序章 断絶の100光年
 時に西暦2199年、地球は謎の星「ガミラス」の遊星爆弾による放射能汚染により、人類滅亡まで後一年と追い詰められていた。
 地球で最初に光速を突破した宇宙戦艦ヤマトは、放射能除去装置を受け取るため14万8千光年彼方の星、「イスカンダル」へと旅立った。
 ガミラスの妨害や襲い掛かる大宇宙の自然現象をはねのけ進むヤマトの前に立ちふさがる「宇宙の狼」ことガミラスの名将ドメル将軍。
 自らの命を犠牲にしてもイスカンダルへの航海を阻止せんとするドメルをヤマトは七色星団において打ち破った。 だが、その代償もまた大きかった。
 今、ヤマトは物資の補給と修理のためある惑星へと立ち寄っていた。



「いったいどういう事なんだ?島。」
中央大作戦室床面大パネルを見つめる第一艦橋クルーの中で、まず最初に古代進が口を開いた。
「どういう事って、古代。航路は間違っちゃいないよ。」 そう言うと島大介は、どうだ、チェックできたかと太田の方に顔を向けた。 
「はい、航海長。三度も繰り返しましたが間違いは有りません。 ここが資源採集予定のM26恒星系第二惑星です。」
「じゃあこれをどう説明するんだ。そっちがワープ前に確認した映像。」
古代、緑豊かな惑星の映像を指差した。
「こちらがワープ終了後の現在の映像だ。ぜんぜん違うじゃないか。」
古代の足元、視線の落ちた先には赤茶けた地表を持った惑星の映像があった。とても植物が生息しているようには見えなかった。
「とにかく航路設定にミスは無い。ワープインもアウトも完璧にこなしたんだ。」 後は事前観測のミスしか考えられない、そう島は言葉を締めくくった。 「そうですね・・・それにこの惑星の恒星までの距離も遠すぎると思いませんか?」 太田はパネルにM26恒星系の概略図を表示させた。 「恒星から第二惑星・・つまり我々の目の前に在る惑星のことですが・・その距離は約2.5天文単位。おおよそ3.5億kmの位置にあります。」 次に太田はパネルの概略図に太陽系の図を重ねて見せた。 「一天文単位はご存知の通り太陽系の太陽から地球までの平均距離を基にしています。つまりこの惑星は恒星までの距離が地球の約2.5倍遠い距離に在ります。 火星よりも遠い位置ですよ。」 太田はパネルを指し示し、惑星と火星との位置を比較して見せた。 「恒星M26の絶対等級は5.2等級。地球とほぼ同じ明るさですから放出されるエネルギー総量も似たようなものでしょう。 光は距離の二乗に反比例して拡散しますから、2.5の二乗、つまりこの惑星は地球の約6.25分の一のエネルギーしか受け取れない事になります。」 
 だから、なにが言いたいんだ? と古代がややいらだたしげに聞いた。
「つまりですね・・この惑星の植物が地球のそれと同じく光を使った光合成をするならば、この程度のエネルギーであれほど植物が繁殖するのはオカシイ、と思うのですが・・・。」 太田は映像を緑の惑星に切り替えると首を捻りながら、やっぱり観測ミスじゃないでしょうか、とつぶやいた。 それに古代がかみ付いた。 「なんだと、お前ら! 雪のせいにするつもりか!」 「やめてよ、古代君! 太田君、島君。悪いけど観測にミスが無いのはこちらも確認済みよ。」 でも、と森雪は表情を曇らせながら言葉を続けた。 「本音を言えばミスが有って欲しかったわ。」 観測ミスであれば正しい目的地へと航路を修正すれば良い。だが、当てにしていた惑星がこの有様では・・・。
傍から見ても落胆しているのがはっきりと分かる。気のせいか顔色も良くないようだ。 「森君、そんなに悪いのかね?食料事情は。」徳川機関長が彼女を気遣うように聞いた。 「ええ、この前の戦いで貯蔵庫に爆弾が当たって・・もう三週間分しか残っていないの。」 
だが、本当の心配事は糧事情の問題ではなかった。 生命維持の為の艦内環境制御システムは破綻寸前の状態にある。 艦内の廃棄有機物(簡単に言えば生ゴミや乗組員たちの排泄物だ。)や二酸化炭素を吸収、分解して酸素や水を供給してくれていた強化藻類と微生物は培養装置と共に壊滅した。かろうじて生き残ったものを生活班員たちが必死になって増やしてはいるが増殖スピードが遅い。養分が足らないのだ。なんとしてもこの惑星で養分となる有機物を補給したかった。 だがそれが不可能となると最悪の場合、ヤマトの生命維持サイクルが崩壊し、乗組員たちはただ艦内物資を消費するだけとなり、やがて水、酸素、食料、その全てが不足する。 そしてその後は・・・。 森雪はそのことを想像したくなかった。しかし、見えない恐怖は彼女の精神をじわじわと締め上げていく。職務が忙しいせいもあるがここ2,3日、ほとんど眠ることができなかった。 そんな彼女を古代と真田が心配するなと慰めた。なにも地表に在る物だけが有機物ではない。石油という形で地下に埋まっている可能性だってあるのだ。 「こっちも同じだ。 あのガミラス艦が自爆したおかげで修理資材の殆どが吹っ飛んだ。 まあ、こっちは地面の中身に用事があるだけだからな・・・しかし、古代。」 真田が古代に警告する。 「なんですか、真田さん。」「我々は、約100光年の距離をワープしてこの惑星にたどり着いた。ワープ前の映像はその時の光学観測によるもの、つまり100年過去の姿だ。その100年の間にこの惑星で何かが起こった・・充分注意した方がいいな。」「そうですね、真田さん。」 古代はそう答えながら赤茶けた惑星をじっと見つめた。 なぜだろうか。 彼はその映像からしばらくの間、目を離すことが出来ないでいた。


