感情が暴発していた。
 「そんな馬鹿な!」
 『疑うのか、古代! だったらお前が降りてきてその目で見やがれッ!! 畜生ッ!さっきまであんなに仲の良かった連中が・・・どうなってんだよ、古代!』
 「分からん! とにかく加藤、お前はその空域から早く離れろ。
 ヤマトも離脱する。座標を送るからそこでランデブーするぞ、
 急げ!  おい、島!」

 「了解。機関長、波動エンジン出力上げてください。
 底部バーニア全力噴射! 重力アンカー、カットオフ!
 非常用慣性中和システム起動開始! 
 上げ舵いっぱい、高度七万まで上昇する!」

島がてきぱきと指示を出す。 プロの手並みと言うべきだろう。
その冷静かつ的確な躁艦は浮き足立った第一艦橋クルーに落ち着け、と促すようだった。

G警報が鳴り響く中、ヤマト、波動エンジン全開。急速上昇、惑星
上空より全速離脱。
 「島、加藤との合流点までどのくらいだ?」
 「このまま加速を続けていけば、後五分だな・・・なあ、古代。」
 「うん?」
 「加藤の言っていたこと、本当だろうか?」
 「・・・・」 古代、言葉が出ない。歯を食いしばっている。
 「・・俺の責任だ。」 真田がうめくように言う。
 「真田さん!?」
 「俺がもっと調査に身を入れてれば・・無人機なんかに任せずに
 俺自身が行っていれば・・飯田、関、・・岡本・・」
両拳をコンソールに叩きつける。肩がわずかにふるえていた。

 「真田君、あきらめてはいかん。」 徳川が真田を慰めた。
 「そうですよ、真田さん。彼らはまだ生きている。
 今は救助に全力を尽くすべきです。
 責任を負うなら採掘命令を出したのは僕です。僕の責任なんだ。」
 「古代・・すまん。」
 「早速、救出計画を練りましょう。太田、医務室から医療モニターのデータはもらっているな?」
 「はい、リアルタイムで回してもらっています。今パネルに
 出します。」
上部スクリーンの右端に採掘班六名の医療データが表示される。

― 待ってろよ、必ず助けるからな。― 
真田はそう誓いながら今はただ、パネルを見上げるしかなかった。

ぺきんぱ
2002年07月09日(火) 22時39分49秒 公開
■この作品の著作権はぺきんぱさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
さて、今回は用語説明から行きましょう。

 と、その前に。偉そうに用語解説なんかやってる作者ですが、二流大学の法学部卒でその知識は科学解説書で読んだにわか仕込みのものですので眉毛にツバをたっぷり付けてからお読み下さい。
以上、作者からのお願いでした。
では、本題に戻りまして。

‘慣性中和’ですが、これは物体の慣性質量を減らす、又はゼロにしてしまう事だ、と思ってください・・・と言っても分かりにくいですよね。ソコデッ! ここに一人の『コニシキ』がいた、と思ってください。彼にとって走るという事は大変なことです。なにせ二百キロを超える体重(慣性質量)で走らなければならないのですから、大変な体力(エネルギー)が要ります。そこで‘慣性中和’の登場です。すると、ア〜ラ不思議、あらフシギ。『コニシキ』は体力はそのままだが体重が四分の一の五十キロになります。 ヨーイ、ドン。早い。『コニシキ』早い!スピードが四倍になりました!
今、一着でゴールイン! やりました『コニシキ』、金メダル! 
ネッ、分かりやすいでしょ。(どこガッ!)『コニシキ』を『ヤマト』に変えるとよりいっそう分かりやすいかと思います。 えっ、なになに?どういう仕組みで慣性質量を減らすのか、って? それはねッ・・・それは聞かないでやってくだせぇ、お代官様ァ〜!!まあ、これはイスカンダルの超科学のなせるワザ、ということで勘弁して下さい。

次に‘重力アンカー’ですが。パート2の『宇宙ホタル事件』でも分かるようにヤマトは重力制御が可能なようですから、惑星から受ける重力と正反対の方向に、同程度の重力を働かせれば、ちょうどバランスが取れて惑星へと落下することなく上空に留まっていられる、とまあ、こういう理屈です。そしてこの‘重力アンカー’をカットすることによってヤマトは・・・ヤマトは・・アレッ?
カットしないほうが素早く上昇出来るのでは・・・ マッいいか。
(よくナイッ!)
ハイッ!これで用語解説はオシマイ!
次回、第二話『相原。あの加藤機を撃て!』
で、お会いしましょう。それでは皆さん、お休みなさい!

この作品の感想をお寄せください。
(失礼しました)↓先に読み進めます。それにしても同士討ちとは…。一体これからどうなるのかと、期待度120%です。 Alice ■2002年07月11日(木) 09時36分40秒
第1話から、この緊張感!ストーリーもテンポがよく、ずんずzn Alice ■2002年07月11日(木) 09時35分16秒
セリフ廻しが、1の雰囲気が良く出てて楽しいです。タイトルもいいですね^^ 長田亀吉 ■2002年07月11日(木) 08時09分37秒
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