 ガミラス大帝星。総統府内中央作戦室では総統デスラーが側近の幕僚たちと共に、来るべきヤマトとの本土決戦の机上演習が行われていた。 作戦室中央大パネルではヤマトとの戦闘がシミュレートされている。画面をデスラーは厳しい表情で見つめていた。その時、副総統のヒスが背後から近づいた。
「ご報告します。デスラー総統。」 デスラーは不快な表情で振り返った。 
「緊急の場合以外は邪魔をするな、と言っておいたはずだが。」 「ハァ、あの、しかし・・お喜び下さい、総統。ヤマトが不可侵星域bUに入りました。
おそらく修理と補給の為と思われます。ご存知の通り、あの星域から無傷で帰った者はおりません。これは偉大な総統閣下を助ける為、ガミラスの神々の与えたもうた御加護です。」 フッ、と笑いながら視線をパネルに戻し、彼はヒスに尋ねた。 「ヒス君、教えてくれ給え。」「ハッ!?」「我が大ガミラスは、何時から神頼みを必要とするまでに落ちぶれたのかね?」「ハッ、あの、それは・・。」「勝利は自らの手で掴んでこそ価値のあるものだ。そのための作戦を今、ここで練っているのだよ、ヒス君。 分かったら出て行きたまえ!」「ハッ、総統万歳!」 慌てて退出するヒス副総統。 「馬鹿めがッ。」 彼の両拳がきつく握り締められていた。
ぺきんぱ
2002年07月07日(日) 19時25分57秒 公開
■この作品の著作権はぺきんぱさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
えー、お初にお目にかかります。‘ぺきんぱ’と申します。 SFですか、SFなんだよなァ。作者の自分が言うのもなんですが・・・ちゃんとSFになるんでしょうか?ヒデエ作者だなぁ(^‐^;)  しかしッ! 総統閣下もおっしゃられる通り、(作者が言わせてんだけどね)勝利はオノレの手で掴むもの。日々是精進、であります!
 皆様、どうか暖かく見守って下さいませ。
あっ、そうそう。ここで用語解説を一つ。「絶対等級」ですがその意味は・・・恒星の絶対的な明るさの事です、ッてそのマンマやんけ! え〜と、つまりですね。遠くにある恒星は暗く見えます。近くにある恒星は明るく見えます。このような距離による影響を排除して、恒星本来の明るさのみによって等級付けたものを「絶対等級」と言います。見かけの明るさだけで格付けしたのが、ただの「等級」というわけです。みなさん、分かりましたね。もちろん‘ぺきんぱ’も理解してますよ・・・多分。(オイオイ) さてこのお話は週一回のペースで更新していきたいと思いますので、皆さん。来週もまた読んで下さいねェ〜! ウガッ、ウグッ。

 /(´o`)\
 マッタク、 なにを書いてんだか・・・。

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100光年のワープをすると、辿りついた先は100年の時を経ている…、改めて考えてみるとな〜るほどなんですが、今までそんなこと、思いもしませんでした。星の等級についても、遥か昔、授業に出てきたような…。(でも、全く忘れていた)SFテイスト満載で、しかもタメになる。アクセスの楽しみが、また1つ増えました。 Alice ■2002年07月08日(月) 21時40分17秒
楽しめそうなお話がまた増えて、嬉しいです。これからが楽しみです。頑張って下さい。 ヨッシ! ■2002年07月08日(月) 15時20分55秒
なんだか続きが気になりますね。これからどうなっていくのか、楽しみにしております。 じゅう ■2002年07月08日(月) 00時23分17秒
うん、充分浸れます、この世界!七色星団でのヤマトの壊れ方からいけばありそうな話ですものね。説得力も完璧。頑張ってくださいね^^  長田亀吉 ■2002年07月07日(日) 23時26分54秒
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